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ニンテンドーラボ大爆死の“想定外の理由”…透ける任天堂の圧倒的にしたたかな戦略

文=沼澤典史/清談社
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ニンテンドーラボ大爆死の“想定外の理由”…透ける任天堂の圧倒的にしたたかな戦略の画像1任天堂の古川俊太郎代表取締役社長(写真:AFP/アフロ)

 昨年4月、鳴り物入りで発売された任天堂の「Nintendo Labo(ニンテンドーラボ)」。人気ゲーム機器「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」とダンボール工作の融合という斬新なアイデアに注目が集まり、大きな話題となった。しかし、ラボの売り上げは当初から伸びず、低調気味だという。

 なぜラボは不発だったのか。その原因と任天堂の今後の戦略などについて、ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に聞いた。

発売早々に失速…起爆剤にならなかったラボ

 1月31日、任天堂は主力のゲーム機であるスイッチの年間目標販売台数を2000万台から1700万台に15%下方修正したことを発表した。その原因は、ソフトの売れ行きの低迷だという。『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』など人気シリーズ最新作の売り上げは安定しているが、新規ソフトが伸び悩み、それに伴い本体の売れ行きも失速してしまったようだ。

 また、当初はラボの発売によってスイッチの売り上げがさらに伸びることが予想されていたが、スイッチの下方修正を見る限り、ラボは期待されていた起爆剤としての役割を果たせなかったといえる。任天堂の古川俊太郎代表取締役社長は「スイッチの魅力を伝える努力が不十分だった」とコメントしているが、ラボの独創的なアイデアへの評価は高かっただけに、任天堂の落胆は大きいようだ。

 ラボの“爆死”は数字に表れている。昨年4月の発売後、初週こそ国内で12万台を売り上げたが、3カ月後の7月には週2000本台に失速し、早々にトップ10圏外に消えたのだ(ゲーム情報誌「ファミ通」調べ)。しかしながら、「新たな遊び」を目指した内容は前評判通りのもので、「決して悪いものではなかった」と吉田氏は語る。

「子どもと一緒にダンボールで組み上げる工程がすごく楽しかったです。親子のコミュニケーションを図ることもできるし、ものづくりの楽しさがわかる。ゲーム部分は食い足りない点もありますが、ダンボールとの連動も申し分ないし、まさに任天堂しかつくれないようなエンターテインメントだと思います」(吉田氏)

 モノは悪くないのに、なぜ売れなかったのだろうか。そこには「販売現場の切実な嘆き」があったと吉田氏は分析する。

ラボの現物が販売店に流れなかった事情

「売れなかった一番の理由は販売店にあると思います。ゲームソフトはネット通販やダウンロード販売が主流になってきており、従来の家電量販店やゲームショップは淘汰されてきている。かろうじて残っている販売店も売り場のスペースが減少しているので、ラボのような大きいものをなるべく置きたくないし、在庫に残しておきたくもない。そのため、そもそも現物が店頭に多く流れていなかったんです」(同)

 ゲームソフトの利益率は非常に低く、仮に売れ残っても小売店はメーカーに返品できないため、在庫分は赤字になってしまう。特にラボのようなサイズが大きく特殊な商材は、目先の売り上げよりも在庫リスクのほうが大きかったというわけだ。

「ラボは実際に触ってみるとおもしろさがわかるタイプの商品ですが、ショップに現物がないので、どんなモノなのかわからない。今のゲームユーザーの主力層である20~40代の男性はネットで買うので、そもそも販売店には行きません。任天堂は『家族でゲームを楽しむ』層を狙っていたのかもしれませんが、そんな家族にラボのおもしろさを訴求できる場など、どこにもないのが現状なんです」(同)

 こうしてラボは販売不振の一途をたどることになったわけだが、任天堂はユーザーだけでなく販売店の声にも耳を傾けるべきだったのかもしれない。

それでも任天堂が他社の追随を許さない理由

 予想外の苦戦を強いられているラボだが、「それでも任天堂は盤石」と吉田氏は言う。そこには、老舗としての強みと他社にはない戦略があるからだ。

「現在のゲーム機メーカーで子ども向けに商品を出しているのは任天堂だけです。これは、子どものときから任天堂のキャラクターやゲームを刷り込み、一生かけて親しんでもらおうというディズニーのような戦略で、いわば未来への投資。ラボのようなとがった商品が失敗しても、その“黒歴史”が将来的にカルト的な人気を呼ぶということを体験的にわかっているのも強みですね」(同)

 任天堂は知的財産を生かしたキャラクタービジネスに力を入れており、『スーパーマリオブラザーズ』の映画化や、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに新エリア「SUPER NINTENDO WORLD」をオープンさせるなど、ゲーム以外にも手を広げている。

「任天堂には、マリオをはじめ多くの人気キャラがいます。これはライバルのソニーやマイクロソフトには絶対に真似できないことです。今後も新たなゲーム機ができればシリーズものを何度も焼き直してリリースし、昔の作品は『クラシック』として売り出すなど、同じものを手を変え品を変えて販売するでしょう。そのような利益率の良いコンテンツがたくさんあるため、ラボのような挑戦ができるのだと思います」(同)

 ラボのような革新的な取り組みを見せる一方で、実は手堅い商法を展開している任天堂。まさに、隙のない経営戦略といえそうだ。人気のキャラとコンテンツを抱えている限り、任天堂の成長は“コンティニュー”し続けるのだろう。
(文=沼澤典史/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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