JRA最後の未勝利「敗戦」が意味する究極の選択とは!? 騎乗した騎手は結果を出せずにその後引退……「地方の怪物」にも現役続行が危ぶまれた過去
先週の4日、新潟競馬場で行われた3Rの3歳未勝利(ダート1800m)は、三浦皇成騎手が騎乗したカンリンポチェ(牡3、美浦・田村康仁厩舎)が勝利。2着馬に8馬身差をつける大楽勝で1番人気の支持に応えた。
近3走で3連続2着と、あと一歩のところで勝利を逃がしていた惜敗続きにピリオドを打ったこの勝利は、次走でも注目を集めることだろう。未勝利最終週で勝利へ導いた三浦騎手としても、ひとまずは胸を撫で下ろしたのではないだろうか。
この時期に話題となる最後の3歳未勝利戦は、熾烈な争いが繰り広げられる。普段は馬優先のローテーションを組む調教師ですら、勝つためには連戦や連闘も辞さない過酷な舞台だ。なぜなら勝てなかった3歳馬に残されるのは、厳しい選択しかないからである。
では、3歳未勝利戦を勝てなかった馬には、どのような選択肢があるのか。
まず一つは地方への移籍で、この場合は2勝すると中央へ戻ることが可能。いわゆる出戻りである。2つ目は格上挑戦となる1勝クラスに出走する。3つ目は登録を抹消すること。これ以外にも地方競馬や乗馬、研究馬としての売却や障害練習などもなくはないが、馬主や調教師としては、出来ることなら避けたい結論だろう。
そんな競走馬にとっての“究極の選択”だが、現在、三浦騎手とのコンビでダートG1に向けて活躍しているダンシングプリンス(牡5・美浦・宮田敬介厩舎)も、一度は“地獄”を経験したことのある一頭だ。
同馬の中央デビューは、タイムリミットも差し迫った3歳の8月。デビュー戦を除外となり、初戦を迎えられたのはほぼギリギリの31日。小倉4Rの3歳未勝利戦(芝1200m)に三津谷隼人騎手が騎乗して、3番人気に支持された。スタートで後手を踏んで後方からの競馬を強いられた結果、勝ち馬に1馬身1/4差及ばず2着に敗れた。
しかも、大きな出遅れがありながら、最後の直線でも2頭分ほどの大外を回すロス。上がり3ハロン最速の脚で豪快な追い込みを披露したように、“最後の未勝利戦”を敗れても素質の片鱗を見せていた。
この敗戦で陣営が最初に選択したのは、格上挑戦による巻き返し。2戦目は、距離を芝1600mに伸ばした阪神の1勝クラスへ出走した。今度はデビュー戦とは異なる先行策での競馬を試みたものの、4コーナーを回ったところでズルズルと後退。16頭立ての11着という大敗を喫し、距離への不安も顕著となった。
2戦の手綱を取った三津谷騎手は、今年5月20日に24歳の若さで騎手を引退。現在は調教助手へと転身しているが、ダンシングプリンスを勝たせることが出来ていれば、引退の決断はもう少し先だった可能性もある。
そこで陣営が次に選択したのは、地方競馬である船橋への移籍だった。
それからの活躍は周知の通り。大差の逃げ切りで地方デビューを飾ると、2戦目は8馬身差、3戦目は5馬身差をつけるワンサイドゲーム。出戻り条件を上回る3勝を挙げて中央の舞台へと復帰を決めた。「地方の怪物」といわれたその勢いはとどまることを知らず、中央でも3連勝を決め、地方から合わせると破竹の6連勝を飾っている。
ダートの短距離で開花したダンシングプリンスは、初重賞挑戦となった昨年12月のカペラS(G3)を3着に敗れて連勝がストップ。次走の大和S(OP)でも、1番人気を裏切る6着と敗れたが、4月の京葉S(L)を見事に勝利して、再び上昇気流に乗りそうな勢いもある。
勿論、このような事例は決してよくあることではないが、今年最後の未勝利戦で敗れた馬の中にも、未来の期待馬が潜んでいるかもしれない。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。
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