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遺伝子の働きを調節する「DNAメチル化(※)」の情報から、生物学的年齢や老化の速度を測る「エピジェネティック・クロック」の開発を進める株式会社Rhelixa。日本人に特化した評価基盤を通じて、老化を科学的に捉え、一人ひとりが自らの健康をコントロールできる社会を目指しています。

「健康や若さをデザインし、資産化できる時代を目指す」

そう語る代表取締役の仲木竜氏に、Rhelixaがロンジェビティ分野に挑む理由、日本の可能性や企業との共創、そして研究者が研究を続けられる未来について聞きました。

※:DNAメチル化とは、DNAに『メチル基』という化学的な目印(マーカー)がつくこと。DNAメチル化は環境/加齢などで変化することが知られており、DNAの配列そのものを変えることなく、遺伝子の働き方が調節される。

なぜ“健康寿命”の課題に挑むのか

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——仲木さんがRhelixaを創業した経緯を教えてください。

Rhelixa創業の背景には、大学の研究室で研究に携わってきた私自身の経験があります。

私は生命科学分野の研究者として大学で研究を続けてきましたが、大学では研究費を継続的に確保することが簡単ではなく、成果次第では2年程度で打ち切られてしまうケースも珍しくありません。

そのため、10年、20年という長い時間をかけて取り組むべきテーマであっても、腰を据えて研究を続けることが難しい環境にあります。

一方で、研究室には臨床医として働きながら研究を続けているメディカルドクターもいました。彼らは収入基盤があるため、研究費の捻出に左右されることなく、自らの研究テーマに長期的な視点で向き合うことができます。

そこで私も、自分たちの研究を事業化し、その収益を研究へ還元できる仕組みをつくれないかと考えたのです。

事業によって安定した収益を生み、その利益を長期的に取り組むべき研究へ投資する、その実現を目指して、11年前にRhelixaを創業しました。

なお、現在注力しているロンジェビティ分野へ本格的に取り組み始めたのは、およそ3年前からです。


——とくに、ロンジェビティの分野に着目し、研究・開発を行っている理由はなんでしょうか?

実は、私たちは「ロンジェビティこそ今すぐ取り組むべき課題だ」と考えて、この分野に参入したわけではありません。

Rhelixaは特定の研究テーマに限定することなく、生命科学に関わるさまざまな研究に取り組んでいます。

私たちがロンジェビティ分野に取り組むようになった背景には、生命科学における研究対象や社会的なニーズの変化があります。その大きな転換点のひとつとなったのが、2000年頃のヒトゲノム解読です。

ヒトゲノムの解読以前は、生命科学の研究は個々の遺伝子や現象を対象に進められることが多く、実験で得られた結果に対して「なぜこのような反応が起きたのか」を十分に解析することは容易ではありませんでした。

しかし、ゲノム全体を網羅的に解析できるようになったことで、膨大なデータから新たな知見を導き出すデータドリブンな研究が可能となり、生命科学は大きな転換期を迎えたのです。

こうした技術は、まず、がん研究や再生医療、創薬などの分野で活用され、疾患の原因解明や診断、治療の発展に貢献してきました。一方、研究が進むにつれ、多くの疾患は、発症した時点ですでに病態が複雑化しており、その段階から疾患ごとに対処するだけでは限界があることも見えてきました。

そのため近年では、「病気になってから治す」だけでなく、より早い段階から変化を捉え、「病気になる前の健康な状態をいかに長く維持するか」という考え方へと関心が広がっています。

その延長線上で、ロンジェビティや予防医療が世界的に注目されるようになりました。

私たちRhelixaは、創業以来、ゲノム・エピゲノム解析や、生命科学と工学を融合した解析技術の開発を強みとしてきました。こうした技術を活用して、病気という結果だけでなく、その前段階にある生体の変化や老化そのものを捉えることができるのではないかと考え、ロンジェビティ分野に本格的に取り組むようになりました。

とくに海外では、日本ほど公的医療保険制度が充実していない国も多く、病気になれば高額な医療費を自己負担しなければならないケースも少なくありません。そのため、日頃から健康管理に取り組み、疾患を未然に防ぐことへの意識が高まりやすい環境にあります。

こうした生命科学の発展と世界的な潮流の中で、ロンジェビティは、私たちが培ってきた技術を社会実装する上で、大きな可能性を持つ領域だと考えています。

エピジェネティック・クロックで健康の資産化が可能に!?

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——世界的にも注目度が高いロンジェビティ分野ですが、社会実装などにおいて課題はあるのでしょうか?

ロンジェビティにおける課題は大きく2つあります。

ひとつは、検査費用が高額であることです。これはエピジェネティック・クロック普及の障壁にもなり得ます。

しかし、技術の進歩や利用の普及によって、今後徐々に費用が下がっていくのではと予想しています。

もうひとつが、老化における評価指標や体系が定まり切っていないことです。こちらのほうが、より本質的な課題だと考えています。

そもそも老化は、数値を見て太っている痩せていると判断する体重のように、ひとつの指標のみで評価することができません。「なぜ老化が進んでいるのか」「どのような介入が老化の抑制につながるのか」といった要素まで含め、多面的に捉える必要があります。

エピジェネティック・クロックは、老化の状態を総合的に評価する指標として非常に有用です。

しかし、それだけでは老化の要因や、一人ひとりに適した介入方法までは十分に把握できません。こうした情報も含めて総合的に評価できる体系は、世界的にもまだ確立されておらず、今後の大きな課題だと考えています。


——一方、ロンジェビティ分野における日本の勝ち筋はどこにあると考えていますか?

日本が「健康長寿の国」であることは、ロンジェビティ分野において、大きなアドバンテージですね。

老化や健康が数値化できるようになれば、若さや健康を維持している人の生活習慣などの情報に価値が出てくると考えています。「健康の資産化」が進むということですね。

実際、そのような取り組みはすでに始まっています。

たとえば青森県弘前市では、約1,000人を対象に毎年健康状態を調査するコホート研究が行われています。同じく、健康長寿の解明を目的とし、満100歳以上の長寿者の多さで知られる京丹後市を対象としたコホート研究も進んでいます。

企業は、そのデータを活用して健康や老化に関する研究を進めるため、共同研究という形で参画・投資しています。

このように、健康データそのものに価値が生まれ、それが新たな研究や技術開発につながっていくのです。

検査数の増加にともない、Rhelixaに蓄積されるデータも継続的に拡大しており、今後の事業展開につながる基盤が形成されつつあります。

Rhelixaエピジェネティック・クロックを整備する

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——実際にRhelixaが開発・提供しているエピジェネティック・クロックは、そうした課題や日本の勝ち筋にどのようにアプローチしているのでしょうか?

エピジェネティック・クロックは、DNAメチル化情報を解析し、生物学的年齢や老化の進行速度などを評価する技術です。しかし、これまで日本人のデータに基づいて構築されたエピジェネティック・クロックはほとんどありませんでした。

日本人に特化して開発されていることは、Rhelixaのエピジェネティック・クロックの大きな強みです。健康長寿国である日本人の老化や健康状態をより正確に評価できるようになれば、先ほどお話しした日本の強みを活かしたロンジェビティ研究や社会実装にも大きく貢献できると考えています。

もうひとつの特徴は、研究から社会実装までをひとつのプラットフォームでつないでいることです。

私たちは、基礎研究やコホート研究(※)、企業との評価試験、さらには実際の検査サービスまで、すべて共通の計測技術と解析基盤を用いています。そのため、それぞれが独立した取り組みではなく、互いに成果を還元し合うことができます。

たとえば、研究によって新しい評価項目やより精度の高い解析方法が確立されれば、それを速やかに検査へ反映できます。一方で、検査を通じて蓄積された大規模なデータは、新たな研究や評価指標の開発につながります。

このように、研究・評価・検査がひとつの基盤の上で循環し続けることで、エピジェネティック・クロックそのものを継続的に進化させられることが、Rhelixaの大きな特徴です。


——同じ手順・同じ基準で検査を行うプラットフォーム型の提供は、コスト面でもメリットが大きいように感じます。

そうですね。検査を体系的に実施できるため、「どの指標を確認するために、どの検査を組み合わせるべきか」といった検討や選定にかかる負担を抑えることができます。

また、検査内容や費用があらかじめ整理されていることで、長期間にわたる研究や継続的な測定においても、必要な予算を見積もりやすくなります。研究計画を立てるうえで、コストの見通しが立ちやすいことも大きなメリットです。

※:特定の集団を長期間追跡調査し、健康状態の経時的な変化とその要因との関係を調べる研究手法。

多くの企業がロンジェビティ分野に注目

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——Rhelixaでは、多くの企業と共創プロジェクトを行っています。エピジェネティック・クロックの活用は、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

治療法や機能性食品など、自社が提供する製品・サービスについて、「どのような効果があるのか」を科学的なデータに基づいて示しやすくなることが大きなメリットです。

今後、エピジェネティック・クロックの活用が広がれば、製品やサービスの効果を客観的に評価・検証することが、より重要になっていくでしょう。そうなれば、エビデンスをもとに価値を示せる企業ほど、利用者や市場から高い信頼を得られるようになると考えています。

すでに市場で提供されている製品やサービスについても、新たな評価軸から価値を検証できる点は大きなメリットです。

たとえば、これまで「疲労回復」を訴求してきた製品であっても、エピジェネティック・クロックを用いた検証によって老化への作用が確認されれば、新たに「健康寿命」や「ロンジェビティ」という観点から価値を提案できる可能性があります。


——エピジェネティック・クロックと親和性の高い企業や業界はありますか?

やはり、体の内側から変化をもたらす製品やサービスを提供している企業との親和性は高いですね。代表的なのは、食品や機能性食品などのヘルスケア分野です。

一方で、建設会社や旅行会社など、一見するとロンジェビティとは結び付きにくい業界からも、大きな関心が寄せられています。

たとえば、「住環境が健康や老化にどのような影響を与えるのか」「旅行やレジャーが健康寿命の延伸につながるのか」といったことを、客観的なデータで検証したいというニーズがあります。

もちろん、食品や機能性食品よりも、住環境やライフスタイルは影響する介入要素が多く、効果を評価することは容易ではありません。しかし、測定期間や評価方法を工夫することで、こうした分野でも徐々に検証が可能になっていくと考えています。

研究を未来につなぐために

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——今後、エピジェネティック・クロックについてアップデートの予定などがあれば教えてください。

今後は、老化に影響を与える要因と、その結果として現れる老化の状態を、より細かく評価できるようにしていきたいと考えています。

例えば、生活習慣や治療、摂取している食品・機能性食品などが、どの程度老化に影響を与えているのかを、より詳細に分析できるようにしたいですね。

同時に、老化そのものを評価する項目についても拡充し、一人ひとりの老化の特徴を、より多面的に把握できるエピジェネティック・クロックへと進化させていきたいと考えています。


——Rhelixaが見据える、ロンジェビティの今後について教えてください。

私たちは、「老化を科学として確立する」ことを目指しています。

つまり、「何をすると老化がどれだけ改善するのか」「どのような生活習慣が若さの維持につながるのか」といった、これまで経験則で語られてきたことを科学的に証明し、再現性をもって説明できる世界を実現したいと考えています。

そのためには、一人ひとりが自身の老化を計測し、その結果に応じた最適なソリューションを選択できる環境が重要です。まずは今後5年ほどで、その基盤を築いていきたいと考えています。

そして将来的には、エピジェネティック・クロックを活用しながら、自ら老化をコントロールし、デザインできる社会を実現したいですね。健康や抗老化への取り組みが客観的なデータで評価され、一人ひとりの「健康」が資産として価値を持つ時代が訪れると考えています。


——最後に、Rhelixaが目指す目指す未来について教えてください。

まずは今後5年ほどで、生命科学におけるゲノム解析・分析企業との連携をさらに広げ、さまざまな解析技術を組み合わせられる基盤を構築していきたいと考えています。そうすることで、「エピジェネティック・クロックやロンジェビティ分野ならまずはRhelixaに相談する」という地位を確立し、新たな研究へ継続的に投資できる環境をつくっていきたいですね。

私たちは、「事業の収益を研究へ還元する」という考え方を大切にしています。研究者が企業に入ると、それまで取り組んできたテーマを諦めざるを得ないケースも少なくありません。

だからこそ、Rhelixaが研究を事業として成立させ、その収益によって研究者が望む研究を続けられる場所でありたいと思っています。

最終的には、研究者が研究者であることを諦めることなく、自分のやりたい研究に挑戦できる。そして、その姿に憧れて新たな研究者が育っていく。そんな循環を生み出せる企業でありたいですね。

 


「老化を科学にする」ことで、健康のあり方も、研究のあり方も変わっていく——。

Rhelixaの挑戦の先には、一人ひとりが自らの健康を選び、研究者が望む研究を続けられる未来があります。

ロンジェビティと生命科学の新たな可能性を切り拓く、Rhelixaの今後に注目です。