
コスモ石油マーケティング株式会社とGreen Carbon株式会社は、会津エリアの水田で創出した農業由来のカーボンクレジットを地域内で活用し、燃料油由来のCO2排出をオフセットする国内初の地産地消型スキームに取り組んでいます。稲作の中干し期間を延長してメタンの排出を削減し、その環境価値を地域内で循環させることで、農家の収益向上と脱炭素、地域経済の活性化を同時に実現する狙いです。
補助金に依存しない持続可能なモデルとして、他地域からも関心が寄せられる中、仕掛け人であるコスモ石油マーケティングの桒原龍夫氏とGreen Carbonの井家良輔氏に、その舞台裏を聞きました。
中干し期間の延長でメタンを約3割削減。農家の副収入にもつながる仕組み

――コスモ石油マーケティングが、カーボンクレジットを活用した燃料油由来のCO2排出オフセットに取り組む背景を教えてください。
桒原:私どもは燃料を販売している企業であり、お客様が排出するCO2に対して向き合う責務を持っています。2026年度から本格稼働した排出量取引制度、そして温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)の影響もあり、企業によるCO2排出のオフセットニーズが高まってきました。それを受けて、「我々がオフセットした燃料油を提供することで、排出削減につなげ、お客様の利便性を高める」という目的で今回の取り組みがスタートしました。

井家:今回の取り組みの特徴は、農家、クレジットの活用企業、地域社会のそれぞれにメリットが生まれるよう設計されていることです。
まず会津エリアの農家の方が中干し期間を延長し、温室効果ガスであるメタンの排出を削減することでカーボンクレジットを創出します。私たちはそのクレジット創出を支援し、コスモ石油マーケティングにカーボンクレジットを販売します。農家の方にはクレジット販売による収益が還元され、コスモ石油マーケティングはそのクレジットを活用したオフセット燃料を北日本エネルギーグループに提供できる。さらに、地域で生まれた環境価値を地域内で活用することで、資金の地域内循環にもつながります。
このように、各主体に経済的・環境的なメリットをもたらすスキームだと考えています。農業由来のカーボンクレジットを地域内で活用し、燃料油由来のCO2オフセットに用いる試みは、国内初だと認識しています。
――中干し期間を延長することが、なぜメタンの削減につながるのでしょうか?
桒原:水田に水を張ると、土壌が酸素の少ない状態になり、メタン生成菌が有機物を分解する過程でメタンが発生します。中干しによって土壌に酸素が入ると、メタン生成菌の働きが抑えられます。その期間を延ばすことで、メタンの発生量を減らせるのです。メタンは、CO2よりも温室効果の大きいガスです。
中干しとは、一般に1週間程度、水田の水を抜く作業です。水を抜くことで稲の根張りを促し、倒れにくくするほか、土壌を固めて機械による作業をしやすくする効果もあります。この中干し期間を従来より1週間程度延長することで、メタンの発生を約3割抑制できます。
――中干し期間を延長することで、農家の作業負担はどの程度増えるのでしょうか?
桒原:中干し期間の延長そのものについては、新たに大がかりな作業が発生するわけではありません。しかし、夏の高温と日照りが続くと、稲に被害が出てしまうこともあるので、何軒かの農家の皆様が途中で中止したことがあります。現在、Green Carbonさんとともに、中干し期間の延長に代わる施策を模索しているところです。
井家:何よりも農家の皆様ファーストの取り組みですので、日照りが続いて稲がダメになってしまう可能性が少しでもあるのであれば、そこは別の方法も検討するべきです。日本国内のメタン排出量の約4割は水田由来だというデータがあり、水田のメタン削減はこれからも注力していかなければならない課題です。
会津のクレジットを会津で使う。地産地消型の脱炭素モデルの意義

――今回の取り組みにおける両社の役割分担を教えてください。
桒原:会津エリアが抱える課題を把握し、農家の皆様と直接つながりながら、クレジット創出への参加を広げていくことが私たちの役割です。
プラットフォーマーであるGreen Carbonがネイチャーベースのカーボンクレジット創出を目的に発足させた「稲作コンソーシアム」に、コスモ石油マーケティングも参画して、会津の農家の皆様とともにクレジットを生み出しています。会津では自分たちの足を使って農家の皆様と直接、接しています。今後はコスモエネルギーグループが持つ全国の特約店ネットワークを生かし、他地域にも取り組みを広げていきたいと考えています。
井家:Green Carbonは稲作コンソーシアムの運営と、農家の皆様からデータをいただいてカーボンクレジットを創出するお手伝いをしています。カーボンクレジットは、事業者が独自に発行できるものではなく、国が運営するJ-クレジット制度の認証を受けて初めて発行されます。そのための申請にはさまざまな情報や書類が必要になるので、農家の皆様の申請が滞りなく進むようサポートするのも私たちの役割です。
――会津で構築したモデルを、今後どのように他地域へ展開していくのでしょうか?
桒原:今回は稲作の中干し期間延長により創出したクレジットで燃料をオフセットしていますが、例えばホテルのボイラーの燃料をその地域で作ったクレジットでオフセットすることもできるでしょう。そのような活動を続けていけば、地産地消でサステナブルな取り組みをしていることで地域に貢献ができます。
私たちは会津でいろいろな企業と脱炭素についてのお話をしていますが、多くの方が興味を持ってくれます。地域の企業にとっても、事業活動に伴う環境負荷を抑えることは重要な課題です。地域の人同士が支え合うことで、経済を活性化させる。環境価値から生まれる資金を可能な限り地域内で循環させることが、地域経済を支えることにつながります。
会津から全国へ。地域経済を守り、脱炭素を加速する

――会津は地域として、グリーンや地産地消の機運が盛り上がっているのでしょうか?
桒原:私たちが約5年前に会津イノベーションオフィスを設立した主な理由として、会津若松市が「スマートシティ会津若松」を掲げ、ICTやデジタルを活用した地域課題の解決に取り組んでいたことがあります。
昨今は米価の変動が大きいですが、5年ほど前は米価が低迷し、多くの農家の皆様が厳しい状況におかれていました。そこで、クレジットの販売収益を農家の皆様に還元し、収益向上につなげようと考えました。エネルギー会社としてのコスモ石油マーケティングが、脱炭素という側面で環境価値を生み出せることもメリットの一つです。エネルギー会社の責務として、地域経済を守りつつ脱炭素の動きを加速する。会津エリアで稲作コンソーシアムへの参画を広げることで、地域のブランディングにもつながります。
――他の自治体からのリアクションはありましたか?
桒原:山口県下関市からは早い段階でお問い合わせをいただきました。その後、同市が応募した第5回「脱炭素先行地域」の提案にコスモ石油マーケティングが共同提案者として参画し、2024年9月に選定されています。さらにその後の取り組みとして、中干し期間の延長によるJ-クレジット(中干しクレジット)の創出を提案しています。
地域ごとに基準となるメタン排出量が異なるため、同じ面積で中干し期間を延長しても、創出できるクレジット量には差があります。山口県では、東北地方と比べて1ヘクタール当たりの創出量が半分程度になります。
――今回の取り組みで見えてきた可能性、今後の展望について教えてください。
井家:私たちは地産地消のスキームをとても大事にしています。いろいろな企業からカーボンクレジットのニーズを聞きますが、中でも「この地域のクレジットが欲しい」「こういった文脈でのクレジットはありますか?」といった相談を多くいただきます。今回のコスモさんとの取り組みを皆さんに紹介すると、地産地消の側面に好意的な反応を示してくれます。
昨今のカーボンクレジットでは、「本当に温室効果ガスの削減につながっているのか?」「信頼性はあるのか?」「どのようなバックグラウンドがあるのか?」「地域でオフセットした価値は地元に還元されているのか?」といった点が重視されます。会津エリアを中心として多くの地域に拡大していけば、農家の皆様の新たな収益機会を生み、地域企業の脱炭素を後押しすることにつながります。今後も引き続き連携させていただければと考えております。
桒原:実際に取り組んでみて、少しずつではありますが、地域の方の脱炭素に対する意識や行動を後押しする効果はあるのかなと思います。地域の農家の皆様がクレジットを生み出し、地域の企業がそれを活用して地域経済を回していく。それは非常に分かりやすいですよね。
補助金に依存せず、事業として継続できる仕組みになっていることにも意義があります。脱炭素で地域経済を活性化していく取り組みは、これからいろいろな形のものが出てくるでしょう。今回の取り組みがそれらの先駆けになればいいと思います。