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ローランド、創業者が突然のMBOに猛反発「ファンドによる乗っ取り」株主に不利益も

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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ローランド、創業者が突然のMBOに猛反発「ファンドによる乗っ取り」株主に不利益もの画像1梯郁太郎氏が理事長を務めるローランド芸術文化振興財団のHP
 電子楽器の老舗・ローランドが、全株主から全株式をTOB(株式公開買い付け)により買い取り、上場を廃止することを5月14日に表明してから約3週間が経過した。ローランド代表の三木純一氏が代表を務める常若コーポレーションというペーパーカンパニーで買い取り資金を調達するので、形式上は経営陣が自社を買収するMBO(マネジメントバイアウト)となる。

 だが、必要資金417億円のうち、りそな銀行からの借入が325億円で、残る110億円は同社の第2位株主であるTAIYOファンドから調達する。常若コーポレーションもTAIYOの100%出資で設立されているので実質、TAIYOによる買収と考えていい。

 これに猛反発しているのが、ローランド創業者の梯郁太郎氏(84)。電子楽器事業とコンピューター周辺機器事業の2つの事業を育て、前者を手掛けるローランドを1989年、後者を手掛けるローランドDGを2000年に上場させている。電子楽器の世界ではカリスマ的存在で、電子楽器の演奏データを機器間でデジタル転送するための世界共通規格・MIDIのシステムコンセプトを当時の同社技術者とともに作成。MIDI制定に多大な貢献を果たしたとして、13年2月にグラミー技術賞を受賞している。

 ローランド上場から5年後の94年9月、個人所有の株式を寄付するかたちでローランド芸術文化振興財団を設立し、その半年後の95年4月に代表取締役会長に退き、DGの上場から半年後の01年4月には代表権も返上して特別顧問に。その職も12年10月に退き、昨年3月には前年から務めていた社内カンパニーの会長職と台湾現法の役員も退き、ローランドグループのすべての役職を退任している。11月には個人名義で保有していた株式の大半を野村證券を通じて会社側に売却したため、個人としてはローランドとの関係は完全に切れている。

 その梯氏が、なぜ今回のMBOに猛反発しているのか? 梯氏に話を聞いた。

最も不本意なかたちになった優良子会社株の売却

–MBOへの反対は、ローランドの筆頭株主である財団の代表という立場で反対しているということか?

梯郁太郎氏(以下、梯) そうだ。私個人の保有株は昨年、家族名義のものも含めて大半を売却したが、財団は今も9.8%を保有する筆頭株主だ。財団は私が保有していた株式を上場後に寄付してつくった。活動資金は寄付金とローランドからの配当金で賄っている。

–会社側からは、事前に財団保有のローランド株式売却についての打診はあったのか?

 ローランドからはまったくなかったが、4月16日にTAIYOのブライアン・ヘイウッドCEOと日本人パートナー、りそな銀行の浜松支店長、りそなから着任したばかりのローランドの社員という顔ぶれで突然やってきた。ローランドは上場を廃止して配当を出さなくなるから、投資信託など同一価値の投資商品と入れ替えるかたちでローランド株をTAIYOに売ってほしいと。りそな銀行の支店長は交換後の投資商品の運用はりそなに任せてほしいと言ってきたので、私ははっきりと反対の意思表示をした。その翌日にもりそな銀行の支店長と担当行員が2人でやってきたが、このときもあらためて反対の意思を表明した。

 それなのに、三木社長とヘイウッド氏の2人だけが出席した5月14日のMBO公表会見の席上で、三木社長があたかも私から了解を得ているかのような発言をしたと新聞で報道された。私にはまったく取材がないまま三木社長の発言がそのまま載ったわけで、すぐに新聞社に抗議した。

–MBOに反対する理由は?

 明らかにTAIYOによるローランドの乗っ取りだからだ。電子楽器事業は長期的な視野を必要とし、規模を追うべきではない。ローランドを上場させてみて、電子楽器事業は上場に適さないということは私も実感はしていた。だが、ローランドは有利子負債残高を現預金残高が上回っており、実質無借金だ。ファンドの力を借りる必要などまったくないし、今このタイミングでMBOをやる意味もない。

 ローランドは優良子会社のDGの株式を4割保有している。私はずいぶん前から、DGとローランドの株価と業績を見比べながら、適切なタイミングが来る都度、DG株式を売却して資金をつくり、それを電子楽器事業に充ててはどうかと経営陣に進言してきたが受け入れられず、その結果、典型的な株価のねじれ現象(上場親会社の時価総額が上場子会社の時価総額を下回る現象)が起きてしまった。

–なぜ経営陣はDG株を売却しなかったのか?

 DG株を売ってDGがローランドの連結決算から外れると、親会社の業績、つまり電子楽器部門の業績の悪さが際立ってしまうからだろう。野村證券がDG株を売るなというアドバイスをしたことも影響している。それどころか逆に、何年か前、野村證券はDGをバイアウト(=梯氏もしくはローランドが全株を買い取って非公開化すること)してはどうかなどという提案までしてきた。苦労して上場したのに、非公開化の必要がないDGの株を、なぜプレミアムまで付けて買わなければいけないのか。シーガイアやハウステンボスにやらせたことを、ローランドにもやらせようとするのはとんでもない。

【以下、筆者解説】

 ローランドは今回、MBOと同時に約4割を保有するDG株の半数をDG自身に自己株取得させる。その代金がおよそ130億円で、実質無借金のDGは、この自己株取得のために必要な資金130億円を銀行借入で調達する。貸し手はローランドのTOB資金325億円を融資するりそな銀行である。りそな銀行はローランドのMBOと、DGの自己株取得で総額455億円の融資案件を獲得したことになる。

 ローランドにはDG株の売却代金130億円が入るが、この資金は電子楽器事業の立て直しに投じられることはなく、全額TOB資金325億円の借入の弁済に充てられる。つまり、ローランドのTOBに必要な資金417億円のうち、130億円は実質的にDGが負担するスキームだ。

【以下、梯氏との一問一答】

着々と進む会社側の包囲網

–ということは、かねてから梯さんが主張してきたことを、経営陣は梯さんにとって最も不本意なかたちで実現しようとしていることになるが、財団の理事会としてはすでに売却に応じる機関決定をしているのでは?

 財団として売却に応じるかどうかの機関決定には、理事会決議を経た上で、評議員会の承認も必要だ。5月1日の会合では形式的には過半数で決議しているが、その決議は無効だ。そもそも理事会の招集は理事長(梯氏)が行うものと定款で定めてあるにもかかわらず、ローランドから出向している専務理事が勝手に招集した。この専務理事以外にも、りそなホールディングスの元会長が議事に参加している。

–5月1日の会合は理事会としての要件を満たしておらず、しかも利益相反が疑われる可能性がある理事が議決に加わったということか?

 5月1日の会合における議事は、専務理事らが積極的に主導した。本来議事に参加すべきではない理事が主導するのはフェアじゃない。6月4日の理事会でも議事は紛糾した。一部に6月4日の理事会であらためて応募を決議したかのような報道があったが、それは違う。

–すでにかなり以前に経営への関与から身を引き、個人としての保有株も昨年大半を売却し、ローランドとの関係が切れている。それなのに筆頭株主の財団トップとしては抵抗するということに矛盾はないのか?

 昨年株を売ったのは、ここ数年のローランドの経営方針に、とことん失望したからだ。最も失望しているのは、海外売り上げが8割を超えているのに、大切な海外拠点網を次々と壊し、海外におけるローランドの信用を毀損させている点だ。

 例えば、昨年11月7日にローランドはイタリア現地法人の清算を発表しているが、同法人の代表に清算決定の事実と解雇を言い渡したのは発表当日だ。こんなことをしていたら、長年かけて築いた海外での信用は瞬く間に失墜してしまう。失望させられたのはこの時が初めてではないが、何かあっても私は役職から退いているがゆえに経営陣にモノを言う場がなく、ただ見ているしかなかった。

 私は01年に代表を降りる際、ほぼすべての役職も同時に降りてしまった。今となっては、それは失敗だったと思っている。会社を見限ったのは事実だが、自分が育てた会社にここまでされたら黙ってはいられない。社員持株会も、MBOに賛成の人については野村證券が取りまとめるのに、反対の人は別途野村證券に口座をつくり、そこへ株式を移し、持株会を退会せよと言っている。ローランド社内の優秀な人材のためにも、現経営陣がやっていることがおかしいと言えるのは、創業者である自分しかいない。6月27日の定時株主総会では、言うべきことを存分に言わせてもらう。

【以下、筆者解説】

DG株売却益はTAIYOが独占

 現在、ローランドのTOBと同時進行で、DGの自己株取得TOBも実施されている。発行済みの2割もの自己株取得になるので、ローランド以外の株主にも売却の機会を与えなければならず、TOBのかたちをとっているからだ。

 このDGの自己株TOBは、ローランドのTOBが下限申込数に達せず白紙に戻った場合も無効にはならない。つまり、DGはローランドのTOBの成否にかかわらず、15年3月期第1四半期を最後に、ローランドの連結決算から外れる。14年3月期のローランドの連結営業利益は約78億円だが、このうち61億円はDGの稼ぎだ。

 ローランドの15年3月期の予想営業利益は、上期は前年比13%減、下期は42.3%減と、DGが連結から外れる影響をしっかり織り込んでいるが、DG株の売却益を特別利益に計上するので、通期の一株当たり当期純利益は315円と、14年3月期の実に15.5倍。だが、会社側の思惑通り順当にいけば、ローランド株は9月には上場廃止になり、この利益はTAIYOが独占する。

 TOB価格の1875円は、予想一株あたり当期純利益315円の5.9倍でしかない。株価が一株当たり当期純利益の何倍かを示すPERは、6月5日終値ベースで東証一部平均が15.4倍。315円を15倍したら4725円だ。

 ローランドのTOBは発行済みの66.6%以上の応募があれば成立し、そうなればTOB価格に不満を持つ株主、もしくは非公開化そのものに反対でTOBに応募しなかった株主も、TOB価格と同額の1株当たり1875円で強制的に保有株を買い取られ、いずれにしてもTAIYO以外の株主は、誰一人としてDG株売却益の恩恵にはあずかれない。<

TOB応募しか道がない巧妙なスキーム

 それではTOBへの応募が66.6%に達せず、TOBが成立しなかったらどうなるか。それでもDG株の売却益はローランドに入り、一株当たり当期純利益315円も同じ。だが、会社は非公開化を理由に15年3月期は無配を宣言しているが、非公開化が白紙に戻っても配当が実施される保証はない。

 株価は先へ先へと業績予想を織り込んでいく。現在ローランドの株価がTOB価格の1875円すれすれのところで高止まりしているのは、同額で全株をローランドに買ってもらえるからだ。TOB後、DGが連結から外れた状態での業績にふさわしい水準まで株価が下落することは当然に予想される。TOBが成立すれば、TOB終了後に株価が急落しても、既存株主は1875円で保有株を買ってもらえるが、不成立なら株価下落のツケはすべて既存株主に回る。

 今回のMBOは、DG株の売却がセットになっている点が核心であり、既存株主が経済合理性に基づいて行動しようとすれば、TOBに応募するか、さもなければDG株の売却を阻止するかしか道がない。だが、現行の会社法の下では後者のハードルはあまりにも高く、事実上前者の道しかない。

当然、TOBが成立しなければTAIYOも保有する9%強のローランド株暴落というダメージは受ける。だが、ひとたびTOBが成立すれば、今回のDG株売却益を独り占めできるだけでなく、残る20%のDG株をいずれ再びDGに取得させ、再度巨額の売却益を得る機会も手にできる。

 TAIYOは手にした巨額の利益を、果たして電子楽器事業の再生に投資するだろうか? TOBのために背負った借金の返済のみに使われておしまい、ということはないのだろうか?

 MBO後も経営にとどまる現経営陣が、06年にMBOで上場廃止した外食チェーン、すかいらーくの横川竟氏のように、短期間で社長を解任されることなく、資産を散逸させることもなく、数年後には見事に再生を果たすことができるのか。想定される懸念事項がすべて杞憂であったと、数年後に思わせてくれることを今はただ願うばかりだ。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

伊藤歩/金融ジャーナリスト

伊藤歩/金融ジャーナリスト

ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計。主な著書は『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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