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再生ファンドがお墨付きを与えた、さとうベネックが不渡りを出した裏事情

倒産予備軍はこの企業『危ない300社リスト』最新版が発表

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post_651.jpg「あ〜今期、ウチの会社入っちゃったか〜」
(「Thinkstock」より)
『危ない300社リスト』というものがある。民間信用調査会社の東京経済が、年2回主催する審査マンを集めたセミナーで発表する。銀行・商社の審査マン裏必携といわれる“倒産予備軍”の一覧表だ。最新版は8月のセミナー分。今回のリストからさっそく東証マザーズ上場のシコーなどが経営破綻している。

 リストを一読して、まず、目に止まったのが、さとうベネック(大分市、非上場)という地方のゼネコン。産業再生機構のメンバーが再生に携わり、今年3月、「再生できた」として不動産会社に売却したが、半年もたたない8月20日に1回目の不渡りを出したのだ。

 奇々怪々。一体、何が起こったのか?

 さとうベネックの前身は1938年創業の佐藤組。ピーク時には売上高766億円をあげ、九州屈指の地場ゼネコンとして知られていた。しかし、公共工事の減少で経営不振に陥るなか、バブル時代に開発して塩漬けとなったままの、大規模分譲用地の借入金に関する問題が表面化。06年6月期は売上高354億円に対して72億円の大幅な赤字を計上、34億円の債務超過に転落した。

 このため自力再建を断念。メイン銀行の大分銀行は、整理回収機構に下駄を預けた。経営責任を明確化するため創業者一族は総退陣し、一族が所有していた不動産を取り上げ、貸付金の回収を図った。06年、整理回収機構が仲立ちして、企業再生ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズがスポンサーになることが決定した。

 ネクスト社の立石寿雄社長は旧東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)出身。シカゴ大学ビジネススクール卒業のキャリアを持ち、外資系金融会社を経て、03年、産業再生機構の執行役員に就任した。NC旋盤専業のミヤノ(現・シチズンホールディングス)、スポーツ用品のフェニックスの再生を担当。産業再生機構の解散にともない、05年12月、地方の中堅企業への出資、再生を目的としたネクスト・キャピタル・パートナーズを設立した。

 ネクスト社には大物経済人が顔を出す。アドバイザーは出井伸之・クオンタムリープ代表取締役ファウンダー兼CEO(最高経営責任者)。そう、ソニーの社長、そして会長兼CEOだったあの御仁だ。クオンタム社はソニーを辞めた出井氏が06年9月設立した投資コンサルタント会社。ソニー時代に出井氏の下で経営企画を担当した竹本国夫・クオンタム社顧問が、ネクスト社の社外取締役に就くなど出井氏との関係が深い。ネクスト社は出井グループの再生ファンドとみられている。

 ネクスト社は産業再生機構の手法を使って再生計画を策定した。07年1月、建築・土木部門と不動産部門を分離。不動産部門を旧会社に残し、社名を九州管財に変更して清算。建築・不動産部門は新会社が引き継ぎ、社名を、さとうベネックに変更した。

 さとうベネックの11年6月期の売上高は103億円で、2期連続の最終黒字を計上。ネクスト社は、「再生のメドがついた」としてベネックの株式の売却を計画した。

 ここで最初の誤算が生じる。大手民間信用調査会社によると「ネクスト社が提示した売却額14億円に対して、有力な住宅メーカーが経営陣にMBO(経営陣による自社買収)を提案した。12億円を出すから、経営陣で2億円を作り会社を買収したらどうかと勧めた。経営には一切、口を出さないという条件だった。だが、経営陣はいかんせんサラリーマンの集団。自腹を切ることに腰が引けた。これでMBO案は流れた。これが今回の混乱を招いた最大の要因だ」。

 ネクスト社は株式売却の入札を行い、福岡市の不動産会社、ダイセンビルディングが13億円で落札。今年3月、ベネックはダイセンの傘下に入り、新オーナーとなったダイセンの大川義廣氏が社長に就任。旧経営陣は退陣した。

 ダイセンは福岡市の歓楽街、中洲などに10棟、東京・銀座に3棟の料飲ビルを経営。事件ものといわれる競売物件を安く手に入れて料飲ビルを増やしていった。

 ところが、オーナーが交代して半年もたたない8月20日に、ベネックは1回目の不渡り手形を出したのだ。8月30日に、ベネックは債権者説明会を開き、「私的整理ガイドラインに基づいた再建を目指す」として債権者に理解と協力を求めた。

 説明会に出席した大手民間信用調査会社の幹部によると「資金不足に陥った原因は、ダイセンがレバレッジド・バイアウト(LBO)で買収したことです。LBOとは、買収先の資産を担保に買収資金を調達する方法。ダイセンにはカネがなかった。大川社長の釈明によると、『ベネックは潤沢に資金があるからとLBOを持ちかけられ買収を決意した。買収後、ベネックの運転資金を買収ための借り入れの返済に充てた。それでベネックの資金が流失して資金不足になり、不渡りを出した』という。債権者は、大川社長の経営の甘さにあっけにとられていました」とのことだ。

 LBO方式で買収資金を貸し付けたのは、あの北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングス傘下の金融会社。ダイセンの大川氏は、LBOにどんなリスクがあるか、ご存知なかったようなのだ。金融のプロに手玉に取られた格好である。

 批判の矛先は再生と売却を手がけたネクスト社に向かう。「ダイセンにカネがあるか、ないかをきちんと調べたのか。LBO方式で買収資金をつくれば、後で、どんな結果を招くかは産業再生機構のメンバーならわかっていたはずではないか。(再生ファンドは)カネさえ出せば、どんなところにでも売り渡すのか」(地元の経済人)と批判する。再生ファンドの無責任ぶりがあぶり出されたのである。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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