高橋篤史「経済禁忌録」

マスコミで時代の寵児扱いの有名ベンチャーが破産…売上ほぼゼロ、トンデモナイ実態

セブンドリーマーズのHPより

 開発ベンチャーのseven dreamers laboratories(東京都港区、以下、セブンドリーマーズ)が4月23日、東京地裁に破産を申し立て、手続き開始が決定された。負債額は22億5200万円。同社は全自動洗濯物折り畳み機「ランドロイド」を開発していたことで知られ、パナソニックや大和ハウス工業など錚々たる株主が名を連ねた。テレビなどでもたびたび取り上げられていた国内屈指の有名ベンチャーだった。

 セブンドリーマーズを率いた阪根信一氏は1971年生まれ。甲南大学を卒業後、米デラウェア大学に留学、2000年に実父の勇氏が経営する樹脂部品製造会社、アイ.エス.テイ(滋賀県大津市)に入社した。勇氏は住友電気工業を脱サラして起業、材料開発の分野で一定の地歩を築いた人物。その血を受け継ぐ信一氏も起業家精神に溢れていたようで、家業には飽き足らず14年7月にセブンドリーマーズを立ち上げることとなった。

 セブンドリーマーズが手掛けたのはゴルフシャフト、いびき予防の鼻腔チューブ「ナステント」、そして前述したランドロイドの3本柱。とりわけ注目されたのが阪根氏の妻の一言が開発のきっかけになったというランドロイドで、パナソニックや大和ハウスが出資に応じたのもその有望性に着目してのことだった。ほかにもセブンドリーマーズには東京大学系ベンチャーキャピタルや米系投資ファンドKKRの創始者らが期待を寄せ、惜しみなくシードマネーを投じた。資金調達額は設立3年で100億円の大台に達したほどで、これほどカネを集めたベンチャーは国内でそうそう見当たらない。

「彼については学生時代から知っていて、最初はおとなしい人間かと思ったけど、(セブンドリーマーズ立ち上げ後は)違いましたね。どちらかと言うとエキセントリックで下の人間はみんなヒーヒー言ってました。夜中の2時、3時に電話があったりね」

 阪根氏を知る関係者がそう話すように、セブンドリーマーズが3本柱の事業化に急ピッチで取り組んだのは間違いない。経営陣にはソニー子会社で社長を務めた地引剛史氏ら大手企業出身者が居並び、阪根氏を支えた。早くから海外展開を見据え、フランス、米国、中国に現地法人を設立してもいる。

 が、3本柱の収益化はほとんど捗らなかった。先行したのは完全オーダーメイドを売りとするゴルフシャフト事業で、大手広告代理店と契約してジャンボ尾崎選手を広告塔に起用、銀座の一等地にショールームを設け、拡販に努めた。次なるナステントはインターネット通販を主力に個人ユーザーの開拓を進める戦略をとった。それでも売上高はせいぜい数億円で、セブンドリーマーズの売上高はもっとも稼いだ18年3月期ですら7億円余りにとどまったのが実際だ。

 そして肝心のランドロイドについて言えば、売上はゼロだった。初号機の製品化もできずじまいだったからだ。ランドロイド事業に関しては、飲食店プロデュースの「きちり」に委託して東京・神宮前にカフェを開業して実機を宣伝、1台185万円で予約を集めていた。当初の出荷開始予定は17年秋。が、ついにリリースは叶わなかった。前出の関係者によると、「耐久試験をやっていなかったため出荷が延びた」というのが真相らしい。

 他方でコストだけは嵩んだ。このためセブンドリーマーズの業績は赤字垂れ流しが続いた。営業赤字は毎年、20億円前後。18年3月期の決算書を見ると、営業外収益としてパナソニックと大和ハウスから各1億円の支援金を受け取り、国の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から1億7400万円の補助金を得ているが、焼け石に水。最終赤字は約16億~17億円に上り、積み上げられた資本金はみるみるうちに食い潰された。

“挑戦する有力ベンチャー”、剥がれたメッキ

 そうした間、社内ではゴタゴタもあったようだ。17年9月には会計監査人が新日本監査法人からPwCあらた監査法人に期中で交代。この頃、新規株式公開のための主幹事も変更されたという。退任する取締役も相次いだ。役員間の対立もあったとされる。取締役のひとりが個人で会社を持っており、そうした不透明な点も対立の背景にはあったようだ。

 もっとも、これら後ろ暗い事情が表に出ることはない。あくまでマスコミでの取り上げられ方はユニークな事業に挑戦する有力ベンチャーという華々しいものだった。

 しかし、昨年秋ともなると、そうしたメッキが剥がれ始め、異変が表面化することとなる。ひとつの転機は昨年11月に実行したゴルフシャフト事業の譲渡だ。同事業は収益化に最も近いとみられていた。ナステント事業では17年初めにユーザーが睡眠中に誤飲してしまう事故が問題化したため自主回収を迫られ、医療機関の処方指示書が必要になったことで販売が大きく落ち込んでいた。セブンドリーマーズが虎の子のゴルフシャフト事業を譲渡した先も憶測を呼んだ。実父が経営するアイ.エス.テイだったからだ。

 このため、この頃から倒産準備に入っているのではないかとの見方が強まり始めた。セブンドリーマーズは昨年3月から8月にかけパナソニックと大和ハウスから計10億円の増資を仰いでいたが、これについても「手切れ金では」と一部で囁かれた。

 破産申立書によると、実際この頃にはセブンドリーマーズの資金繰りは綱渡りの情況にあったようだ。昨年3月と5月、同社はSBIホールディングス系の投資会社から計8億円を借り入れている。期限は9月末だから短期の運転資金である。が、売上がほとんどないから返せるはずもない。頼った先は役員個人の財布だ。ただ、創業者の阪根氏が用意できたのは7000万円だけ。残り7億3000万円を拠出したのはソニー出身の地引氏だった。樹脂部品製造の子会社スーパーレジン工業(同社は15年11月にアイ.エス.テイから買収したもの)の株式を担保に差し出しての借り入れとされた。

 ただ、返済を乗り切ったもののすぐに資金不足に陥る。そこで、10月までに阪根氏が追加で1億9000万円を拠出。2カ月後にはまたSBI系投資会社に泣きついた。確保した借入枠は11億円。ただし、そう簡単に融資は引き出せない。まだ担保に入れていなかったスーパーレジン工業株の9%分やランドロイドの知的財産権のうち3分の1相当の共有持ち分権、ナステントの知的財産権のすべて――それらをかき集めても、借入枠から引き出せたのは7億6200万円にとどまった。

 この間、セブンドリーマーズは出資を仰ぐべく中国企業との交渉を進めた。関係者によると、三洋電機の一部事業を引き継いだことで知られるハイアールが有力候補だったという。が、それも不調に終わり、万策尽きた。今年2月以降は社会保険料も滞納するような有り様だった。

呆れた放漫経営

 破産申立書を子細に見ていくと、セブンドリーマーズの金遣いの荒さにはほとほと呆れる。18年3月期を見ると、開発ベンチャーではあるものの研究開発費が約4億円なのに対し、広告宣伝費・販売促進費は約5億円に上った。地代家賃は1億円弱。約70人の会社だから1人当たり月12万円ほどかけていた計算になる。東京・三田の本社事務所の家賃は2カ所合計で約4300万円、また近くには「芝ラボ」と称し約1600万円で事務所を借りていた。大阪の「梅田ラボ」でも家賃は約1300万円。さらに各320万~370万円の負担を伴う社宅と称する賃借物件も3件あった。社長用の駐車場代は60万円弱である。

 そして役員報酬も高額。阪根氏は6600万円も取っていたし、三菱電機出身者にも2730万円が払われていた(もっとも最後、阪根氏は私財拠出に追い込まれているのだが……)。また、一般社員に対しても大盤振る舞いだったようだ。破産により昨年冬の賞与は未払いとなったが、大手企業並みの100万円超とされた社員はごろごろと居た。賞与だから本来は業績連動のはずだ。

 これらも、ある程度、事業が軌道に乗ったベンチャーなら目くじらを立てることではないのかもしれない。が、看板事業の収益化が一向に見通せず、大赤字を垂れ流し続け、資本金を食い潰すだけの企業となれば別だ。優秀な人材を集めるためという大義名分はあったにせよ、分相応の支出だったかは非常に疑わしい。

 それにしても不思議なのは、パナソニックや大和ハウスというしっかりした大企業が保有割合で各々約10%を持つステークホルダーだったにもかかわらず、このような放漫経営が許されていた点。湯水の如く出資が集まるとベンチャーは腐敗しかねない――。それがセブンドリーマーズの残した教訓である。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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