
●この記事のポイント
・AIの導入・活用が増えるなか、「AI-Ready」の重要性への認識が広まりつつある
・経営トップのコミットメント、ビジネス部門の巻き込みが重要
・導入前にデータ基盤を整備し、業務で毎日使うという組織文化をつくる
企業においてAIの導入・活用が増えるなか、「AI-Ready」の重要性への認識が広まりつつある。AI導入の効果を生むためには、導入前にデータ基盤や業務プロセス、組織などの面で準備を進めておくべきとされ、総務省の「AI利活用ガイドライン」でも「AI-Readyな社会」への変革の必要性が指摘されている。AI-Readyとして押さえるべきポイントは何か。また、企業がAI導入で一定の成果を生むために必要なこととは何か。日本マイクロソフトへの取材をもとに追ってみたい。
●目次
AIを使うユースケースをもう一段深くまで考える必要性
まず、AI-Readyとしておさえるべきポイントは何か。日本マイクロソフトのカスタマーサクセス事業本部長の二宮稔恵氏は次のように説明する。
「これまで企業様が取り組んでこられたITを使ったDXは、人間が行っていたプロセスを、どのようにITに置き換えていくかというのが主な作業であり、ユースケースも明確で、無駄が多いプロセスなどを人間が判断をして、それをシステムに置き換えていくというかたちでした。一方、AI化というのは、それとは少し次元が異なり違いまして、単なるプロセスの置き換えではなく、業務プロセス自体を変えるような取り組みにつながっていく可能性が高いものです。我々がお客様の数限りないAIのプロジェクトに伴走して気づいたことは、『AIを使うこと』を目的にするのではなく、『今まで解決できてない根本的な業務課題に対して、どうやってAIを戦略的に使うことができるのか』に主眼に置き、AIを使うユースケースをもう一段深くまで考える必要があるということです。
これを実行していくにあたっては、経営トップのコミットメントが非常に重要になってきます。トップの方が『AIをしっかりと使っていくんだ』という意気込みでスポンサーシップを取ると、現場の方々も新しい取り組みを進められます。AIエージェントが使われるようになり、思いもよらないユースケースが出てくるようになっており、トップがコミットしながら現場をどう巻き込むかという点が重要です。特にビジネス部門の巻き込みが非常に重要になってくるというのが、これまでのDXと大きく違うところです。」
AI導入にあたっては、具体的にどのような準備を進めておくべきなのか。
「最初にやっていただきたいのは、データ基盤の整備、品質の向上です。データとして呼び出せるソースがないと、アウトプットのクオリティは上がらないため、散在しているデータが使えて品質が担保され、AIが読める形でデータを用意するというのが重要です。2つ目のポイントは、AIを活用する人材と組織文化に変えていくという点です。この点でもトップがコミットして現場を巻き込むということが重要になってきます。AIは小さなPDCAのサイクルを回し続けているようなものなので、導入してすぐに品質が上がったり、何かができるようになるわけではなく、AIの性能を向上させるためには使い続けることが重要です。よって、使い倒せる人材、使い続けていく組織文化の醸成がカギを握ってきます。」
成果を上げるために踏むべき3ステップ
AIを導入して成果を上げる企業に共通する点は何か。
「AIと聞くと『魔法の杖』のように思われがちですが、まずは現場の方から経営トップの方まで全員が地道に毎日、業務で実際に使うということが重要です。効果には、いくつかのステップがあると我々は考えています。まず社員一人一人が使うところから始まり、次に組織としてどうやって使っていくのか、たとえば業務プロセスで非効率なところをAIを使って効率化する、お客様の満足度を上げるにはどうしたらいいかを検討するというフェーズがあります。それを踏まえて会社全体の業務プロセスをどうするべきかという大きい視点が出てきます。この3ステップにどこまで踏み込めるかで、最終的に効果というのが変わってくるのではないでしょうか。
ここでも、いかに経営トップがコミットメントするのかがカギとなってきます。上場企業の経営層の方々は株式総会などでさまざまな質問を受ける機会があります。その際、事前の準備や対策にAIを使うというユースケースがあり、こうした機会をきっかけに経営層の方々にAIの重要性を認識いただくというのも一つの方法です。企業様の場合、上層部の方がご利用を始められると、現場の方々にも自然と浸透していくケースが多く見られます。
そして実際に導入を進めていくうえでは、重要な点が大きく2つあります。まずセキュリティです。、AIによってデータのアクセシビリティが上がってくるので、情報漏洩やデータアクセスに起因するアクシデントが増える可能性があるため、情報漏洩リスクを十分に理解し、社内ガイドラインを作成すべきです。2点目は、AIをどう使うのかというフェーズの先の、業務プロセスや事業をどうしていくかという点にまで踏み込んでいく際に大きなボトルネックになってくるのが、開発環境です。システム開発・運用をすべて他社にアウトソースしていると、コスト削減などのメリットを享受しにくいので、いかに内製化を進めることができるのかも重要です。」
製造業の事例
具体的な事例として、製造業の生産現場でもAIの導入が進んでいるという。
「ものづくりの会社様ですと、製品を生産するための知見や設計の考え方が社員個人に依存・特化してしまっているケースも珍しくありません。また、社員の高齢化が進んで、そうした知見を後継するにはどうすればよいのかという課題を抱えている企業様も多くいらっしゃいます。そこで、複数のAIエージェントをうまく使ってAIで解決できた例があります。また、大きな組織の中で、『この分野に詳しい人は誰?』『この細かい設計のコツって、どうやって考えたらいいの?』といった疑問が出た際に、全て文書で残っていればいいのですが、情報が分散した状態で存在すると探し出せなかったりします。そこでAIエージェントを使って問題を解決したという例もあります。ものづくりの根幹である開発プロセスを効率化し、製品不良率を低下させることに全社で取り組んで結果を出している企業様もいらっしゃいます。」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)






