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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

歪んだ「新築住宅信仰」 なぜ良質かつ安価な中古住宅は普及しない?悪しき慣習と制度

文=牧野知弘/オラガHSC代表取締役

 ところが、人々は今でも新築住宅ばかりに目が向いてしまっています。その理由は以下の2つに集約できます。

(1)中古住宅の売買は「胡散臭い」
 
 中古住宅を買う際には、町の不動産仲介会社などに行きますが、まことに洗練されていないところが多い。まず、彼らが示す価格に対して信頼性がありません。どんな「へたれた」物件を売りつけられるか不安になるし、物件を1~2度見ても、どこに瑕疵があるのか判断できません。

 不動産会社は早く売りたいがゆえに、「早く決めないと、なくなっちゃいますよ」と客にとにかく購入を迫ります。大手でさえ、売り手と買い手の双方から手数料を収受する「両手取引」が横行して、信頼できる会社が少ないのが実態です。

 そうした中、大手デベロッパーの分譲なら、なんとなく「質が高い」と思い、新築住宅を買ってしまうのです。

(2)新築住宅が圧倒的に優遇されている

 新築住宅を購入する場合、住宅ローンは中古住宅より圧倒的に優遇されています。住宅ローン残高1%相当分の所得税の10年間控除、最大30万円の「すまい給付金」、最大30万円相当のポイントが獲得できる「省エネ住宅ポイント」などに加え、親や祖父母からの住宅取得資金贈与の特例に至るまで、さまざまな特典が用意されています。中古住宅にももちろん住宅ローンはありますが、新築住宅と比べて条件が整備されているとはいいがたいです。新築住宅は業界としての裾野が広く、多くの関連業者が潤うのと、これまでの「量的な充足」の結果出来上がった業界秩序を維持しなければならない政治的な意図も加わっての優遇となっているのです。

 この2つのポイントを是正することが、中古住宅マーケットを活性化させる方法です。

中古住宅評価ポイント

 まず、もう「量的な充足」は十分満たされたわけですから、住宅ローンの税制上の優遇を一切廃止すべきです。また、住宅ローンも「返済期間が30年以上」「最終返済年齢85歳まで」といった無理にでも「売ろう」という支援策も同様です。こうして中古住宅と新築住宅を「イコールフッティング=同じ立ち位置」にして、まず消費者が比較しやすくします。

 次に「胡散臭さ」の解消です。これには「中古住宅評価ポイント」の創設を提唱します。現在、国土交通省でも中古住宅の性能評価基準を策定中ですが、不動産鑑定評価に基づく価格付けは、消費者からはわかりづらく、目の前の客に「売る」ことだけが目的の不動産仲介会社には浸透しない可能性が懸念されます。

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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