
〜 AI台頭でビジネスモデルが激変する時代、従来型の採用オペレーションは限界を迎えている。事業戦略と市場相場、そして現場の要件を繋ぐ「3つの視点」とは 〜
はじめに:従来型採用の限界とミスマッチの真因
AI(人工知能)技術の急速な進化と深刻化する労働力不足に伴い、企業の採用活動は歴史的な転換期を迎えている。「せっかく即戦力としてハイキャリア人材を採用したのに、現場でのパフォーマンスが上がらない」「求人を出しても思うように応募が集まらない」――。多くの経営者や人事担当者が直面するこの問題の根本原因はどこにあるのか。大手から中堅まで500社以上の採用支援を手掛けてきた株式会社uloqo(ウルコ)の関川懸介代表取締役は、「採用のミスマッチ(ズレ)は、募集活動を始める前の『要件定義』の段階で既に生じている」と指摘する。
AI進展で激変する事業環境、「どんな人材が必要か」が見えなくなる時代
近年、企業の事業環境はかつてないスピードで変化している。特に2023年から2026年にかけたわずか数年の間でも、AIの台頭によって従来の業務プロセスやビジネスモデルそのものが大きな変革を余儀なくされた。これまで人間が担っていた業務の自動化・代替が進む中で、自社の事業が今後どのような方向に向かうのか、それに伴いどのようなスキルやマインドを持つ人材が必要なのかを正確に見極めることは、かつてなく難しくなっている。
実際に、大企業を中心に従来の採用方針を一から見直す動きが広がっている。しかし、単に採用人数を増減させるだけでは解決には至らない。少子高齢化による構造的な人手不足が続く中、限られた労働市場の中で企業間の獲得競争は年々激化しているからだ。いまや「従来通りのオペレーションで求人を出し、応募者を待つ」という受動的な手法では、企業が求める成果を上げることは不可能に近づいている。
採用の不確実性を高める「3つの構造的ズレ」
関川氏によれば、多くの企業で採用活動が不調に陥る最大の原因は、採用活動の初期段階である「要件定義」におけるズレにある。求人メディアの選定や人材紹介会社との連携、スカウト送信といった実務以前に、企業が真に必要とする人材像の解像度が低いまま採用がスタートしてしまっているケースが後を絶たない。この「採用のズレ」が生じる背景には、日本企業特有の3つの構造的要因が存在するという。
【採用のズレを生む3つの構造的要因】
① 事業理解の不足:人事部門が事業戦略や現場が抱える課題を十分に理解できておらず、適切な人材要件(ペルソナ)を定義できない。
② 採用市場理解の不足:人材市場の動向や競合企業の提示条件・相場を把握できておらず、現実離れした高望み・的外れな要件を設定してしまう。
③ 人事と現場のパワーバランス:現場事業部門の意見や要望に押されすぎた結果、市場のリアリティを無視した「理想の即戦力像」が一人歩きしてしまう。
例えば、事業責任者と人事担当者の間で「即戦力人材を採用したい」というスローガン自体は一致していても、その「即戦力」の具体的定義が曖昧なケースは非常に多い。現場が期待する即戦力レベルと、採用市場に存在する人材層、そして人事が認識している能力水準との間に認識の差(ギャップ)があるため、選考を通過して入社したにもかかわらず、「期待していた動きと違う」という悲劇が繰り返されるのだ。
人事に求められる役割転換――「調整役」から「事業参謀」へ
こうした状況を打開するために、人事に求められる役割は大きく変化している。かつての人事部門は、求人票の作成、応募者管理、エージェントとの連絡といった「採用実務のオペレーター」として評価される側面が強かった。しかし、変化の激しい現代において求められるのは、事業の未来と市場の現実を見極め、双方を橋渡しする「戦略的人事マネジメント」の実践である。
具体的には、人事は以下の3つの視点(Internal / Partner / External)を統合して動き出す必要がある。
- Internal(社内):事業部門や経営陣と密にコミュニケーションをとりにいき、単に現場から提示された要件を受け取るだけでなく、事業の成長フェーズに必要な真の課題を抽出・定義する。
- External(市場):刻々と変化する中途採用市場の相場観や他社の動向をタイムリーに把握し、無理のない要件定義と戦略的なアプローチを設計する。
- Partner(パートナー):人材紹介会社や各種支援パートナーとの強力な関係性を築き、自社の求める人材層を正しく伝達・アピールする。
現場の「このような人が欲しい」という声を鵜呑みにするのではなく、市場のリアリティと照らし合わせ、「その要件では市場に存在しない」「現在の事業フェーズではむしろこのスキルを持つ人材を配置すべきだ」といった逆提案ができる存在になって初めて、採るべき人材の獲得が可能になる。
採用のズレを防ぐための「チェックリスト」
関川氏は、自社の採用活動におけるズレを防ぎ、戦略的な採用を実現するための実践的なヒントとして、以下のチェック項目を提示している。
【採用のズレを防ぐためのチェックリスト】
- 採用ポジションは事業戦略と直接結びついているか
- 採用人事は現場の業務内容や課題を深く理解しているか
- 採用市場の最新相場(年収・スキル層など)を把握しているか
- 現場が提示する採用要件に対し、市場視点で適切な意見・フィードバックができているか
- 面接時の評価基準や見極めポイントが関係者間で統一されているか
- 採用活動の実務において、Internal / Partner / External の3視点が機能しているか
採用活動は単なる人事の一イベントではなく、企業の未来を左右する重要投資である。事業環境の変化が加速する今こそ、企業は自社の採用プロセスを根本からアップデートし、事業成長に直結する採用体制を構築することが求められている。

