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高安雄一「隣国韓国と日本の見方」

韓国の「外国人労働者の受け入れ制度」が大成功した理由…韓国人の失業者増えず

文=高安雄一/大東文化大学教授
韓国の「外国人労働者の受け入れ制度」が大成功した理由…韓国人の失業者増えずの画像1「Gettyimages」より

 日本は原則として外国人労働者を受け入れていない。外国人労働者の受け入れについては政府で議論が行われてきた。日本では近年、人手不足が問題になっているが、外国人の受け入れで人手不足を解消するのではなく、女性、若者、高齢者など国内人材の確保に最大限努めるべきであるとして、受け入れには慎重な立場を崩していない。

 一方、お隣の韓国では2004年から外国人労働者を受け入れている。外国人労働者受け入れで一番懸念されることは、自国の労働者の職が奪われることであろう。人手不足といっても業種や企業規模などによって大きな差がある。外国人労働者が、自国の労働者が就業しない職場で働けばいいが、そうでない場合は両者で競合が起こり、自国の労働者が職場から押し出されてしまう可能性もある。その結果、失業率が高まってしまえば、国民の不満が高まることも予想され、政府としてもこれは避けたいところであろう。

 韓国では外国人労働者を受け入れるため雇用許可制度が導入されたが、この制度は外国人労働者により韓国人労働者の職が奪われないようさまざまな工夫が盛り込まれている。結論から述べれば、一部で問題は出ているものの、この工夫は概ねうまく機能している。よって韓国の雇用許可制は日本にとって大いに参考になる制度ではないだろうか。

緻密な韓国の雇用許可制

 さて具体的に韓国の雇用許可制を見ていく。同制度で入国する外国人労働者は、一般外国人労働者と特例外国人労働者に分かれる。特例外国人労働者は、両親か祖父母が韓国籍を持っていた者であり、圧倒的に中国の朝鮮族が多い。日本に参考になるのは、一般外国人労働者であり、以下はこれについて説明していく。

 なお、一般外国人労働者が就業できる産業は、農水産業、建設業、製造業であり、サービス業はごく一部の業種でしか就業が認められていない(ちなみに特例外国人労働者はサービス業への就業が広範に認められている)。また送出国は、労働者数が多い順からカンボジア、ネパール、インドネシア、タイ、スリランカ、ベトナム、フィリピンなど16カ国である。

 外国人労働者と韓国人労働者の競合を防ぐための仕組みのひとつ目は、韓国人を2週間募集したにもかかわらず人が集まらなかった企業のみが外国人労働者を雇うことができることである。これであれば、韓国人があまり働きたがらない零細企業やいわゆる3K業種を中心に外国人を雇うことができ、外国人が韓国人の職を奪うことにはならない。

 2つ目の仕組みは、永住権を得られない期間に限り就労を許可することである。雇用許可制の下では、3年間の在留が認められ、さらに雇用主が再雇用した場合には1年10カ月の延長が認められる。永住権を得るためには5年間連続して韓国に住所がある必要があるため、外国人労働者が永住権を得ることはできない。

 ちなみに、2012年からは4年10カ月の期間が切れて韓国から出国した外国人労働者が、3カ月後に再び雇用許可制により再入国して就業できる制度が新設された。これは仕事に慣れた外国人労働者に引き続き働いてほしいという雇用主の要望を受け入れた制度であるが、この場合でも、いったん韓国から出ているので永住権取得の対象にはならない。よって外国人労働者が永住権をとることで年々その数が増加することはない。

 3つ目の仕組みは、毎年政府が不足する労働力を業種ごとに推計して、その数だけ外国人労働者を受け入れることである。景気の状況によって労働力不足の程度は変化する。すでに韓国で就業している外国人労働者が出国すれば労働力が不足する。そこで政府は、業種ごとの欠員率、翌年の景気見通し、在留期限が切れ本国に戻る外国人労働者の数などを勘案して、業種ごとに新しく受け入れる労働者数を毎年決定している。外国人労働者の受け入れ総量は管理されており、無制限に外国人労働者が流入するわけではない。

 これら3つの仕組みが功を奏していることもあり、韓国では外国人労働者を受け入れることにより自国の失業が増えるといった状況には至っておらず、逆に農業や製造業の零細企業などでは外国人のおかげで事業が継続できているところが少なくない。

副作用は限定的

 もちろん、まったく問題が生じていないとはいい切れない部分もある。たとえば、ミクロレベルでは、外国人を採用するために、韓国人が応募しないようわざと厳しい条件で募集をかける職場もあると聞く。またマクロレベルでは、人手不足により韓国人の賃金上昇が抑えられている可能性は否定できない。

 ただし外国人労働者を雇用している零細企業は、体力がなく賃金の引上げが難しいところが大半であると考えられ、このような企業が人手不足により事業継続を断念すれば、韓国人の雇用減にもつながりかねない。よって、総じてみれば外国人労働者受け入れによるメリットは大きく、副作用は限定的であると考えてよいだろう。

 日本でも人手不足が深刻化している。この解決策のひとつは外国人労働者の受け入れであろうが、実際に制度を設計する場合には、韓国の雇用許可制は大変参考になる。韓国は新しい制度を導入する際に日本の成功事例を参考にし、これを自国向けにアレンジして取り入れてきた。韓国では外国人労働者を受け入れることで、韓国人を集めることが難しい業種や中小・零細規模の企業の人手不足が緩和されている。人手不足解消の切り札となっている韓国の事例、日本がこれをしっかりと知る価値は大きい。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)

高安雄一/大東文化大学教授

高安雄一/大東文化大学教授

大東文化大学経済学部教授。1966年広島県生まれ。1990年一橋大学商学部卒、2010年九州大学経済学府博士後期課程単位修得満期退学。博士(経済学)。1990年経済企画庁(現内閣府)に入庁。調査局、人事院長期在外研究員(ケルン大学)、在大韓民国日本国大使館一等書記官、国民生活局総務課調査室長、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て、2013年より現職。著書に『やってみよう景気判断』『隣の国の真実 韓国・北朝鮮篇』など。
大東文化大学経済学部高安雄一プロフィールページ

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