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西川淳「ボンジョルノ!クルマ」(11月11日)

際立つマツダ、専門家&消費者双方から高評価の不思議 シンプルな努力で欧州車と比肩

文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家

際立つマツダ、専門家&消費者双方から高評価の不思議 シンプルな努力で欧州車と比肩の画像1マツダのデミオ
 市販を前提として日本国内で発表される乗用車の中から、年間を通じて最も優秀なクルマを選定する「2014-2015日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」(主催:日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会)の栄冠に輝いたのは、マツダのデミオだった。受賞理由、選考方法、今年のノミネート車種など詳細な情報については、オフィシャルサイトをご覧いただきたいが、デミオの勝因を一言でいうと、「欧州有名ブランドにも引けを取らないデザイン、クォリティ、性能、低燃費技術を実現した、これまでにない和製コンパクトカーである点といえよう。

 要するに、ハイブリッド車や電気自動車(EV)といったインパクトのある技術は使わず、これまで培ってきた乗用車テクノロジーに、日本的モノづくり流の磨きを一生懸命かけて仕立てたことが、筆者を含む60名の選考委員に評価された。極めて正攻法で真面目なクルマづくりが、国産コンパクトカーの概念を打ち破った。メーカーの強い意志は必ずや商品に反映され、消費者にもアピールするものだ。そのことは発売後1カ月半の10月末時点で約2万台の注文を獲得し、その6割が注目のディーゼルターボエンジン搭載グレードであることからもわかるだろう。

 近年、賞レースにおけるマツダ車の存在は際立っている。昨年はアテンザが特別賞を獲得しているし、一昨年はCX-5で同じく大賞(イヤーカー)を取った。今年、惜しくも10ベストカーには入らなかったが、デミオより1クラス上の小型モデル・アクセラもまた評判は高く、デミオが“いなければ”、確実に大賞候補の一角を占めていたはずだ。

 つまり、それだけマツダのクルマづくりが近年、専門家の心を打つものだったということで、逆にいうとマツダよりも規模の大きなメーカー、たとえばトヨタ自動車や日産自動車は、一体その間、何をやっていたんだ? という疑問の湧く人もいるだろう。

●一致しない人気と評価

 もちろん、専門家の評価とは別に、日本市場で売れているクルマはたくさんある。マーケットニーズを確実に捉え、“売れるクルマ”をいくつか抱えているからこそ、大メーカーであり続けられるわけだから、それは当然のことだろう。さらに日本市場には、軽自動車という庶民の生活には欠くべからざる特別な存在もあり、人気と評価は必ずしも一致しないというのが現状だ。

 例えば、2014年の上半期(1〜6月)において、販売台数のベスト10を乗用車・軽自動車合わせてランキングにしてみれば、以下のようになる。

 1位:タント(ダイハツ)/約13.0万台※
 2位:アクア(トヨタ)/約12.3万台
 3位:フィット(ホンダ)/約12.1万台
 4位:プリウス(トヨタ)/約10.3万台
 5位:デイズ(日産)/約9.9万台※
 6位:N-BOX(ホンダ)/約9.6万台※
 7位:ワゴンR(スズキ)/約9.3万台※
 8位:N-WGN(ホンダ)/約8.7万台※
 9位:ムーヴ(ダイハツ)/約8.2万台※
 10位:ミラ(ダイハツ)/約7.9万台※
 ※印は軽自動車、
 
 ・参考資料
  新車乗用車販売台数月間ランキング(日本自動車販売協会連合会)  
  軽四輪車通称名別新車販売速報(全国軽自動車協会連合会)   

 実にトップ10のうち7モデルが軽自動車であり、残り3モデルはいずれもハイブリッド車のベストセラーカー(フィットは主力グレードがハイブリッド)という現実を考えると、専門家による「毎年のニューモデルから選ぶイヤーカー」と売れ線モデルとの乖離は、あって当然というわけである。ちなみに、ベスト10にランクインした軽自動車の中で、ホンダのN-WGNはCOTYのスモールモビリティ特別賞を獲得している。

●トヨタと日産が、専門家の評価するクルマをつくれないワケ

 さて。ここからが今回の本題だ。

 軽自動車は、もはや日本国民にとって欠くべからざる移動手段である。維持費も安く経済的で、性能もコンパクトカー並み。以前に比べて我慢を強いられるということがない。長距離ドライブも最近の軽自動車は難なくこなす。近い将来、軽自動車がCOTY本賞を取ることだってあるだろう。それはそれで、日本市場の特性を発信するいい機会になる。

 また、将来訪れるはずのスモールモビリティ(小型車移動)の世界観も、ひょっとすると軽自動車が先行して具現化するかもしれない。いずれにせよ、“小さいクルマをつくる”技術において、日本の全自動車メーカーが大きな力を持っていることは間違いない。現時点では、世界市場を目指す商品になっていないということだけが、COTY本賞を獲得できないひとつの要因かもしれない。

 問題は、軽自動車以外のクルマづくりの方向性にある。近年、マツダのクルマばかりに高い評価が集中して、その他の、例えば販売台数規模では4倍にも及ぶホンダや、それ以上の規模であるトヨタや日産は専門家が“世界で通用する良いクルマ”と評価するものをつくれていない。

 その理由は、年間500万台以上という巨大な日本の新車マーケットを重視すれば、そうならざるを得ない、ということだろう。13年の国内新車販売台数は約538万台だったが、そのうちの約4割を軽自動車が占めたということからも、いかに大メーカー系グループ各社が国内市場のニーズをくみ取った商品企画にいそしんでいるかがうかがえる。

 しかし、これ以上の拡大が望めない日本市場に力を入れすぎることが、必ずしもグローバルメーカーの利益につながらないことは、各社とも十分に理解している。だからこそ、例えば日産のように、国内向けモデルを軽自動車やミニバン、コンパクトカーに絞り込むという明確な戦略を打ち出すメーカーも現れた。

●マツダを支える、シンプルな取り組みの積み重ね

 そんな時代の流れに対するある種のアンチテーゼが、マツダの最近のクルマづくりではないか。専門家の評価が高いだけでなく、消費者からの評判も高い。14年3月度決算で過去最高益を記録し、営業利益率でホンダを上回るという好調な業績がそれを物語っている。

 最近のマツダ車は、ただ燃費が良いだけのクルマではないことは確かだ。所有したい、運転したい、楽しんでみたい、と思わせる点で、ヨーロッパ車に伍する仕上がりになっている。そこが、人気のハイブリッド車にはない魅力として、ミニバンや軽自動車を選ばないユーザーの目には映ったに違いない。

 マツダが実践してきたことは、自動車メーカーとして、この上なくシンプルな取り組みの積み重ねであった。魅力的なデザインをプロダクトアウトで実現し、経済性と高性能を両立する技術=スカイアクティブテクノロジーを追求し、そして生産と開発のシステムを究極的に合理化した。もちろん、広島県を中心とした地場の産業構造が一体となって、マツダの革新を後押ししてきた。

 日本的なモノづくりを極めて、世界市場に通用する商品をつくりあげる。日本の製造業がヒントにすべきアイデアは今、トヨタや日産といった大メーカーではなく、マツダにあるのではないか。
(文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家)

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