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江川紹子の「事件ウオッチ」第32回

勉強会には百田よりナベツネが適任!【報道圧力発言】で安倍首相に求められる責任の取り方

文=江川紹子/ジャーナリスト
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勉強会には百田よりナベツネが適任!【報道圧力発言】で安倍首相に求められる責任の取り方の画像1首相に近い自民党の若手議員が開いた勉強会で、百田氏らから飛び出した報道機関に対する圧力発言。安倍首相は3日になって、初めて国会で陳謝したが……(写真は衆議院インターネット中継HPより)。

 自民党の勉強会で、報道への圧力を求めたり沖縄の世論について侮蔑的な発言が出た問題について、安倍晋三首相は「国民の皆様に申し訳ない」と陳謝した。問題が指摘されてから1週間かかり、安保関連法案の審議への影響を懸念して幕引きを図るための対応だろう。とはいえ、このところしきりにメディア・コントロールを強化してきている自民党の総裁自身が、「安倍政権を厳しく非難している報道機関でも、言論の自由が侵されてはならない」と約束したことの意義は、決して小さくない。私たちも、よくよくこの言葉を記憶しておきたい。

暗黙の了解がある“壁耳”取材

 問題発言があったのは、安倍首相に極めて近い議員たちで作る勉強会の席上だった。しかも、議員たちは記者が部屋の外で、やりとりを聞くべく壁に張り付いているのを知っていた。

 この日の講演者で、その発言も問題視されている作家の百田尚樹氏は、「週刊新潮」(新潮社/7月9日号)で次のように書いている。

「講演を始めてしばらくすると、ドアのすりガラスに耳がいくつもへばりついているのが見えた。どうやら廊下にいる記者が部屋の中の会話を聞こうとして、ガラスに耳だけをくっつけているのだ」

 百田氏は、これを「盗み聞き」と怒っているのだが、少なくとも議員たちは、これが「壁耳」と呼ばれる取材方法であることは知っているはず。百田氏や安倍首相らと気が合いそうな産経新聞の阿比留瑠比記者も、2006年6月2日付の自身のブログで「壁耳で始まる一日」というタイトルで、こんなふうに書いている。

「あほらしくもありますが、会合後のブリーフが(実際の発言と)微妙にニュアンスが違うことがありますので仕方ありません」

「こんな原始的な手法は、記者だけがやっているかというと、霞ヶ関の官僚のみなさんも国会内でよくやっています。与党幹部の記者会見や議員同士の話し合いを、若手の官僚が通風孔に耳をあてて必死にメモをとる姿は日常風景です」

 また、6月27日付東京新聞記事によれば、質疑では発言者がマイクを使ったため、発言の多くは室外まで聞こえていたという。

 会合すべてを公開したわけではないが、聞かれているのはわかっていて、それについては暗黙の了解がある。ということは、議員たちは聞かれていても困らない、問題になるようなことはないという認識であのような発言をしたのだろう。現に、「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」「経団連だとかに働きかけしてほしい」などと発言した大西英男議員は後日、報道陣の取材に対し、会合での自身の発言について「問題があったとは思いません」と述べている。

 政治とメディアの関係や報道の自由などに関して、根本的な理解を欠いていると言わざるをえない。そのうえ、沖縄の普天間基地がどのように作られたのか、住民がなぜその周辺に住まざるを得なかったのかも知らないまま発言をしている。彼らは、インターネット上に転がっている出所不明の情報を安易に信じ込んでいるようだ。

 日本の政権与党の議員、それも首相に近い議員たちがかくも質が低いのかと知って、暗然とした気持ちでいる。まさに「政治の劣化、ここに極まれり」といった体である。こういう質の問題は、党幹部の「厳重注意」で改善するものではあるまい。

 安倍首相は陳謝する際、一連の発言を「大変遺憾で非常識な発言」としたうえで、「党本部で行われた勉強会だから、最終的には私に責任がある」と自らの責任を認めた。ならば、これで幕引きではなく、責任はきちんととってもらわなければならない。

自民党はもっとまともな「勉強会」を

 何も、党総裁を辞めろとか、腹を切れなどといった物騒な話ではない。かくも質の低い議員たちを、党総裁の責任において、きちんと教育するために、もっとまともな「勉強会」を開いてもらいたいのだ。安倍首相自身も、「言論の自由」について誤解があるのではないかと思われる発言がこれまでにあったので、一緒に勉強していただけるとなおよい。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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