高齢化が進む日本社会で、「おひとりさま終活」が静かに、しかし確実に広がっている。かつて終活といえば、葬儀や墓、遺産の整理など“死に向けた準備”を意味することが多かった。だが今、その概念は大きく変わりつつある。現代の終活は、むしろ“今とこれからの暮らしを誰にも迷惑をかけずに全うするための自立設計”という色合いを強めている。

この潮流を象徴するデータが、燦ホールディングス株式会社が2025年7月11日に発表した「第6回ライフエンディングに関する意識調査」だ。同調査は、首都圏・近畿圏在住の40〜70代で葬儀を取り仕切った経験のある男女1,000名を対象に、インターネットアンケート形式で行われた(調査期間は2025年3月3日〜8日)。ライフエンディングに直近で向き合った層からの回答ということもあり、その内容は現実感と示唆に富む。

 

過半数が終活を実践――おひとりさまは「今できること」優先

調査では、52.4%が既に何らかの形で終活を実施していると回答。特に注目すべきは「おひとりさま層」と「家族あり層」で行動内容に明確な違いがある点だ。

「おひとりさま終活」が拡大|終活は“死への備え”から“生きるための設計”へ変容の画像1

終活を実施しているおひとりさま層で最も多かったのは「荷物の整理(断捨離)」14.0%。次いで「インターネットやSNSで情報収集」12.0%、「金融機関などに相談」8.0%、「年賀状じまい」8.0%と続く。これらは比較的短期間で着手可能な実践的タスクであり、“現時点での行動”を重視している様子が見て取れる。

一方、終活を実施している家族あり層では1位が「年賀状じまい」17.6%、2位「荷物の整理」17.0%、3位「老後資金の検討」13.3%だった。老後資金についてはおひとりさま層の5.0%と比べて8.3ポイント高く、“将来の設計”に重きを置く傾向が明らかだ。

 

8割超が「ライフエンディングへの不安」を抱える現実

「ライフエンディングへの不安」については、全体の83.4%が何らかの不安を抱えていると回答。内訳(複数回答)は「認知症」41.4%、「老後資金」36.1%、「体力の衰え」36.0%が上位を占める。

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この結果は、死後のことよりも、むしろ老後の生活そのもの──健康・経済・生活基盤の持続可能性──に対する懸念が強いことを示す。おひとりさまに限らず、家族がいても老後は自分で乗り越えるべき課題という認識が広がっている。

「孤独死」「保証人問題」が突きつける社会的課題

調査では、おひとりさま層が今後直面し得る具体的な不安も浮き彫りとなった。「孤独死」43.8%、「高齢者を狙った犯罪」43.5%、「保証人問題」35.4%、「社会的孤立」35.2%が上位である。

特に保証人問題は深刻だ。賃貸契約や入院、施設入所だけでなく、銀行口座の開設や携帯電話契約など日常生活の広範な場面で支障を来す。家族や親族が少ない現代、従来型の“家族保証”は機能しにくくなっている。

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葬儀の概念も変わる「喪主のいらないお葬式Ⓡ」

こうした状況に対応する形で、公益社は「喪主のいらないお葬式Ⓡ」というサービスを提供している。生前から契約し、葬儀・供養・死後事務までを包括的にカバーする仕組みで、喪主や近親者がいなくても葬儀が執り行える。保証人問題や死後の手続きまで含めてサポート可能で、首都圏および近畿エリアで展開中だ。

このサービスは「誰にも迷惑をかけたくない」というニーズに応えると同時に、葬儀業界のビジネスモデルをも変えつつある。従来、葬儀は“遺族を中心に行うもの”だったが、今後は“本人主導”の契約型葬儀が当たり前になる可能性が高い。

 

終活は“生きるための設計”へ

今回の調査から明らかなのは、終活が“亡くなる準備”から“生きるための設計”へと大きくシフトしていることだ。健康・資金・住まい・社会的つながりといった生活基盤をどう維持するかが、終活の核心となりつつある。

おひとりさま終活は、社会的課題であると同時に、新しい市場機会でもある。高齢化社会を持続可能にするためには、この変化を前向きにとらえ、行政・企業・地域が一体となって支える仕組みづくりが欠かせない。