小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

「複職の権利」創設を目指して…週1日は別企業、1日2社で勤務など多様化の重要性

「Gettyimages」より

「所得」とは「所(ところ)を得(え)る」と書く。人口増加で高成長の経済であれば、賃金や雇用が年々改善し、一つの組織に属しそこから所得を得てもリスクは低かったが、人口減少で低成長の経済では、所属する組織の業績が悪化し、所得(の一部)を失うリスクもある。最悪のシナリオでは、所属組織そのものが倒産し、失業してしまう可能性もある。

 このようなリスクをヘッジするためには、いくつかの組織に所属し、複数の組織から所得を得ることができる雇用のポートフォリオを組むのが賢い選択である。本業のほかに別の職業をもつことを「副職」というが、厚労省の「就業構造基本調査」によると、本業も副業も雇用者である労働者の数は概ね増加傾向で推移し、2017年で約129万人となっている。この129万人のうち男性は約57万人、女性は約72万人であり、1992年は約75万人(男性:約47万人、女性:約28万人)であった。

 また、本業も副業も雇用者である労働者について、本業の従業上の地位を見ると、女性では「パート」(43.5%)や「アルバイト」(18.9%)が多いものの、男性では「正規の職員・従業員」(36.8%)や「会社などの役員」(26.3%) も多い。さらに、本業の所得階層で見ると、年間所得299万円以下の所得階層で全体の約7割を占める一方、年間所得が199万円以下の階層と1000万円以上の階層で副業をしている者の割合が比較的高い(図表1)。


図表1(出典:総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」)

 複数の事業所で雇用される者を「マルチジョブホルダー」というが、本業のほかに副業をもつ「副職」に留まらず、雇用のポートフォリオを構築するためには、いくつか複数の職をもつ「複職」を可能とする必要がある。また、「複職」という選択は、雇用のポートフォリオとして機能するのみでなく、個人のさまざまな知識・スキル獲得を促し、企業にも人材の有効活用や社員の能力向上といったメリットも存在するはずである。

「複職の権利」創設

 このような状況のなか、政府は、2017年3月下旬の「働き方改革実現会議」において、「働き方改革実行計画」を決定しており、そのなかには「柔軟な働き方がしやすい環境整備」として、「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定」等を記載している。

 この実行計画を受け、厚労省は2018年1月に(副業の壁であった)「モデル就業規則」を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業について規定を新設している。それと同時に、副業・兼業について、企業や働く方が現行の法令のもとでどういう事項に留意すべきかをまとめたガイドライン(正式名称は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」)やそのQ&A等を作成し公表している。

 もっとも、モデル就業規則やガイドラインには法的な拘束力はなく、実際に複職を認めるか否かは各企業の判断に依存する。ソフトバンクグループ、新生銀行やユニ・チャームといった一部の企業では副業を解禁しているが、現在のところ、社外への情報の漏洩リスクなどを理由として、経済界を中心に副業への慎重論も多い。

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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Twitter:@DeficitGamble

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