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【JRA観戦記】13万人が詰めかけた唯一無二の競演。サイレンススズカ、グラスワンダー、エルコンドルパサーの歴史に残る戦い。1998年毎日王冠

【JRA観戦記】13万人が詰めかけた唯一無二の競演。サイレンススズカ、グラスワンダー、エルコンドルパサーの歴史に残る戦い。1998年毎日王冠の画像1

 競馬に限らず、どんなスポーツにも歴史に残る一戦がある。プロ野球なら勝利したチームがセリーグ優勝という、1994年10月8日の巨人VS中日戦。またサッカー日本代表が、初めてワールドカップ出場を決めた1997年11月16日のジョホールバルの歓喜も有名だ。

 そして競馬にも多くのG1レースが歴史に残る一戦と言えるが、1998年の毎日王冠(G2)こそ唯一無二の歴史に残る一戦といえよう。

 この年の毎日王冠は出走馬が9頭と多くなかった。それはある3頭の存在があまりに大きく、他の有力馬が回避したのが主な理由だった。前走まで5連勝で宝塚記念(G1)を制覇したサイレンススズカ、デビューからNHKマイルC(G1)まで5戦無敗のエルコンドルパサー、デビューから朝日杯3歳S(G1)(現、朝日杯FS)まで4戦無敗のグラスワンダー。この3頭があまりにも抜けていたのである。

 7年後に無敗で三冠を達成するディープインパクトが登場まで、サンデーサイレンス産駒の最高傑作と評価されたサイレンススズカと、当時は外国産馬ゆえに日本ダービー(G1)の出走権がなく、ここまでクラシックの王道を歩めずも、その実力が評価されていたエルコンドルパサーとグラスワンダーの無敗3歳馬2頭。この3頭の初対決に日本中が沸いた。


■1998年 毎日王冠(G2)出走馬
1番プレストシンボリ (岡部幸雄騎手・藤沢和雄厩舎)
2番サイレンススズカ (武豊騎手・橋田満厩舎)
3番テイエムオオアラシ(福永祐一騎手・二分久男厩舎)
4番エルコンドルパサー(蛯名正義騎手・二ノ宮敬宇厩舎)
5番ランニングゲイル (柴田善臣騎手・加用正厩舎)
6番グラスワンダー  (的場均騎手・尾形充弘厩舎)
7番サンライズフラッグ(安田康彦騎手・安田伊佐夫厩舎)
8番ワイルドバッハ  (M.ロバーツ騎手・元石孝昭厩舎)
9番ビッグサンデー  (宝来城多郎騎手・中尾正厩舎)


 この3頭以外にも鳴尾記念(G2)勝ちのサンライズフラッグ、重賞3勝のビッグサンデーなど、出走馬9頭中8頭が重賞勝ち馬とハイレベルなメンバーであった。

 人気は59kgの斤量を背負いながらもサイレンススズカが1.4倍で1番人気、2番人気は55kgのグラスワンダーで3.7倍、3番人気が57kgのエルコンドルパサーで5.3倍。離れた4番人気がサンライズフラッグは単勝32.9倍だったので、いかにこの3頭が抜けていたかわかる。

 サイレンススズカの鞍上は名手・武豊騎手。前走の宝塚記念はエアグルーヴに騎乗したため、南井克巳騎手が代打騎乗での勝利だったが、それまでの主戦は武豊騎手であり、この毎日王冠後は天皇賞(秋)、さらにはアメリカ遠征も計画されていた。

 同馬はデビュー前からその素質を評価されていたが、2戦目の弥生賞(G2)で大出遅れをやらかすなど気性的に未熟な部分もあり、本格化を果たしたのは明け4歳の2月から。年明け初戦のバレンタインS(OP)を快勝すると、それまでの成績が嘘だったかのように重賞を連勝。中山記念(G2)~小倉大賞典(G3)~金鯱賞(G2)~宝塚記念と5連勝を達成。秋初戦でこの毎日王冠を選択したのである。

 グラスワンダーはデビュー戦からすべてのレースで上がり最速を記録し、どのレースも後続に0.4秒以上の差を付けて圧勝。朝日杯3歳Sはレコードタイムで制し、JRA最優秀2歳牡馬に選ばれている。その後骨折が判明し春は不出走、この毎日王冠が復帰戦だった。デビューから的場均騎手が主戦を務めていたが、的場騎手はエルコンドルパサーの主戦でもあった。ゆえに毎日王冠はどちらに騎乗するのか注目を集めたが、的場騎手はグラスワンダーを選択する。

 エルコンドルパサーは2歳11月にダートでデビュー。その後ダートで3連勝を達成し、ニュージーランドT4歳S(G2)(現、ニュージーランドT)、NHKマイルC(G1)も連勝して5戦無敗。デビューから的場騎手が主戦だったが、この毎日王冠では同じく主戦だったグラスワンダーの騎乗を選択したため、蛯名正義騎手への乗り替わりとなった。

 スタートは休み明けのグラスワンダーが遅れる。そしてスピードの違いでサイレンススズカがあっという間に先頭に立つと、後続を一気に離していく。開幕週の高速馬場とはいえ、1000m通過は57秒7というハイペース。しかしサイレンススズカにとってこのペースは通常運転だ。そのサイレンススズカをマークする形でエルコンドルパサーが好位を追走する。

 レースが動いたのは第3コーナー。サイレンススズカは持ったままで楽に逃げるが、出遅れたグラスワンダーが一気に仕掛けてサイレンススズカに並びかけようとした。その仕掛けに観衆は大歓声を上げる。しかし余裕を見せて4コーナーを先頭で回ったサイレンススズカは、直線に入ってさらにスピードを上げていく。まさに異次元のスピードとスタミナであり、他馬との手応えの差は歴然。グラスワンダーは力尽き馬群に沈みエルコンドルパサーが2着に浮上、先頭を駆け抜けたのはサイレンススズカだった。


・レース結果
1着サイレンススズカ
2着エルコンドルパサー
3着サンライズフラッグ
4着プレストシンボリ
5着グラスワンダー
6着ビッグサンデー
7着ランニングゲイル
8着テイエムオオアラシ
9着ワイルドバッハ


 東京競馬場に駆け付けた13万人を超える競馬ファンは、サイレンススズカの強さに酔いしれた。そして誰もが同馬の明るい将来を夢見たのである。エルコンドルパサーとグラスワンダーは健闘したものの、やはりこのレースでは単なる脇役でしかなかった。着差以上の差を感じさせたサイレンススズカの強さ。このレースを見た誰もが、次の天皇賞そしてアメリカ遠征でも大きな仕事をやってのけるはずだと確信した。

 だが周知のとおり、サイレンススズカは次走の天皇賞(秋)で故障を発生し競走中止、まさかの予後不良という結末を迎える。つまりサイレンススズカが最後にゴールを駆け抜けたレースが、この毎日王冠だったのだ。

 その後、エルコンドルパサーがジャパンC(G1)を勝利。翌年にはフランスのサンクルー大賞典(G1)を勝利し凱旋門賞(G1)で2着に好走。グラスワンダーは暮れの有馬記念(G1)、翌年も宝塚記念と有馬記念を制するなどグランプリ3連覇の偉業を達成した。そんな2頭に影も踏ませず圧倒的な強さを見せたのがサイレンススズカだったのである。いずれもJRA史に残る名馬3頭が激突した1998年の毎日王冠は、間違いなく歴史に残る唯一無二の一戦だった。


 時は経って2021年。今年の毎日王冠には安田記念を勝利したダノンキングリー、NHKマイルCを制したシュネルマイスター、ドバイターフ(G1)2着のヴァンドギャルドなどが出走する。またサイレンススズカとはタイプが違うが、逃げ馬のトーラスジェミニも出走する。どんなレースを見せてくれるか、今年も各馬の走りに注目したい。

(文=仙谷コウタ)

<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。

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