篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

コンサートホールの“あの形”の秘密…革命起こした56年前のベルリン・フィル新ホール

「Getty Images」より

「“アウトリーチ”は、1990年代から2000年にかけての考え方。現在ではもう古い考え方になっています」

 現在、全米のオーケストラのなかで、経済基盤が一番大きく成長したロサンゼルス・フィルハーモニックの新CEO(最高経営責任者)、サイモン・ウッズ氏の言葉です。彼はテニス最高峰の大会で有名なイギリス・ウィンブルドン生まれです。

 アウトリーチとは、「手を伸ばす」という意味の英語ですが、公的機関や文化施設が行う、「地域への出張サービス」という意味でも使われています。たとえば、オーケストラの場合なら、地域の学校や福祉施設などに出かけていくことにより、住民に芸術に関心を持ってもらい、未来の聴衆を育てるための意味がある活動となります。

 2月23日付本連載記事『日本のクラシック音楽に絶大な貢献をした「子供のためのオーケストラ鑑賞教室」の凄み』で書いたように、オーケストラの鑑賞教室はアウトリーチ活動の最たるものであり、聴いてくれた子供たちが将来、コンサートホールでのオーケストラ・コンサートに来てほしいという思いが詰まっています。しかし、これを真っ向から「もう古い考え方だ」と言われてしまったわけで、僕はもちろん、それを聞いた日本の音楽関係者は大きなショックを受けました。

 彼の主張は、次のような内容です。

「50年くらい前ならば、観客のほうからホールに聴きに来てくれたので、オーケストラはホール内で良い演奏をしているだけで十分だったし、広告もたいして必要ではありませんでした。しかしながら、1990年くらいから、さまざまな情報が発信され始めたことにより、オーケストラがホールで演奏するだけでは難しい時代となり、ホールを飛び出して地域を訪れ、露出と存在感を増す必要性が出てきた。これがアウトリーチの考え方です。

 そして、2020年を迎えようとする現在では、インターネットなどの発展で、情報が溢れる時代となり、オーケストラがどれだけ社会と“タッチ”していけるかが重要なキーとなります。住民からすれば、『自分たちが住んでいる街に、どうしてオーケストラが必要なのか』『オーケストラの存在が自分たちに何をもたらしてくれるのか』ということを、住民にアピールすることを考えなくてはならない時代なのです。ですから、今は“アウトリーチ”ではなく、“タッチ”の時代なのです。そして、これからも時代に合わせて、どんどん新しく違う考え方が出続けるでしょう」

“タッチ”の例のひとつとして彼は、前の職場であるシアトル交響楽団の話をしてくれました。ホームレスの人々を奏者の間に座らせてオーケストラを演奏し、それが大成功だったそうです。つまり、オーケストラが社会問題にも関心を持ち密着することで、街にとって大切な存在なのだと認識してもらうための活動なのです。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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