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イケア、年間来客数2000万人の秘密 地域特性に合わせた魅力ある店舗づくりの仕組み

文=高井尚之/経済ジャーナリスト
イケア、年間来客数2000万人の秘密 地域特性に合わせた魅力ある店舗づくりの仕組みの画像1「イケア・ジャパン HP」より

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 北欧スウェーデンの世界観を伝える世界最大の家具販売チェーン・イケアの家具は、今や日本でもおなじみとなった。現在、国内で7つの大型店を展開しているが(7月17日に8店舗目の大型店が仙台に開業予定)、日本1号店が開業したのは2006年、船橋店(千葉県船橋市)だった。

 その後、港北店(横浜市都筑区)、神戸店(神戸市中央区)、鶴浜店(大阪市大正区)、新三郷店(埼玉県三郷市)と各地に展開し、12年には福岡新宮店(福岡県糟屋郡)、そして今年4月に立川店(東京都立川市)がオープンしている。

 集客は好調だ。全店舗の年間来場客数は、東京ディズニーリゾートにも匹敵する2000万人超。港北店は家具販売店として世界最大級の来店客数を誇る。新三郷店は、近くに競合店・ニトリがあり、商品を比較検討するお客も多い。

 福岡新宮店は、開業前にIKEA FAMILYカードへの会員登録をした人が6万人を超え、開業日は「イケア各店のオープン日としては史上最も激しい横殴りの雨」(同社)にもかかわらず、オープン前から1300人が並び、この日だけで3万人が来店した。

 東京で初の出店となる立川店は、多摩地区の中核であるJR立川駅から徒歩12分、東京都道43号線沿いにあり交通の便もよい。

 イケアでの買い物方法は独特だ。店内に置いてある買い物袋と鉛筆、メモを手に取り、2階のショールームと呼ばれる家具売り場を回り、欲しい家具の番号を記入する。買い物袋に入る雑貨は直接商品を入れる。自分で持てない大型以外の家具はマーケットホールと呼ばれる1階で、巨大倉庫から持ってきてレジに並ぶ。これは、一度経験しないと戸惑ってしまうだろう。

 家具は自分で組み立てるのが基本で(工賃別の組み立てサービスあり)、インターネットなどの通信販売はしていない。

 店内は広く、さながら巨大迷路のようだが、それでも回遊性を楽しむ人は多い。買い物客は「いろんな驚きがあって楽しい」「雑貨が安かったので衝動買いしてしまった」などと話し、楽しんでいる様子がうかがえる。

 しかし、中には「急遽、用事ができて外に出たいのに、出口がわからなかった」という声もあった。こうした不満の声には店側も応え、最近は途中で買い物順路を短縮できる「近道」も設けられ、フロアガイドでも紹介されている。

イケア流に染めつつ、日本の消費者からも学ぶ

 外資系企業が日本に進出する場合、本国や周辺国で成功した運営方法を、日本でもそのまま押しつけてしまいがちだ。これは多くの企業が失敗するパターンで、日本進出当初のイケアにも、そうした点が見受けられたが、同社は消費者からの声を受けて多くの点を改善した。

 また、イケアでは社員もパート従業員も一様にコワーカーと呼称するが、彼らにも大きな裁量を委ねている。

 例えば福岡新宮店では、コワーカーが店舗周辺の家を訪問して間取りなどを調べた。その結果、首都圏や近畿圏に比べて部屋数が多く、小さな部屋のある家も目立ったという。このような調査結果を店内の商品構成に反映している。

 モデルルームと呼ぶ空間も変わった。以前は「55平方メートル」などと広さを記した展示スペースの中に家具が配置されていたが、最新の立川店では「2LDK 55平方メートル 持ち家 家族との暮らし」「7歳の娘がいる3人家族」など具体的な表記をし、ベッドルームの横に子ども向けデスクや回転チェアを置くなど、お客がよりイメージしやすいようにしている。

 別の一角では物干し用ハンガーに子供用靴下を挟むなど、単に商品を配置するだけでなく、生活実感に訴えている。こうしたさまざまな提案はコワーカーによるものだ。

 低価格による訴求も欠かさない。例えば「この部屋の家具、全部でなんと6万2000円以下」と札を掲げたスペースでは、2人掛け用ソファ(2万469円)、テーブル(8219円)、回転チェア(7190円)などが配置してあり、来店客からは「安い」という声が上がっていた。

 イケアでは、それぞれの家具に名前がついている。例えば、本棚の「ビリー」、ひじかけイスの「ポエング」は世界各地でロングセラー商品となっている。ソファには都市、本棚には男の子、カーテンには女の子、布団カバーには橋の名前がつけられているという。

フードエリアも集客装置の1つ

 店内の一角にある「イケアレストラン」も人気で、「来店客の3割は飲食だけ」ともいわれるほどだ。ここではスウェーデン料理も提供される。その代表がスウェーデン・ミートボールだ。通常は5個で359円、10個で616円。ジャムとポテトが添えられる。カレーライスは249円とリーズナブルだ。家具と同じように低価格で提供するのは「腹が減っては買い物ができない」という企業方針による。設置したキッカケは、かつて欧州の店舗で昼食時に来店客が一斉に帰ってしまい、店内がガラガラになった教訓からだという。

 もう1つの名物が「ビストロ」と呼ぶエリアで販売されているホットドッグ。1995年にスウェーデン国内の店舗において、1本5クローネ(約85円)で販売を始めて以来の伝統商品で、日本国内では100円、フリードリンク付きは150円だ。イケアのホットドッグは一商品の枠を超えて、お客を引き寄せる代名詞となっている。

 こうして紹介すると前途洋々に思えるイケアだが、日本国内での将来性は必ずしも視界良好とはいえない。次回は、その部分を検証する。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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