高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

コメダ、常連客失いかねない「危険な改革」にFC店が猛反発…全世代客取り込む攻撃経営

新商品の立て看板。左の商品は8月1日の発売予定

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 2016年に東証一部上場を果たした喫茶店チェーン「コメダ珈琲店」が依然として好調だ。上場後の初決算となった17年2月期は、売上高240億5200万円(対前年比110.7%)、営業利益68億8500万円(同105%)を記録し、増収増益となった。スターバックスコーヒー、ドトールコーヒーショップに続く国内3位の店舗数も順調に伸びており、最新の店舗数は753店にまで拡大した(5月31日現在)。

 1968年に創業したコメダは、まもなく創業50周年を迎える。これまでは「定番メニューをいつもと変わらず提供し続ける」が店の方針だったが、ここ数年で手法を変えている。今回はその具体例と舞台裏を紹介したい。

6月1日から発売中の「飲むとプリン」

限定の新スイーツを続々投入

 コメダは6月1日、期間限定のスイーツ「飲むとプリン」(620円/税込み、以下同)を発売した。「ジェリコ」と呼ぶデザートドリンクの新商品で、ジェリコとは「珈琲ジェリー(ゼリー)」と「珈琲」を組み合わせた造語。3年前から夏季限定で販売してきた。

 今回の発売に先がけて、5月26日に同社主催の「メディア向け新商品試食会」が東京都内で開催され、筆者も参加した。限定の座席数を大きく上回る取材申請があり、急遽、2回に分けて開催したという。筆者は08年から同社を取材してきたが、最近は演出にも力を入れており、会場には「名古屋から、店と同じソファーを東京に運び」(同社関係者)、新商品の立て看板(ボード)も設置された。

 ジェリコに限らず、コメダは近年、新たなスイーツメニューを次々に投入している。たとえば4月10日には「瀬戸内レモンケーキ」(430円)と、ロールケーキ「きなこ日和」(280円)を春・初夏の限定として投入。6月下旬までの販売予定だという。

「瀬戸内レモンケーキ」
「きなこ日和」

 また、小豆を使用した「小豆小町 アイス」というデザートドリンクも「葵」(ブレンドコーヒー+小豆+ミルク)、「桜」(紅茶+小豆+ミルク)、「菫(すみれ)」(小豆+ミルク)の3種類(各480円)で販売中だ(ただし、一部店舗では価格が異なる)。

 なぜ、コメダはこれほどスイーツメニューを増やすのだろうか。

「新商品はほとんどが期間限定商品のため、『スイーツメニューを増やしている』という感覚はあまりありません」

コメダの広報担当・清水大樹氏はこう前置きしながら、次のように話す。

「もともとコメダは定番商品を大切にしてきました。でも1968年に創業してから、まもなく50周年を迎え、時代とともに消費者の嗜好も変わっています。そこで伝統を大切にしながら、近年は時代を見据えた新たな提案を『期間限定商品』というかたちでも行っているのです」

 ジェリコに続き、「かき氷」の発売も始まった(9月下旬までを予定)。こちらも期間限定だが、お客からの支持は高いという。

FCオーナーの意見を聞きながら「変革」

 実は、こうした取り組みは14年にスタートした。社内に「デザート改革プロジェクト」を立ち上げ、参加メンバーにFC(フランチャイズチェーン)店オーナーにも入ってもらい、季節のスイーツなど新たな商品を検討し始めた。

 あまり知られていないが、コメダの総店舗数のうち約98%がFC店だ。長年にわたり「コメダブランド」を支えるFC店の意向を無視して新商品を投入することはできない。

 当初は「変わらずに、いつも同じ味の商品を提供し続けるのがコメダのやり方だ」「季節限定の商品はコメダにはなじまない」という反対意見も多かった。FC店オーナーの中には、長年の店舗運営実績に自信を持ち、本部主導の改革に抵抗感を示す人もいた。新商品の投入に対して「あ、ウチはやりませんから。この時期はただでさえ忙しいので」と公言するFC店オーナーもいたという。

 その流れが変わったのは「時代性」だった。時代の流れとともに、日本の消費者の味覚は進化しており、個別の店からインターネットでのお取り寄せまで、食品の種類も味も多様化した。昔ながらの定番商品だけでは新鮮味がないどころか、一歩間違えれば「古くさい」と思われてしまう。コメダが限定品中心とはいえ、新スイーツの続々投入に舵を切ったのは、こんな裏事情があった。

「期間限定商品も、いまとなっては季節の風物詩になりつつあります。コメダらしい定番メニューに加え、『この季節ならではの楽しみ』を加えることで、お客さまに喜んでもらえればと思っています」(清水氏)

 新商品が定番化することもある。前述の「小豆小町」は、もともとホットメニューとして投入された商品だ。朝の時間にドリンク代だけで無料でつくモーニングサービスは、15年12月から「選べるモーニング」となり、トーストとともに、(A)定番ゆで卵、(B)たまごペースト、(C)小倉あんの3つからひとつを選べるようになった。

コメダの「選べるモーニング」

 ただし、新商品や期間限定品を次々に増やすと、店の現場は混乱しかねない。「選べるモーニングも検討に検討を重ねて、店の負担をできるだけ増やさないメニューにした」(同社)という。その視点で3つのメニューを見直すと、たまごペーストはミックスサンドやエッグサンドなど、ほかのメニューで応用できる具材を採用している。

「長年の常連客」に寄り添う姿勢も大切

どこかホッとするような、コメダの店内

 こうした新しい商品の投入にはリスクも伴う。若い世代のお客には支持されても、昔からコメダを支持する常連客(特に年配のお客)にそっぽを向かれる危険性もあるからだ。

 コメダには、長年にわたり“生活習慣”のように店に通う常連客も多く、そのような客ほど高齢化していく。こうした年配の常連客に寄り添う姿勢も大切だ。総じて、年齢を重ねれば注文も保守的になる。コメダには、毎日決まった時間に来店して「いつもの」と注文を出す年配の常連客も目立つ。その意味では、前述した「変わらずに、同じ味の商品を提供し続けるのがコメダのやり方」という意見もかみしめる必要がある。

 同社の強みは「昔ながらの喫茶店」のイメージだ。ずっと同じメニューではお客も店も刺激を受けないので、新商品を投入する手法は大切だが、一定の需要がある定番商品を新商品と入れ替えてメニューからなくしてしまうと、常連客は「自分の好む店ではなくなった」と離れてしまいかねない。特に少子高齢化が続く現代、若者を対象とした店以外の飲食店は、中高年客を大切にすることが経営安定的にも望ましい。

 一方で、「常連のたまり場と化した店が、お客も店主も高齢化して、やがて役割を終える」ことも避けたい。ロングセラーブランドで怖いのは、時代に取り残されることだ。次の世代に「古くさい」と思われると世代交代が進まず、やがて消えゆく存在となる。「定番品」と「期間限定品」の使い分けは、そのバランスをとったのだろう。

 そして、新商品のスタンスを何に置くかの答えは、「どこかホッとする」だと思う。お客はコメダの新商品に、流行の最先端など求めてはいない。その意味で、冒頭で紹介した「飲むとプリン」は、いい線をいっていると思う。コーヒーではなくミルクセーキとカラメルゼリーを合わせたドリンクで、専用の太いストローでかき混ぜながら飲む。

 試食会に同席した、甘いメニューに精通する編集者はこんな感想を述べていた。

「たっぷりのホイップにカラメルソースがかけられていて、ゼリーは甘さ控えめでほんのり苦い。まさに昔ながらの喫茶店のプリンを飲んでいるような味わいでした」

 これらの新商品を長年の常連客も注文するようになった時、初めてコメダのチャレンジが成功したといえるだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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