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住友商事、巨額減損は防げなかったのか?企業が誤った意思決定行うメカニズムと防止策

文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授
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住友商事、巨額減損は防げなかったのか?企業が誤った意思決定行うメカニズムと防止策の画像1住友商事本社が所在する晴海アイランド トリトンスクエア(「Wikipedia」より/Sekicho)
 9月29日、大手商社の住友商事が2005年3月期の連結業績見通しを下方修正した。米シェールガス事業の売却等を受けて、約2400億円の減損が発生したためだ。シェールガス開発事業については当初、隣接地域での良好な生産に対する社内外の評価を基に収益化の確度は高いと考えられた。しかし、複雑な地質等を背景にコストが想定以上に膨らむと判断され、このたび減損を発表したのだが、この減損は防ぐことができなかったのだろうか。

 今回の減損は経営戦略の失敗とされており、減損の規模的にも住友商事の“熱狂的”なまでのシェールガス開発事業への肩入れすら感じられる。特に、地質に関する判断を誤るという点は、初期段階での戦略策定に不備があった可能性を示唆する。資源開発を進めた経営陣の脳裏には、シェールガス革命の恩恵を享受したいという強い動機があったのだろう。

 ミクロ(企業経営)の視点から考えると、注目を浴びているシェールガス開発への投資は、企業価値の向上のためにも重要だろう。他社が注力をしているのであれば、出遅れは許されないという動機も働きやすいめ、意思決定を阻む非合理的な要素は見いだしづらかったのではないだろうか。ここに戦略策定の難しさがある。ミクロの視点にフォーカスすれば、競争優位性やシェア拡大につながり得る事業は正当化されやすいからだ。

●ミクロとマクロの視点の融合

 では、戦略の失敗を防ぐために有効な方策はあるのか。

 その一例が、ミクロとマクロの視点の融合だろう。ミクロで考えた戦略をマクロ経済の動きに当てはめ、リスク要因の見落としや矛盾がないのかを検証する作業は、より客観的な判断を導く。ミクロの視点で考えると、競合他社とのシェア競争は経営陣に大きなコミットメント(目標達成への約束)を課す。ただ、そのコミットメントが企業の中長期的かつ持続的な成長にとって常に合理的とは限らない。自社に最適であると判断しても、世界経済はその通り動くとは限らない。そして、世界経済の動向が需要を左右する可能性も高い。多角的な視点は、適正な投資規模・期間、コスト評価につながると期待される。環境変化への柔軟性、適応力なしにリスクに対応することは困難だ。

 今回の住友商事のケースでいえば、新興国の経済成長の安定化傾向を十分に検討できていたのかという点に疑問が残る。新興国の需要低迷は、資源価格の重石になりやすい。そうしたリスクシナリオを認識していれば、より慎重な投資戦略を策定することも可能だったのではないか。当然、地質調査以前に、シェールガス開発のブームに踊らされてしまった心理も省みられるべきだろう。

 入念なリサーチがなされていれば、今回の減損は防ぐことができたかもしれない。短期的な熱狂に駆られるあまり、人々は理性を失う。それは環境変化への柔軟な対応力を削ぐ。米国の利上げ観測、地政学リスクなどの不確実性を抱える環境だけに、住友商事は冷静な状況の把握と柔軟な戦略策定能力の重要性を見直す必要性が高いといえる。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)

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