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マルチ商法大手「アシュラン」 社長夫妻の“恐怖政治”に元会員からは訴訟ラッシュ

文=葉山哲平/ジャーナリスト
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マルチ商法大手「アシュラン」 社長夫妻の“恐怖政治”に元会員からは訴訟ラッシュの画像1「コミュニケーションの大切さ」をうたうアシュランのHP。

「アシュラン」と会社名を聞いても、ご存じない方が大半ではないだろうか。ところがこの企業、「ネットワークビジネス」界では最大手のひとつなのだ。

 そもそもネットワークビジネスとは「連鎖販売取引」を業界側などが言い換えたもので、いわゆるマルチ商法を指す。アシュランの沿革などによると、同社の設立は1993年。会員数は2009年11月現在で約53万人。アシュランとはフランス語で「確信」を意味するという。

 業界誌「月刊ネットワークビジネス」(サクセスマーケティング)3月号に発表された2014年の売り上げランキングでは、1位・日本アムウェイ(売上高約970億円)、2位・三基商事(約720億円)、3位・ニュースキンジャパン(約400億円)、4位・フォーデイズ(約388億)、5位・アシュラン(約300億=同誌推定値)——との順位になっている。アムウェイやニュースキンという知名度のある“老舗”と並んでベスト5入り。しかも化粧品部門では、堂々の1位に輝いている。

 05年には「高額納税者公示制度」(現在は廃止)、つまり長者番付の福岡県版でアシュランの社長と副社長がベスト10入りしたことを地元紙などが報じている。県内の各税務署が行った公示によると、夫で社長の東孝章氏が県内6位、妻で副社長の東立子氏が10位。ちなみに、この時の県1位は自然食品の通販を手がける「やずや」社長で、5位は化粧品「ヴァーナル」の社長という顔ぶれだった。

 利益を上げているだけではない。福岡県大野城市にあるアシュラン本社は国交省の「生物多様性につながる企業のみどり100選」の企業緑地部門に選出されている。約4万9000平方メートルという広大な敷地の中、約2.1万平方メートルを緑地化。「森の中の社屋」をコンセプトに、本社棟や配送センター、スパハウス、レストランなどが美しい花や樹木の緑に囲まれて建ち並ぶ。他にも日本盲導犬協会や交通遺児育英会などへの寄付も行っている。

 アシュランの業績は堅調で、なおかつ緑化や寄付などの公益性も重視しているのだから、本当に立派な企業だ——となるのが普通だろう。だが同社は近年、相次いで訴訟を起こされているという。しかも原告側の大半が元会員など“内部”の人間だ。一体、アシュランに何が起きているのだろうか。

元会員からの訴訟ラッシュの理由とは?

 アシュランの名がマスコミに報じられたのは、実は長者番付が初めてではない。97年、当時の訪問販売法(現特定商取引法)違反(書面不交付)の疑いで富山県警が、福岡県大野城市にある本社や関連会社など10個所で家宅捜索を行い、翌98年1月に東社長と幹部会員3人を同じ容疑で逮捕しているのだ。

 県警は、法律で定められていたリスク説明をアシュランが書面で示さなかったとして捜査を開始。実際、富山県のある会員が「これはマルチ商法ではない」「会員を勧誘すれば会社からリベートがある」と勧誘を行っていた事実はあったようだ。組織ぐるみの犯行が焦点となったが、富山地検は2月に東社長ら4人を処分保留で釈放、3月に起訴猶予とした。

 この「富山事件」が相次ぐ訴訟の“原点”となる。アシュランは逮捕された1人の幹部会員を「事件が全国に報道され、会社の名誉、信用が傷つけられた」原因として契約を解消、幹部の地位も抹消した。これを不服とした元幹部会員は、03年に「一方的に地位を剥奪し、支払うべき報酬を支払わないのは債務不履行」として損害賠償を求めた提訴に踏み切る。アシュランは「規約違反が原因」と真っ向から反論したが、1審は元会員が勝訴。アシュランは控訴、上告を重ねたが、07年に最高裁も元幹部会員の主張を認め、約7973万円などの支払いをアシュランに命じた。裁判を知る会員が言う。

「元幹部会員はアシュランの発展に相当な貢献をしましたし、富山事件での県警の取り調べに対して東社長を守り抜いたと聞いています。でも実質的にはクビになってしまった。本当におかしなことなんですが、こうした不条理な対応に対して、会員の反応は鈍かったと思います。仕事が順調で多忙な人も少なくなかったし、その充実感から“洗脳”されたような状態になっていたんです」

 別の関係者も「結局、会員にとっては見ざる、聞かざる、言わざるです」と振り返る。

「悪い噂が耳に入っても、熱心に活動して報酬を得ている上位会員ほど『自分には関係ない』と無視してしまう。なにしろ報酬は場合によっては月に数百万とか、1000万の単位になる。すると傘下会員も同じように判断します。一部の会員は裁判について会社と話をしたそうですが、アシュラン側の『元幹部会員とは和解してやったんです』などの説明を信じこんでしまったようです」

 だが最近は、アシュランの“異常事態”は相当に知られるようになったという。

「他の幹部会員も相次いで“消されて”いき、元幹部会員の裁判と同種の提訴が増えていった。私が把握しているだけで、これまで10件前後の提訴が行われ、さらに訴訟を準備している会員もいるそうです。そうした事実が徐々に広まっていき、やっとおかしいと判断する会員が増えていったんです」(前出の裁判を知る会員)

 消されていくとはどういうことか。ご存じの通り、マルチ商法の参加者は基本的に「会員ピラミッド」の中に位置づけられる。自分より下位の会員を勧誘してピラミッドの土台を構築していけば、それだけ収入は増える。そのため自分の傘下会員を獲得するために「絶対に儲かる」などと嘘をついて勧誘する事案もかつては多く、マルチ商法が社会的問題化する原因となっていた。

「社長がピラミッドの頂点」という疑惑

 マルチ商法のピラミッドで会員の1番が頂点に位置するのは当然だが、2番や3番という極めて上位の幹部会員を退会させ、その傘下会員を1番が直結することができればさらに利益は増える。

「実はアシュランにおける“会員番号1番”は東社長だというのです。少なくとも、この点について、これまでの裁判でアシュラン側は明確な反論をしていないと聞いています。そうでなければ、会社に他大な貢献した幹部会員を退会や降格させる合理的な説明がつきません。これまでの裁判を通して、アシュラン側が“人事権”を濫用し、無茶苦茶な“解雇”や“降格”を繰り返してきたことが明白になりました。社長が私腹を肥やすため、自分が世話になった幹部社員を追い出し、消し去ってきたと糾弾されても仕方ないでしょう」(前出の裁判を知る会員)

 これまでアシュランを訴えてきたのは、基本的には退会を命じられた元会員か、上部から下位に“降格”させられてしまった会員だ。アシュラン側は「彼らの会員勧誘方法に問題があった」というように一応は根拠を示す。だが、会社に大きな貢献を果たした上部会員の実績などと照らし合わせると「処分はとても釣り合うものではなく、要するにただの言いがかり」(前出の関係者)だという。つまり、富山事件の最高裁判決とパターンは同じなのだ。

 原告側は地位確認や損害賠償を求めるケースが多いという。例えば損害賠償で5000万円を超える請求を行うと裁判所が和解を勧告。審議を続けるうちに、4000万円で和解したケースなどがある。前出の裁判を知る会員が言う。

「10件の裁判中、1件は最高裁判決で勝訴確定。残りは和解となったものも少なくなく、守秘義務が科せられているようで詳細は分かりませんが、実質的には原告が勝訴したはずです」

寄付に対して「紙幣」を要求

 アシュランは福祉団体などへの寄付行為を社会貢献としてうたっているが、本来であれば“美談”と受けとめられるはずの寄付も、同社の場合は通常のイメージとは異なる部分もあるようだ。別の会員が打ち明ける。

「アシュランの企画した海外旅行に参加した際、夕食の会場へ行くと、東社長の妻で副社長の東立子氏が透明な箱を持って寄付を募るのです。そして会員に『ちゃりんはダメよ』と言うんですね。つまり硬貨ではなく紙幣を入れろというわけです。なにしろ箱の中は丸見えですからごまかしがきかない。最低でも1万円札を入れないと、後で何を言われるかわかりません。多くの会員の前で社長や副社長から叱責される怖さは、実際に見たり経験したりした人間でないとわからないでしょう。上部の会員になるほど、社長夫妻から叱責されることが増えます。完全なパワハラ体質で、その異常性には後で気づくのですが、渦中にいるとわからないものなんです」

 会員の反応もさまざまだ。アシュランを辞める者もいるが、これを“チャンス”と受けとめる者もいる。

「アシュランが上部会員に難癖をつけて消しにかかると、それに協力する会員も出てくる場合があります。会社に恩を売れば、自分が上位に引きあげられる可能性があるからです。今や会員は社長夫婦のパワハラを恐れるだけでなく、周囲の“密告”も警戒しなければならない。そのため、さらに熱心に活動する会員もいます」(同)

 マルチ商法は、よく「宗教」に喩えられる。どっぷり浸かってしまうと、会社側の「信者」になってしまうからだ。パワハラ体質を受け入れ、さらに活動へ力を入れる原因のひとつだろうが、なんとアシュランは本社の近くに宗教施設も所有している。

「本社を訪れる際には、会員も“参詣”して現金を供えます。本社敷地内のレストランで食事を出されれば料金を支払います。あの手この手で会員の利益を“回収”してくるわけです。ネットオークションで『アシュラン』を検索すれば、多くの商品がヒットしますが、商品の売り先に困った末端会員が横流しをしている苦しい実情がわかります。アシュラン側にとってはブランド価値を毀損する行為のはずなのに何も言わない。つまり売れればいい、儲かればいいという体質が浮き彫りになっているんです」(前出の会員)

肌トラブルを訴える声も

 アシュランが販売する化粧品自体にも問題が囁かれている。サーチエンジンに「アシュラン」を入力してみると、肌トラブルを訴える声が散見される。アシュラン側を擁護する反論も掲載されているため、公平に見ると賛否両論というところだ。

「美白効果がすぐに現れるよう、成分が強いのでしょう。個人差はあるようですが、日常的に使っていると、肌が真っ赤になったりすることがあります。使用を止めると元に戻るので、上部会員の中には下部会員に『だましだまし使ってください』とアドバイスすることがありますが、これも結局は化粧品の問題を指摘して、アシュラン側に睨まれて退会させられたり、降格させられたりするのが怖いからです。会員は隠れて皮膚科に行くなどして、内々に処理してしまう。普通の化粧品では、絶対に起こり得ない状況です」(前出の会員)

 こうなると、やはりアシュランの問題は、欲に目が眩んだ上層部と会員との内紛と片付けることはできないだろう。相次ぐ訴訟が示すとおり、社会的な拡がりを持つ問題なのだ。社長夫妻の支配の下で、相互監視で本音を言えず、辞めるに辞められない状況など、文字通りのブラック企業だ。そこに自爆営業という要素も加わる。

 これらの件について確認しようと、アシュランに取材を申し込んだが、回答は全く得られなかった。

 アシュランとはフランス語の「確信」だと説明しているのは最初に見た通りだ。「商品と普及活動と仲間たちに信頼と自信を持てたとき、あなたは必ず成功することを確信するでしょう」という東社長の言葉もネット上で紹介されている。

 確かにフランス語の意味に間違いはないが、これは英語にもなっていて「確信、自信、保証」などの似た意味がある。ところが、もうひとつ「厚かましさ、ずうずうしさ」という語義も存在するのだ。同社の「裏の顔」と期せずしてつながってしまったような印象を、特に会員なら持つのではないだろうか。
(文=葉山哲平/ジャーナリスト)

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