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損保J興亜合併、3位定着・三井住友の焦り いびつな提携捨て、業界再々編の主役になるか

文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト

損保J興亜合併、3位定着・三井住友の焦り いびつな提携捨て、業界再々編の主役になるかの画像1損保ジャパン日本興亜本社(写真は旧損保ジャパン本社時代/「Wikipedia」より/Dora ss)
 9月1日、損害保険大手の損保ジャパンと日本興亜損害保険が合併して損保ジャパン日本興亜が発足した。売上高に相当する収入保険料は東京海上日動火災保険を抜き、国内最大になる。この動きに最も焦りを露わにするのが、東京海上日動を猛追していた三井住友海上火災保険だ。業界3位が確定した今、あいおいニッセイ同和損害保険との合併になりふり構わず踏み切るのではとの観測が保険業界内で広まっている。

「前身の安田火災海上保険時代からの悲願」。損保ジャパン日本興亜関係者はこう胸を張る。旧損保ジャパンは業界内でも「えげつない」と揶揄されたほどの営業を展開することでも知られており、金融庁から行政指導を受けたこともある。競合他社も眉をひそめる強引な営業でも手が届かなかった業界首位の座を手にしたのだから、社員の喜びはひとしおだ。保険業界に詳しい経済誌記者はこう語る。

「旧損保ジャパンは安田火災時代に合併を狙っていた日動火災を東京海上にさらわれ、収入保険料で突き放された。加えて、三井住友海上に突き上げを喰らい、首位どころか 3位に転落する年もあった。規模拡大のために、日本興亜損保との合併にはなりふり構わなかった」

 新会社の経営体制を見てもそれは明らかだ。社長に就任した二宮雅也氏は旧日本興亜の出身だが、収入保険料が1兆4000億円を超える損保ジャパンに比べて日本興亜は7000億円にも届かなかったことを考えれば、企業合併では異例の人事。社長の座を譲ってでも合併にこぎ着けたかった損保ジャパンの並々ならぬ意欲を感じさせる。

 合併決定後に発足した持ち株会社の社名であるNKSJホールディングスにも、旧日本興亜への気遣いが透けて見える。「日本興亜を示すNKを損保ジャパンのSJより先に配するのはやりすぎでは、との声もあった」(業界関係者)

規模追う損保各社

 なぜそこまで規模にこだわるのか。各社首脳は「企業の規模にはこだわらない」とメディアのインタビューには声をそろえる。だが、言葉とは裏腹に、損保は商品に差異が見いだしにくい業界だけに、規模が企業をはかる物差しであるとの意識は他業界に比べて高い。

 前出経済誌記者は「東京海上日動の永野毅社長は『重要なのはボトムライン(利益)』と繰り返しているが、これは表向き。同社では今年2月に最大十数万件にのぼる不払い問題が新たに判明したが、『業界首位の座を奪われる危機から、現場に収入保険料拡大の大号令がかかり、不満分子がメディアに情報をリークした』との見方が支配的だ」と語る。15年3月期の収入保険料予想は損保ジャパン日本興亜が2兆1741億円に対し、東京海上日動が2兆140億円と熾烈な争いが続く。

三井住友海上の焦り

 この動きに穏やかでないのが三井住友海上だ。同社は10年、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)と経営統合し、持ち株会社のMS&ADインシュアランスグループホールディングスを設立。グループでの収入保険料は15年3月期に2兆9000億円を超える見通しで、東京海上日動を中核とする東京海上ホールディングスを僅差で上回り、国内首位になる。だが、単体での収入保険料予想は1兆4330億円で上位2社の背中は遠い。

 もちろん三井住友海上も手をこまねいているわけでなく、あいおいとの合併を画策する。両社は一部の事業分野のみを片寄せする「機能別再編」に乗り出している。共同で商品開発が可能な体制を整えたほか、地方の事業所や取引のある代理店の再編にも着手する。「もはや合併したほうが効率的では」との声は内外から聞こえてくる。

 実際、三井住友海上は前社長の江頭敏明氏も現社長の柄澤康喜氏も「(あいおいとの)将来的な合併は否定しない」と前のめりな姿勢を隠さないが、あいおいの猛烈な抵抗にあって一筋縄ではいきそうもないのが実情だ。三井住友海上の社員は「収入保険料もあいおいは三井住友の8割程度あるため、簡単にのみ込めない。その上、あいおいにはトヨタ自動車という切り札がある」と指摘する。

 あいおいはトヨタが筆頭株主だった千代田火災海上保険の流れをくむため、トヨタ直系の国内販社での取引などトヨタマーケットをがっちりと押さえている。あいおい社員は「イケイケの三井住友とは社風が違いすぎる。国内がじり貧の中、単独での生き残りは難しいが、トヨタを抱えている以上、すぐに会社が傾くことはない。三井住友に好き勝手はさせない」とささやく。

 実際、ホールディングスの社長人事でも一波乱あった。三井住友海上出身の江頭敏明氏が退き、現三井住友海上トップの柄澤氏が就任したのは既定路線だが、会長職を新設してあいおいの鈴木久仁社長がおさまった。鈴木氏がトヨタをバックに土壇場でねじ込んだとの見方が業界では支配的だ。ホールディングスの新体制を発表した記者会見では、記者に「船頭多くして船山にのぼるといわれますが」と多頭体制を揶揄され、業界内の失笑を買った。いびつな提携体制であることは誰の目からもあきらかだ。

 ジレンマを抱えながらも、企業規模重視の保険業界でこのまま手をこまねいているのか。業界関係者は「東京海上日動も業務提携関係にあるJAの傘下の共栄火災海上保険に秋波を送っている」と声をそろえる。損保ジャパン日本興亜の誕生が、国内損保業界のさらなる再編の号砲になる可能性も高い。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)

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