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東京に長屋が急増?頻発する地域住民とのトラブル、災害時には高い危険も

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 そもそも建築の憲法ともいうべき建築基準法には、長屋の定義すら存在しない。ただ、東京都建築安全条例第10条には、「特殊建築物は、路地状部分のみによって道路に接する敷地に建築してはならない」と明記されており、この特殊建築物にマンションなどの共同住宅は含まれるが、長屋は含まれないという解釈になっている。高さ制限を除けば、理屈の上では50階建てであっても問題なしとして扱われる。長屋は共同住宅とは異なり、それぞれ独立した1階の玄関から直接避難できるために、建設を許されている。

 共用の廊下や階段、エレベーターがなく、すべての住戸が1階にあり、縦に連なる長屋のことを「重層長屋」と呼んでいる。2~3階建ての長屋が都内各地に建設されている。

 本来建つはずがない共同住宅と同等の建物を敷地面積いっぱいに建てることができるわけであるから、重層長屋を建てる事業者が飛びつくのもうなずける。数年前からアパート投資に関する手引き書がいくつか販売され、しかも世田谷区が狙い目の土地であると紹介されたことで、重層長屋が世田谷区に集中している。

●重層長屋は、火災時に被害拡大の危険

 だが、そういった状況の中で、近隣住民との摩擦も目立ってきている。

 世田谷区にある重層長屋の近隣住民は「初めて見た人は誰でもマンションだと思いますよ。それを共用の廊下や階段を有しないだけでマンション同等の建物が建設されるなんて、納得ができません」と憤る。

 近隣住民が何よりも心配しているのは、重層長屋で火災が起きたらどうなるのかということだ。そもそも路地状敷地に共同住宅が建てられないのは、火災などで入居者や周辺住民の安全が確保できないからだ。それは構造が同じである重層長屋も変わらないはずだ。むしろ長屋は、避難口を2カ所設けなければならない共同住宅と違い、一方にしか通路がないため、避難するのが困難になり、災害時はパニック状態になることが考えられる。むしろ共同住宅よりも火災時は危険が付きまとうのだ。また避難通路の幅が狭く、消防車も中まで入れないことで、当然、消防活動も不十分になり、火災が周辺に拡大する恐れもある。

 路地状敷地において重層長屋の建設で近隣住民とのトラブルが頻繁に起こっていることを受けて、東京都都市整備局が調査したところによると、09年4月から12年3月末に建築確認を取得した延床面積300平米以上の路地状敷地における長屋は、東京都全体では毎年20%増の勢いで急増し、その数は368件に及ぶ。中でも世田谷区は51件と、ほかと比べて突出していることが明らかになっている。練馬区20件、足立区19件、江戸川区17件、八王子市16件、中野区16件、杉並区15件と比べても世田谷区は群を抜いている。

●法整備等の対策が急務

 東京都は、路地状敷地に建設された重層長屋に問題があることは認識している。12年2月6日には特定行政庁に向けて、建築確認時に通路の有効な幅の確保やロフトで居室転用がないかなどを確認し、建物が違反している場合は是正指導を行うことを文書で通達している。

 しかし、東京都は「現在のところ安全条例の改正はない」とのことだ。

 東京都はいずれ来るであろう直下型地震とそれに伴う大火災に備え、「木密地域不燃化10年プロジェクト」を動きださせている。路地状敷地の重層長屋を放置することは、東京都が推し進める災害対策に逆行している。路地状敷地で共同住宅を規制しているのは、火災があった時に危険だからであり、建物構造がなんら変わりない重層長屋も規制されるべきという近隣住民の声は至極当然といえる。

 しかし、すでに問題は各地に拡散している。世田谷区や文京区などで建築確認取り消しの採決が下され、新築工事がストップしているケースがあるという。例えば、新宿区下落合のタヌキの森と呼ばれる屋敷跡に建設された重層長屋について、09年12月に最高裁で「災害や火災時の安全性が不十分」として、建築確認の取り消しの判決が下され、完成間際の建物がそのままの状態になっている。

 法整備をするなど、早急に手を打たなければ、このままでは各地の路地状敷地に重層長屋が拡散する恐れもある。
(文=藤池周正/ジャーナリスト)

BusinessJournal編集部

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