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江川紹子の「事件ウオッチ」第32回

勉強会には百田よりナベツネが適任!【報道圧力発言】で安倍首相に求められる責任の取り方

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 とりわけ、言論・表現・報道の自由を含む憲法についての勉強は必須だろう。講師にふさわしい人材は、今回の「文化芸術懇話会」の面々が嫌う“左翼的”でない、むしろ自民党に協力してきた人たちの中にも、たくさんいる。

 例えば、佐藤幸治・京都大学名誉教授や長谷部恭男・早稲田大学教授。佐藤名誉教授は、先月行われた「立憲デモクラシーの会」主催のイベントで講演し、立憲主義を揺るがす改憲論に関しては「いつまで日本はそんなことをぐだぐだ言い続けるんですか」と厳しい批判をしたが、橋本龍太郎政権以来、行政・司法制度改革のブレーンとして自民党政権を支えてきた1人である。また、長谷部教授は衆院憲法審査会で集団的自衛権の行使を「違憲」と批判したが、特定秘密保護法の制定時には自民党の推薦で参考人として賛成意見を述べている。そういう2人から、日本国憲法の立憲主義的意味やその基本をじっくり聞くのは、とても有益だろう。

 情報メディア法の専門家としては、田島泰彦・上智大学教授はどうか。特定秘密保護法などについては批判的だが、産経新聞の前ソウル支局長が名誉毀損罪に問われた事件の裁判では同社が弁護側証人として申請し、ソウル中央地裁に認められた。産経新聞も、日本を代表するメディア法の研究者の1人と考えたからこそ、重要な裁判での証言を依頼したに違いない。やはり有益な話が聞けるだろう。

 さらに、政治とメディアの関係について、政治学の立場からも話を聞いたらどうか。政治家からじっくり話を聞き出すオーラルヒストリーの仕事などに取り組み、長らくたくさんの政治家を見てきた御厨貴・東京大学名誉教授などが適任だろう。

 マスメディアからは、渡辺恒雄・読売新聞主筆にお出まし願うのもいいかもしれない。今回の問題発言について同紙は、「報道機関を抑えつけるかのような、独善的な言動は看過できない」とする社説を掲載した。しかし、今回の安保関連法案など、安倍政権の政策の多くは支持しており、長く政治記者を務めてきた渡辺氏の助言は、安倍首相シンパの議員たちも、耳に逆らうことなく受け入れられるのではないか。

 ちなみに、同紙は安倍首相が戦後70年談話で「侵略」などの言葉を避けようとしている態度を懸念し、4月22日付社説で次のように書いている。

「談話が『侵略』に言及しないことは、その事実を消したがっているとの誤解を招かないか」

「政治は、自己満足の産物であってはならない。70年談話はもはや、首相ひとりのものではない。日本全体の立場を代表するものとして、国内外で受け止められている」

 学生時代に戦争で徴兵され、陸軍二等兵となった経験のある渡辺氏の歴史認識が、ここには反映されているに違いない。歴史に関しても、戦争体験者である渡辺氏の話を直接聞くことは、よい勉強になるだろう。

 さらに補講として、沖縄の歴史や沖縄の人々の民意について、翁長雄志知事の話をじっくり聞いてみるのもいいのではないか。翁長知事は、元々は自民党員で党沖縄県連幹事長まで務めた人だ。基本的な価値観は、自民党の議員たちとそれほど違わないだろう。その翁長氏がなぜ、かくも強く辺野古移転に反対するのか、よく聞いたうえで、政権与党としてどのように対応するかを議論してみるのも、大事な勉強ではないか。

 同レベルの仲間うちだけで盛り上がり、講演者である百田氏自身が「飲み屋の席でしゃべっているようなもん」と評するような集いで、議員たちはいったい何が「勉強」できるのか。もっと政治家としての質を高めるような勉強会を、安倍総裁の責任において開催してもらいたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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