石堂徹生「危ない食品の時代、何を食べればよいのか」

機能性表示食品を食べてはいけない!効能・安全性に疑問の原料を使用している事例が発覚

「Thinkstock」より

 食品機能性表示制度は、やはり危ない仕組みなのだろうか。2015年4月13日付当サイト記事『健康食品、規制緩和で健康被害急増?届出制により安全性・有効性の審査が形骸化か』で、同制度が科学的裏付けを欠くアメリカのサプリメントを手本にしていると伝えたが、早くもその危うさが露呈し始めた。

 機能性表示食品は特定保健用食品(トクホ)と違い、国の厳しい審査・許可が不要で、届出をすれば「企業の自己責任で、科学的根拠に基づく表示が可能」という手軽さが特徴だ。

 それゆえ、消費者庁への届出は4月中旬までに100件を超え、そのうち形式上のチェックを終えた第一陣として、8件が受理された。キリンビールのノンアルコールビールやライオン、キユーピー、ファンケルのサプリメントなどがそれだが、ベンチャー企業・リコムのサプリメント「蹴脂粒」がメディアなどで問題視【編注1】されている。

 蹴脂粒は、エノキタケから熱水【編注2】などで抽出した成分が配合されたサプリメントだ。リコムは、同商品の表示について「体脂肪(内臓脂肪)を減少させる働きがあります。体脂肪が気になる方、肥満気味の方に適しています」という内容を消費者庁に届け出た。1日に摂取する目安となる4粒(1.2グラム)に含まれるエノキタケ抽出物は、400ミリグラムだ。

トクホはダメで機能性表示食品はOKの謎

 同社は09年、同じくエノキタケ抽出物400ミリグラムを含む茶系飲料「蹴脂茶」をトクホとして申請していた。

 しかし、内閣府の消費者委員会の調査会【編注3】が11年に了承後、同じ内閣府の食品安全委員会の調査会【編注4】が、安全性に懸念を示した。まず、トクホの安全性と効果について調査する消費者委員会の調査会が11年12月9日、蹴脂茶を了承した。ただし、審査内容が企業の権利・利益を侵害する恐れがあるとして、公表されている議事要旨は以下のみである。

「エノキタケ抽出物を関与成分とし、体脂肪が気になる方や肥満気味の方に適する旨を保健の用途とする食品(茶系飲料)〔株式会社リコム〕 調査会として了承することとされた」

 つまり、どのような議論の末に了承されたのか、などについては、何もわからないのだ。蹴脂茶と成分が同じ蹴脂粒の機能性表示食品の申請では、「関与成分は腸管から吸収された後、血液の循環に運ばれ脂肪細胞の表面に存在するベータ受容体への結合を介して脂肪の低減作用を発現している可能性が示唆されました」となっている。

 しかし、今年2月に食品安全委員会の調査会が発表した「評価書案」【編注5】で、疑問が投げかけられた。まず、申請者はエノキタケ抽出物の成分が脂肪を蓄える脂肪細胞の表面にある物質と結合する際の作用について、動物の組織などを使って成分の反応を調べる基礎的な試験管内試験(イン・ビトロ)で、3本の学術論文を根拠にして説明をしている。しかし、マウスなど実験動物を使う生体内試験(イン・ビボ)では、4本の学術論文を根拠に説明をしているが、「実際にその機序(メカニズム)で作用していると判断するには十分なデータが示されていない」というものだ。

 2つ目は、その脂肪細胞に対して働く作用があるとすれば、「その作用によって心血管系、泌尿器系、生殖器系など、多岐にわたる臓器に影響を及ぼすことは否定できない」というものだ。同じ作用がある医薬品の場合、精神神経系や循環器系などに副作用の報告があるという。そこで、仮にその作用があるのなら、「提出された書類からは本食品(蹴脂茶)の安全性が確認できない」「作用機序及び安全性について科学的に適切な根拠が示されない限りにおいては、本食品の安全性を評価できない」とされた。

 つまり、リコム側が提出した資料は科学的な根拠にはならない、というわけだ。

リコムの反論

 これに対して、リコムは同社のHP【編注6】で反論している。まず、「作用機序が示されていない」という点については、以下だ。

1.「生体内の作用機序の説明は学会論文4報を提出し十分に説明しています」

2.「その4報のデータに基づいて、平成23年12月9日に内閣府消費者委員会の調査会において、作用と機序は了承されています」

「作用機序が医薬品と同じなので影響が否定できない」という点については、「(食品成分)作用は、医薬品よりはるかに弱く、1日摂取目安量は生エノキタケに換算すると4グラム程度にすぎません(エノキタケ抽出物として0.4グラム)」と主張している。

 安全性については、「ヒト試験では、心拍数や血圧や血液成分などにおいて有害事象は認められていません」と反論している。

4段階の審査で厳しくチェック

 消費者委員会が了承した一方で、食品安全委員会は疑問を投げかけた背景には、以下のような事情がある。

 消費者庁長官からトクホの許可を得るためには、次のような4段階の審査【編注7】を受けなければならない。

(1)消費者委員会の調査会(安全性と効果の判断)
(2)食品安全委員会の調査会(安全性を中心に審査)
(3)消費者委員会新開発食品調査部会(改めて安全性と効果の判断)
(4)厚生労働省医薬食品局(医薬品の表示に抵触しないかの確認)

 蹴脂茶の場合、(1)で了承されたが、(2)で疑問とされた。次いで、5月12日の食品安全委員会(第560会合)で、評価書案通りに「安全性が確認できない。そのため、評価することはできない」とする最終的な評価書がまとめられ、消費者庁に通知された。

 今後、(3)の消費者委員会、しかも調査会より上位の新開発食品調査部会で、あらためて安全性と効果について判断が下される。その後、(4)を経て、最終的な結論が出されるという段取りだ。

アベノミクスの目玉制度が根本的見直しを迫られる

 問題は、機能性表示食品としての蹴脂粒だ。機能性表示食品を販売するには、販売予定日の60日前までに消費者庁に届出をする必要がある。申請書類や資料などのチェック後に申請が受理され、60日後に販売可能となる。

 蹴脂粒は、すでに届出が受理されており、6月中旬以降に販売可能となる予定だが、消費者庁の「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」【編注8】によると「安全性及び機能性の科学的根拠について新たな知見が得られ、機能性関与成分の科学的根拠として不十分な内容となったときには、速やかに撤回届出書を提出する」とされている。

 トクホ関連などで「新たな知見」が得られた場合、販売後に該当商品の回収を迫られる可能性があるというわけだ。回収となれば、これは消費者にとって極めて重大な問題であると同時に、企業にとっても回収コストやイメージダウンの面でリスクが大きい。

 蹴脂粒の場合、トクホの申請で同様の製品が厳しい審査を受けていたからこそ、疑問点が指摘された。もし、機能性表示食品の届出だけであれば、疑問は表面化せず、消費者の判断に委ねられたはずだ。

 しかし、消費者委員会の審査をくぐり抜けたと思われる学術論文を、食品安全委員会のレベルでチェックできる消費者が、はたして何人いるのだろうか。

 今回の問題によって、機能性表示制度には重大な落とし穴があることがわかった。アベノミクスの成長路線の目玉である同制度は、早くも根本的な見直しを迫られているといえる。消費者としては、危険を感じる機能性表示食品には手を出さないほうが賢明かもしれない。
(文=石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト)

【編注1】朝日新聞2015年4月25日付『トクホで疑問の成分、機能性食品はOK 近く販売可能に』、日本経済新聞2015年4月28日付『機能性表示食品に「疑問」成分 トクホ検査では「安全性懸念」』
【編注2】「エノキタケ抽出物は長野および中国(浙江省)原産エノキタケの熱水抽出物…」(堀裕輔ら「エノキタケ抽出物含有食品の連続摂取による内臓脂肪減少効果の検証」応用薬理、76(1/2)15-24(2009))
【編注3】消費者委員会新開発食品調査部会新開発食品評価第一調査会
【編注4】食品安全委員会新開発食品専門調査会
【編注5】食品安全委員会新開発食品専門調査会「特定保健用食品評価書(案) 蹴脂茶」2015年2月
【編注6】株式会社リコムのHP
http://www.j-ricom.com/
【編注7】4段階の審査=消費者庁食品表示課「特定保健用食品の許可審査手続きに関する説明資料」の「特定保健用食品の審査手続きの流れ」
【編注8】「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」の「届出の在り方に係る事項」

石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト

1945年、宮城県生まれ。東北大学農学部卒。養鶏業界紙記者、市場調査会社などを経て、フリーに。現在、農業・食品ジャーナリスト

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