世間はChatGPT、大企業はCopilotや脱海外製の動き…日本で進むAI格差の実態の画像1

●この記事のポイント
・世間一般ではChatGPTが広く普及しているが、大企業ではCopilotが多く導入されるなど、生成AI利用は多様化している。
・Copilotは既存業務との親和性と統制のしやすさが強みだが、費用対効果への疑問も残る。
・今後は生成AIが「作業を代替する道具」から「知識を継承する基盤」へ進化する見通し。

 生成AIの企業導入が急速に広がるなか、マイクロソフト「Copilot」、OpenAI「ChatGPT」、グーグル「Gemini」、アンソロピック「Claude」などのツールが浸透しつつある。AIは業務効率化の切り札として注目を集める一方で、「本当に成果を上げているのか」という冷静な視点も増えている。

 2025年の流行語としてChatGPTを指す「チャッピー」がノミネートされているように、一般的にはChatGPTの普及率が圧倒的に高いが、企業、特に大企業ではCopilotの導入率が高い。その背景には、ツールの“親和性”と“組織文化”の違いがあると専門家は分析する。

●目次

Copilotが大企業に好まれる3つの理由

(1)既存業務の延長で導入しやすい
 Copilotは、Word・Excel・PowerPoint・Outlookといった既存のオフィスツールに自然に組み込まれている。たとえば、Excelでのデータ分析やレポート作成、PowerPointでのスライド生成、Outlookでのメール下書きなど――社員が日常的に使っているソフトの延長でAIを活用できる。

「Copilotは“新しいシステム”を導入する感覚ではなく、“既存のOfficeにAIがついた”だけ。社員教育コストがほとんどかからないのが最大の利点です」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)

 AI導入の最大の壁は「社員が使わないこと」だ。Copilotはその障壁を最小化した。

(2)セキュリティポリシーとの整合性
 多くの大企業は、海外製AIの利用に慎重だ。ChatGPTなどの外部AIでは機密情報の取り扱いリスクが懸念されてきた。その点、Copilotは企業アカウントと連携し、アクセス権や内部データの範囲を統制できる。セキュリティ監査を通過しやすく、社内規定を変えずに導入できるのも大きい。

(3)コストよりも「統制」を優先する組織文化
 中堅・中小企業では「無料で使えるChatGPT」で済ませることも多いが、大企業では一律導入と統制が重視される。「全社員が同じAI環境で作業することで、社内ドキュメントの品質を均一化できる」という期待もある。AIを“個人の道具”ではなく、“組織のインフラ”と捉える発想だ。

中小企業で注目される「LINE AI」

 しかし、導入企業の一部では「想定ほど生産性が上がらない」という声も出ている。

「確かに提案資料のたたき台は早くなるが、内容の正確性をチェックする時間は減っていないとの指摘も多い。結局“人が整える”必要があるというのが実情」(同)

 AIの提案内容を過信し、誤ったデータをもとに意思決定をするリスクも指摘される。加えて、Copilotを利用するための追加ライセンス費用(数千円/月)を負担に感じる企業もある。「全社員分のライセンス導入は難しい」として、限定部署での実証運用にとどまるケースも少なくない。

 一方、中小企業ではLINE AIの導入障壁が低い。トーク画面上で自然に利用でき、社内チャットの延長として「AIに相談する」感覚で業務が進む。特に、資料要約・メール文面作成・顧客対応のテンプレ生成といった軽業務に強みを持つ。

「専門的なITスキルがなくても、“聞くだけで答えてくれる”のが魅力」(同)

 また、LINE AIは個人利用と業務利用の境界が曖昧で、トライアル導入しやすい。「特定の業務で試して、成果を見ながら拡大する」スモールスタート型の運用ができる点も中小企業向きだ。

大企業が「自社AI」へと動く背景

 興味深いのは、Copilot導入と並行して「自社開発型AI」を模索する動きが広がっていることだ。トヨタ、NTTデータ、三菱UFJなどはそれぞれ独自の生成AI環境を構築し、社内文書や議事録、FAQデータを学習させている。背景にあるのは、海外製LLM(大規模言語モデル)への情報流出懸念だ。特に製造業や金融業では、知的財産や顧客データの取り扱いに厳格な基準があり、「国内で閉じたAI環境」が求められている。

 この潮流は政府方針とも合致する。経済産業省や総務省は国産LLMの開発支援を進めており、NEC、NTT、富士通などが日本語に強い生成AIを次々と発表している。「AIの国産化」は単なる技術選択ではなく、情報主権の確保という政治経済的な意味も帯びている。

 企業がAIを導入する際、単に「どのツールを使うか」だけでなく、AIをどう位置づけるかが問われている。つまり、AIを「業務効率化ツール」として使うのか、「知的資産化の基盤」として使うのか、で戦略は大きく異なる。

 たとえば、社員が日々の業務で生成AIを使ってメモや報告書を作成し、それが蓄積されると、企業独自のナレッジベースが形成される。その知識をAIが学習・再活用する――そんな循環が生まれれば、単なる時短ではなく「組織知の進化」につながる。

 だが、実際にはこの“知識の共有”が難しい。多くの企業では、AIで生成した内容が個人のパソコンやチャット内にとどまり、再利用されていない。AI導入の真価を発揮するには、ナレッジ共有の仕組みを再設計する必要がある。

生成AIの次なる焦点:「コーザルAI」と「専門知識化」

「次のステップとして注目されているのが、因果関係を理解する『コーザルAI(因果推論AI)』です。単なるテキスト生成ではなく、『なぜその結果が導かれたのか』を説明できるAIが、専門知識継承や意思決定支援に活用され始めているのです。熟練者の暗黙知を因果モデル化し、組織の“知”をデジタル資産化する取り組みも進んでいます」(同)

 つまり、生成AIは今後、「作業を代替するAI」から「知識を継承するAI」へと進化していく。その過程で、企業は再び「どのAIを使うか」ではなく、「どんな知を残すか」を問われることになる。

 AI導入はゴールではない。「AIを使うこと」自体よりも、「AIによって何が共有・継承されるのか」を見据えた戦略こそが、企業の競争力を左右する。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)