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片山修「ずたぶくろ経営論」(12月30日)

タカタとホンダ、不具合放置しリコール連発、死亡事故過少申告 安全意識不十分か

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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タカタとホンダ、不具合放置しリコール連発、死亡事故過少申告 安全意識不十分かの画像1タカタ本社が所在するアークヒルズ(「Wikipedia」より/Chris 73)
 安全を守るべきエアバッグが、人の安全を損ねる“凶器”となっては洒落にもならない。

 タカタ製のエアバッグをめぐる欠陥問題は、いまや社会問題と化した。リコール(回収・無償修理)の対象車は日ごとに増え続け、その数は世界で2000万台、いや3000万台にも及ぶといわれ、米国でのリコールの動きは一向におさまる気配がない。かりに、すべてに対応することになれば、深刻な部品不足を招くとみられている。

 リコールといえば、トヨタ自動車は2009年から10年にかけて、意図せぬ急加速問題に関して750万台以上もの完成車のリコールを余儀なくされ、社長の豊田章男氏が米公聴会に出席し釈明を迫られた。幸い、真摯に謝罪したことで騒ぎは収束に向かった。その1年後、なんら欠陥がないことが判明したが、引き起こされた集団訴訟において計11億ドルの賠償金を支払う羽目に陥ったことが思い出される。

 今回のリコールは、なぜここまで泥沼化したのか。その背景にはいったい何があるのか。果たして、いつ、どういうかたちで収束するのか。いかなる教訓がもたらされるのか。

●政治的思惑や日本車叩きも影響

 エアバッグは、車の衝突をセンサーが検知して「インフレーター(ガス発生装置)」に着火、ガスが発生してバッグが膨らむ構造である。問題のエアバッグは、「インフレーター」でガスが異常燃焼し、部品の金属片がエアバッグの外に飛び散る危険が指摘されている。米国内では少なくとも死亡事故が2件起きており、国内でも火災が4件発生した。原因は、いまだに特定されていないが、米国ではフロリダ州など高温多湿の地域を中心に事故が発生しているため、ガス発生剤の加圧力不足や過度な吸湿が原因とする見方が出ている。

 米国運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)は14年6月、高温多湿の環境下でエアバッグが破裂し金属片などが飛び散るリスクが高まるとして、フロリダなど米南部に地域を限定して、延べ400万台超を対象にホンダなどの自動車メーカーにリコールを要請した。

 じつは、NHTSAは当初、欠陥問題を拡大させる意図はなかったと伝えられている。原因が特定できない以上、リコールの強制には無理があるからだ。ところがNHTSAは11月26日、全米でのリコールを強制指示した。なぜか。

 この背景については、さまざまな憶測が飛び交っている。12月20日付日本経済新聞記事『タカタ問題 共和党の影』が伝えるように、中間選挙に勝利した共和党がタカタ問題を民主党のオバマ政権叩きに利用したといわれる。共和党に対抗するために、オバマ政権は強硬姿勢をとらざるを得なくなった。つまり、米国の政治的思惑に巻き込まれたという構図だ。また、“日本車叩き”の力が働いたという疑念も払拭できない。

 しかしながら、そうした事情は米国市場で自動車ビジネスを展開する以上、想定しておくべき事柄だろう。それは、トヨタの品質問題の際にも教訓として指摘されたことである。残念ながらタカタもホンダも今回、その教訓を生かすことができなかった。思わぬ事故や不祥事が発生した場合、事態を正確に把握し、適切な対応をとらなければいけない。そして、最も避けなければいけないのは、事態を放置することや責任逃れをすることである。これは、リスクマネジメントの常識といっていい。タカタとホンダは、どのような行動をとってきたのか。

●初動対応の失敗

 タカタは、エアバッグ製造でスウェーデンのオートリブに次ぐ世界2位の自動車部品メーカーだ。世界20カ国に工場を持ち、4万人を超える従業員を抱えるグローバル企業である。そのルーツは1933年、滋賀県彦根市に織物業として創業したことにさかのぼる。
 
 80年代にホンダと協力して「レジェンド」搭載のエアバッグを製造したのがエアバッグ事業の始まりで、その関係からホンダは同社に1.2%資本を出資している。現在、創業家3代目の高田重久氏が会長兼最高経営責任者を務め、株式の過半数を創業家が保有する同族企業である。
 
 その高田氏はいまだ公聴会に出席していないばかりか、記者会見を開いて謝罪してもいない。12月18日付日本経済新聞紙上で初めてメディアのインタビューに応じ、「深くお詫びする」とコメントしたものの、十分な説明責任を果たしてはいない。リコールの拡大に消極的で対応が後手にまわったことが、タカタへの不信を広げているのは間違いない。リスクマネジメントにおける初動対応の失敗といっていい。

 実際、タカタが最初にエアバッグの不具合に気づいたのは05年にもかかわらず、タカタ製エアバッグ装備最大手のホンダがリコールに踏み切ったのは、事故発生後の08年である。対応になぜ3年もかかったのか。検証されるべきだろう。

 もっとも、タカタがリコールに積極的に出なかったのには、次のような事情が存在する。リコールは、もともと完成車メーカーが実施するもので、部品メーカーが前面に出て勝手にはできない。第一、部品メーカーはクルマの顧客名簿をもっていない。タカタが煮え切らない態度をとってきたのは、そのことと無関係ではない。

 しかし、それがルールだとしても、ユーザーにしてみればそれは“身内の論理”にすぎない。ましてや事は安全に関わる事柄だけに、リコールに消極的だったことが責められるのは当然だ。

 その意味で思い起こされるのは、06年にソニー製リチウムイオン電池が相次いで発火した事故である。ソニーは部品メーカーの立場のため、当局にリコールを申請せず、パソコンメーカーに対応をまかせた。しかし、世間の風当たりが強まるのを受けて、ソニーは問題のリチウムイオン電池の自主回収に踏み切った。タカタに求められるのは、あの時のソニーの姿勢だったのではないだろうか。

●死傷事故などの件数を過少申告

 実はタカタのエアバッグを最も多く装備しているホンダは、NHTSAに提出した報告書で、03年7月から14年6月までの11年間にわたって、報告義務がある死傷事故などの件数を6割過少申告していたと発表した。1729件のうち8件はタカタ製エアバッグに関する事故だった。つまり、ホンダはいつの間にか品質に対する目配りを欠いていたわけだ。

 追い込まれたホンダは、早期収拾に動いた。ホンダにとって北米市場は文字通り金城湯池だ。ホンダの販売台数の4割が北米市場の売り上げだし、利益の3割8分を同じく北米で稼いでいる。かりにも、欠陥エアバッグ問題で北米市場を失えば、ホンダの屋台骨を揺るがしかねない。

 12月3日の米公聴会で、ホンダ現地法人のリック・ショスティック上級副社長は、「全米にリコールを拡大し原因究明を進める。費用もホンダが負担する」と、踏み込んだ発言をした。この時点で、ホンダはやっと事態の重大性を認識し対策に乗り出した。

 ホンダ会長で日本自動車工業会会長の池史彦氏は、同18日の自工会会見でタカタ製エアバッグの欠陥問題を受けて、次のように語った。

「自動車メーカーに火薬など化学品の知見が足りなかった」

 前述のように、エアバッグの不具合はインフレーター内部の火薬に原因があるのではないかと指摘されている。確かに、焦点の火薬などの化学分野は、自動車メーカーからすればこれまでノーマークの極めて専門性の高い分野だ。

「調査の結果、経年劣化が一因であるとなった場合、今後の検討課題として、エアバッグについて定期交換をすべきかどうかの議論が開始されることもあります」(池氏)

 現状では、発煙筒のように車検の際の交換義務はない。しかし、今後の状況によっては、エアバッグについても定期的に交換すべきかどうか、自動車業界として対応策を検討する用意のあることを示した。かりにも、化学物質についての知見不足が、自動車メーカーが問題の波及を防げなかった原因とすると、自社にない知見をどう補完していくかが、今後の課題となってくる。

 池氏によると、ドイツでは産官学全体で知見の共有がなされているという。実際、ドイツでは、大学の知見を実業に生かす文化が徹底しているという話はしばしば耳にする。

「社会問題を契機にして、ネガティブリスクを減らしていくために、ドイツのように『産官学』が協力して先進の安全技術などの知見を得られるようにしていくのが大切ではないかと思います」(同)

●製造業全体がぶつかっている課題

 品質トラブルの防止に秘策はない。現代のように安全への意識が高まり、人々がリスクの排除に躍起になればなるほど、企業は品質トラブルに対して慎重にならなければいけない。とりわけ、グローバルに広がった企業活動は、どこに落とし穴があるかわからない。

 トヨタが米国で品質問題を起こす10年ほど前だったろうか、同社の広報役員から「トヨタのように世界中でビジネスをしていると、何が起こるかわからない。まるで塀の上を歩いているようなものです。いつ、転げ落ちるかわからないですからね」と、聞いたことがある。グローバル企業は、どこで何が起こるかわからぬ恐怖と、つねに戦っていかなければいけない。メーカーは、これまで以上の重い負担がのしかかっていることを覚悟しなければいけないのだ。現代のリスクマネジメントの要諦である。果たして、その覚悟がタカタにあったのか。また、ホンダはその覚悟をどこかに忘れてきてしまったのではないか。

 それから考えておかなければいけないのは、今日安全のリード役は、企業ではなく消費者であるということだ。トラブルが起きた時、何が問題かを決定するのはトラブルを起こした当事者ではなくて社会だということだ。エアバッグの欠陥問題は、「“個社”の問題を超え、社会問題化している」と池氏が自工会の記者会見の席上で懸念を示したのは、まさしくそのことを意味している。

 一自動車メーカーの問題を超え、社会問題となれば、問題はより複雑化する。結果、いっそう高度な対応が求められる。これは、今日の自動車業界に限らず、製造業全体がぶつかっている課題といっていいだろう。

 企業活動がグローバルに広がった現代において、ひとたびトラブルが発生すれば、その情報は瞬時に世界を駆け巡る。したがって、対応を間違えれば会社の存亡にかかわる。実際、もしタカタがリコール費用を全額かぶるとなると、対策費用は1000億円を超えると試算されている。タカタの自己資本は1400億円だから、経営危機に直面するケースが考えられる。

 対策をタカタに全面的にまかせるのではなく、ホンダをはじめ日本の自動車メーカーが一丸となって解決策を探るしか手はない。その点、トヨタが独立した第三者機関を活用して、欠陥の分析をすることを提案したのは、解決に向けた第一歩となるだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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