トヨタ、国内最大の住宅メーカーに…あまりに非道なミサワホーム買収劇

トヨタホーム本社(「Wikipedia」より)

 トヨタ自動車パナソニックが住宅事業を統合する。2020年1月に共同出資会社を立ち上げ、ここに両社の住宅関連の子会社であるトヨタホームやパナソニックホームズなどを移管する。

 新会社名はプライム ライフ テクノロジーズ。トヨタとパナソニックが均等出資し、三井物産も出資を検討する。

 新会社にトヨタはトヨタホーム、およびトヨタホームの子会社であるミサワホームを移管。パナソニックはパナソニックホームズ、松村組、パナソニック建設エンジニアリングの3社を移管する。パナソニックで住宅事業を担当する北野亮専務執行役員が新会社の社長に就く。トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニックホームズのブランドは存続する。

 トヨタとパナソニックは電気自動車(EV)などの車載用電池で関係を深めてきた。今年1月には、電池の開発製造を担う合弁会社の設立を発表。住宅事業の統合で協業の領域が広がることになる。通信機能などを備えたトヨタの「つながる車(コネクテッドカー)」とパナソニックの家電などの技術を持ち寄り、未来志向の街づくりを展開するという。

 新会社の社長に就く北野氏は「少子高齢化で住宅着工の減少が見込まれ、次の局面を考えないといけない」と、統合の狙いを語った。

 トヨタの豊田章男社長は、5月8日の決算会見で「これからは仲間づくりがキーワードとなる。1社だけでは何もできない」と強調した。昨年1月には、自動車メーカーから「移動サービス会社」への脱皮を宣言。配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズに出資し、ソフトバンクと移動サービスの事業を手掛ける新会社も立ち上げた。パナソニックとの住宅事業の統合も、その一環だ。

 一方、パナソニックの津賀一宏社長には、より切迫感がある。「脱家電路線」を推進し、自動車向け電池など車載分野や住宅を成長の柱と位置付けてきた。上場企業だったパナホーム(現パナソニックホームズ)を完全子会社とし、中堅ゼネコンの松村組も買収した。自動車や住宅の強化を図ってきたが、19年3月期は4つあるセグメントのすべてで減益。20年3月期は、電池などオートモーティブ部門の赤字を想定している。

 パナソニックは18年12月にトヨタに住宅事業の統合を打診し、トヨタが受け入れた。

新会社の住宅販売戸数は、首位の積水ハウスを上回り国内最大に

 住宅メーカーの売上高は、事業の多角化を進める大和ハウス工業(19年3月期の売上4兆1435億円)が断トツの首位。2位は注文住宅最大手の積水ハウス(19年1月期の売上2兆1603億円)。この2強をパワービルダー(分譲住宅)最大手の飯田グループホールディングス(19年3月期の売上1兆3449億円、業界3位) と木造の在来工法大手の住友林業(同1兆3088億円、同4位)が1兆円台で追う。

 トヨタホームの売上高は5529億円(18年3月期)で住宅メーカー6位。ミサワホームのそれは3993億円(19年3月期)だが、ミサワはトヨタホームが51%出資する連結子会社のため、トヨタホームの売り上げに含まれる。

 トヨタは今回の移管に当たり、トヨタホームを通じてミサワホームを完全子会社にする。ミサワホームの株式1株に対してトヨタ株0.155株を割り当てる「三角合併」を実施し、ミサワホームは12月30日に上場廃止となる。

 パナソニックホームズの売上高は3750億円(19年3月期)で10位。松村組の売り上げは364億円(18年3月期)である。

 新会社の売上高は単純合算すると9643億円と1兆円に迫り、住友林業に続く業界5位に浮上する。

 戸建住宅の販売戸数と売上高(企業規模)は一致しない。顧客の要望に応じて造る注文住宅や、手持ちの土地に建物を建ててから売る分譲住宅がある。大手10社でも販売戸数のシェアは3割程度で、工務店などの存在感が大きい。

 主要住宅メーカーの17年度の戸建住宅販売戸数ランキングによると、8位がミサワホームの6885戸、9位がパナソニックホームズの5090戸、10位がトヨタホームの4810戸。3社合計は1万6785戸となる。首位の積水ハウスの1万3294戸を大きく上回り、新会社は、販売戸数で国内最大の住宅メーカーにのし上がる。

創業者、豊田喜一郎と松下幸之助の思い

「トヨタとパナソニックの住宅事業統合は、それぞれの創業者の思いが結び付けた」(有力財界人)との見方がある。

「住まいづくりほど大切な仕事はない」。パナソニック創業者の故松下幸之助氏のこうした思いから、現在のパナソニックホームズが1963年に誕生した。

 一方、トヨタの家づくりは、トヨタ創業家にある“一人一業”に基づく。業祖、豊田佐吉翁は豊田式自動織機を発明した。佐吉翁は1927年10月、昭和天皇から勲章を授与され、親族一同、記念撮影という晴れの席で倒れた。そして、「喜一郎、お前は自動車をやれ」と一言、言い残して世を去ったというのが「一人一業」の始まりとされる。

 長男の豊田喜一郎氏がトヨタ自動車を設立したのは、この「一人一業」を説く佐吉翁の意思による、と巷間伝わっている。

 喜一郎氏が、長男・豊田章一郎氏(創業家三代目、現・名誉会長)に「一人一業」として勧めたのが住宅だ。戦後、焼け野原を目にした喜一郎氏は「木や紙でつくった燃える家ではダメだ」と痛感したからだ。章一郎氏は、木と紙でつくらないトヨタホーム(鉄骨構造体)を起こし、「一人一業」を実践した。

 トヨタが住宅事業に参入したのは工販合併前の1975年。三代目の章一郎氏が情熱を傾けた新規事業であった。だが、参入当初、地場の工務店からトヨタ車の不買運動が起こるなど、順風満帆な船出ではなかった。庶民は鉄骨の家より木で造った住宅を好んだ。

 住宅は章一郎氏の「一人一業」の事業だ。なんとしてでも、住宅事業を形あるものにしなければならない。そのためには、トヨタホームが弱い木造住宅を手に入れる必要があった。それがミサワホーム買収の大作戦の底流にあったことは間違いない。

 ミサワホームの買収作戦の総指揮を執ったのは、日本経済団体連合会(経団連)会長でトヨタ自動車会長(当時)の奥田碩氏。03年4月、トヨタ自動車の住宅事業部から分離し、トヨタホームを設立。早速、ミサワホームの買収に動いた。これにミサワホームの創業者、三澤千代治氏が猛反発した。

 そこで、ミサワホームを不振企業の駆け込み寺だった産業再生機構に追い込み、トヨタが再生スポンサーになることで、ミサワホームを手に入れた。このトヨタの買収劇は、「世界のTOYOTAが、そこまでアコギなことをやるのか」と顰蹙を買った。

 トヨタはミサワホームを手に入れて、住宅大手の一角に食い込んだ。そして、今度はパナソニックとの住宅統合で“日本一”の住宅メーカーに躍り出る。これは豊田章一郎名誉会長の「一人一業」の総仕上げを意味する。

 四代目の豊田章男社長の「一人一業」は何か。

 それは、人工知能(AI)だ。米シリコンバレーに人工知能技術の研究開発のための新会社を設立している。人工知能は自動運転技術、ロボット、生産管理など幅広い分野で応用できる。人工知能を深掘りして、新分野での起業の機会を探る。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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