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高橋篤史「経済禁忌録」

東芝“不正”会計、「組織的関与・利益かさ上げ」批判は正しい?過去の粉飾事件との比較論

文=高橋篤史/ジャーナリスト
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 ただし、東芝でも重要視しなければならない点はある。利益かさ上げがもっともひどかった12年度は税引き前利益のじつに5割強がそれによるものだったからだ。投資判断に重大な影響を与えるレベルである。

手口の悪質さ

 次に手口の悪質さはどうか。

 東芝の場合、特徴的な手口が2つあった。工事進行基準の経理処理における損失計上の先送りと、パソコンなど組み立て業者との部品取引における「押し込み」による一時的な利益かさ上げである。

 大型プラントなど複数年度にわたる工事では、進捗に応じた売り上げと費用の計上が行われる。以前、国内企業では完成時点で一括計上する完工基準がとられていたが、十数年前から進行基準の採用企業が多くなった。進行基準のポイントは、赤字工事になる見通しが生じた時点で引当金として全費用を前倒しで計上しなければならない点だ。東芝はそれを先延ばしすることで、一時的に利益のかさ上げを行っていた。

 実はこのことは、相当厄介な問題を孕んでいる。将来予測や見積もりの問題が入り込んでくるからだ。というのも、今振り返れば楽観に過ぎた収支計画だったとしても、当時はある程度現実的な計画に見えたかもしれないのである。実際、ゼネコンではこんなケースがざらにある。受注時点で赤字でも工事期間中のコストダウン努力(多くの場合、下請け叩き)でそれを吸収してしまうのである。つまり、将来予測の評価は極めて難しいということだ。個々の工事に精通していない監査法人などにとって、それはなおさらである。

 話を広げれば、同様の問題は企業買収によるのれん代や生産設備など固定資産の減損テスト、繰延税金資産の評価にも当てはまる。会社側はなるべく損失を計上したくないから楽観的な将来計画に傾きがちだ。とりわけ、のれん代は国際会計基準(IFRS)の導入で最長20年間にわたる均等償却の必要性がなくなるため、楽観的な将来計画が行き詰まり、ある日突然、巨額の損失が発生するようなケースが今後続出するに違いない。果たしてそれが投資家にとって懇切丁寧な情報開示かどうか、大いに疑問である。

 要は東芝が行っていた工事進行基準における損失先送りは決して特殊なケースではなく、程度の差こそあれ今現在でも水面下では多くの企業が行っている可能性が高いものだといえる。そして、それらをばっさりと「粉飾」「不正」「不適切」と切り捨てることは案外と難しいのである。

部品取引の問題

 次に部品取引はどうか。

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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