日本上陸も?“東洋のスタバ”が米国IPO、8年で約7千店舗展開のFC戦略

●この記事のポイント
・中国で急速に成長しているカフェ・ティーブランドといえば、Luckin Coffeeともうひとつ、CHAGEEがある。
・CHAGEEは創業からわずか8年で7000店にまで拡大し、米国でIPOを果たした。日本にも上陸の兆しがある。
「東洋のスタバ」と聞くとどんな企業を思い浮かべるだろうか。破竹の成長を見せつつも、不正会計問題で市場を揺るがせた「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」を挙げる人が多いかもしれない。
そんなラッキンコーヒーと同じ2017年に設立され、凄まじい速度で成長するリテールの巨人が中国にもう一社存在する。直近でナスダック市場への上場を果たしたプレミアムティーブランド「CHAGEE(チャジ―/霸王茶姬)」である。日本上陸間近とも囁かれている。

創業からわずか8年ほどだが、店舗数はすでに7000店舗に迫る。売上高は2022年度で4.9億元(約100億円)だったが、2024年度には124.1億元まで成長。2年間で実に25倍もの売上拡大を実現している。
「With every cup of our tea, we aspire to foster a global connection of people and cultures.」(一杯のお茶で、人と文化のグローバルな繋がりを育む)
掲げるミッションをまさに体現する急成長を見せるCHAGEEは、なぜ短期間に飛躍的な規模拡大を遂げることができたのか。その戦略や事業モデルについて解説していきたい。
目次
- コーヒーチェーンの成功に着想を得た「モダンな茶体験」の創造
- 急拡大と品質を両立する「管理されたフランチャイズ」モデル
- 独自テクノロジー「Tea Tech」と逆説の製品ストラテジー
- 世界6000億ドル市場への挑戦と日本進出の噂
コーヒーチェーンの成功に着想を得た「モダンな茶体験」の創造
創業者でありCEOの張俊傑氏の経歴は異色だ。大学教育は受けず、17歳でタピオカティーショップの見習いとしてキャリアをスタートさせ、業界のあらゆる階層を経験してきた。この現場経験が、のちに構想する壮大なビジョンの発端となる。
グローバルな大規模展開をするコーヒーチェーンはいくつか存在するが、それは彼らが1970年代から、「コーヒーを世界的なライフスタイルであり社会的な概念にする」ということに成功したからだと張氏は考えた。
そうであるならば、数千年の歴史を持つ東洋の「お茶」もまた、テクノロジーとブランドの力をかけ合わせれば、現代の消費者に響く新しい体験へと昇華させることができるはずだ。その信念がCHAGEEの原点となった。
「喜茶」からはブランディングを、「Huawei」からはITと組織構造を、「茶顔悦色」からはプロダクトを、「海底撈」からは店舗オペレーションの標準化を学んだとの指摘もある。
2017年に設立されたCHAGEEは、「お茶の新しい可能性を切り拓き、東洋のお茶を世界の若者に届ける」というビジョンを掲げた。健康的で美味しいだけでなく、利便性も兼ね備えた「プレミアムティー」を提供することで、世界中の人々と文化をつなぐグローバルブランドになることを目指している。

不動の人気No.1は定番のジャスミンミルクティー(伯牙絶弦)で、ホワイトピーチウーロンミルクティー (花田烏龍)なども人気だ。その他にもフレッシュグレープフルーツジャスミンティー、フレッシュウォーターメロンジャスミンティーなどフルーツティーも販売。ドリンクの甘さや氷の量などを自分好みにカスタマイズもできる。
急拡大と品質を両立する「管理されたフランチャイズ」モデル
CHAGEEの核となる競争優位性は、ブランドの一貫性やオペレーションの質を犠牲にすることなく、資本効率の高い拡大を可能にしたビジネスモデルにある。2024年末時点の全6440店舗のうち、実に97.4%にあたる6271店舗がフランチャイズ加盟店によって運営されている。
同社のFCモデルは、単にブランド名と商品を供給するだけの伝統的なフランチャイズとは一線を画す。彼らが採用するのは「管理型フランチャイズモデル(managed franchise model)」と呼ばれる中央集権的なアプローチで、製品や接客の品質やサプライチェーンマネジメントなどコア業務については、本部が定めた統一基準に厳格に従うことを全加盟店に義務付けている。
フランチャイズパートナーは出資者として店舗を所有するが、本社側が人材採用やトレーニング、マーケティング、仕入れに至るまで、すべての店舗運営をコントロールする。店舗のパフォーマンスは定期的に評価され、4つの等級に分類される。業績が振るわない店舗には、本部が専門チームを派遣して現場での監督指導を行い、改善が見られない場合は店舗閉鎖や契約解除といった厳しい措置も辞さない。
本部の強力なガバナンスの下でフランチャイズネットワーク全体を統制することで、通常はトレードオフになりがちな「急速な規模拡大」と「提供クオリティ」の双方を両立させている。
ラッキンコーヒーとCHAGEEは同じく2017年創業だ。2025年3月末時点での店舗数はそれぞれ2万4097店舗と6681店舗であり、規模ではまだラッキンコーヒーが大きく上回る。
ラッキンコーヒーは直営モデルでの無理な急拡大を理由に経営不振に陥ったことを踏まえ、そこからコスト負担を軽くできるフランチャイズモデルに切り替えた経緯がある。そのためフランチャイズ比率でみると、CHAGEEが97%である一方でラッキンコーヒーは35%にとどまる。
独自テクノロジー「Tea Tech」と逆説の製品ストラテジー
ではそんな広大なフランチャイズネットワークの品質と効率を、いかにして中央集権的に担保するのか。その答えは、彼らが「Tea Tech」と呼ぶテクノロジーへの徹底した投資にある。
象徴的な例が、サプライヤーと共同開発した自動ティーマシンだ。独自に開発したドリンクのレシピパラメータをマシンに組み込み、従業員は複雑な手順を覚えることなく、ボタン一つで常に高品質のドリンクを「約8秒」で提供できるというもの。属人性を排除し、トレーニングコストを削減しながら、顧客の待ち時間も大幅に短縮できる。

同社は「Five Things Online(5つのオンライン化)」というコンセプトを掲げ、事業運営のあらゆる側面をデジタル化している 。
1.ドリンク調理のオンライン化:上述の自動ティーマシンによる標準化。わずか8秒で誰でも高品質なティードリンクを作ることができる。
2.顧客・パートナー関係のオンライン化:デジタルツールを通じたシームレスなコミュニケーションと管理。メンバーシップ会員は2024年末時点で1億7730万人。
3.サプライチェーンのオンライン化:データに基づいた需要予測と自動補充システム。中国37箇所の倉庫サービスを利用でき、翌日仕入れを実現する。
4.店舗管理のオンライン化:開店から閉店までの一元管理。在庫状況の監視や自動仕入れなどで運営を標準化・省人化する。
5.支払いのオンライン化:キャッシュレス決済の推進。GMV(総流通額)の74%はデジタル上で決済された。
自社で大規模な倉庫を保有する代わりに、サードパーティの物流サービスを活用し、中央倉庫と地域倉庫からなる2層の倉庫システムを構築する。これにより、中国国内のネットワークにおいてコールドチェーン輸送と翌日配送を実現しつつ、物流コストをGMVの1%未満に抑えている。iResearchによれば、2024年におけるCHAGEEの在庫回転日数は約5.3日で、これは中国国内の1000店舗以上を持つ生茶飲料ブランドの中でもっとも短い数値だという。
製品・ブランド戦略も巧みだ。差別化を生み出す複雑な製品ではなく、あえて様々な顧客層に普遍的にアピールできる「シンプルで時代を超越したレシピ」に焦点を当てている。事実、売上上位3つに該当するティーラテだけで、2023年度のGMVのうち57%、2024年度では61%を生み出している。
このシンプルさこそが、いわゆる「オペレーションエクセレンス」につながる。仕入れが簡素化され、ボリュームディスカウントによる原価削減もできる上に、自動ティーマシンのようなテクノロジーを活用した標準化とも相性がよいというわけだ。
世界6000億ドル市場への挑戦と日本進出の噂
CHAGEEが事業を展開する市場には、依然として大きな成長ポテンシャルが眠っている。iResearchの調査によると、主戦場とする中国の生茶飲料市場は、2024年の2727億人民元(約380億ドル)から2028年には4260億人民元(約600億ドル)へと成長すると予測されている 。特に、同社のメインターゲットである「プレミアム」セグメント(1杯あたり平均17.0人民元以上)は市場全体の成長を上回るペースで拡大しており、2028年には市場全体の31.7%を占めるまでに成長する見込みだ。
グローバル市場に目を向ければ、茶飲料市場全体の規模は2024年時点で4671億ドル、2028年には6019億ドルに達すると見込まれている 。その中でも生茶飲料市場は、2024年から2028年にかけて年平均18.9%で成長し、1220億ドル規模に達すると予測されており 、CHAGEEにとって巨大な機会が広がっている。
日本進出が間近だという推測もある。2025年4月には「CHAGEE JAPAN株式会社」として法人登記されており、Linkedinなどでは日本における「サプライチェーンマネージャー」の求人があった形跡もみられる。世界的な文化にまで昇華したコーヒーの成功例をティーブランドで再現しようとする同社が日本含むグローバルでどのような展開をしていくのか。まずは消費者として楽しめる日が近いかもしれない。
(文=干場健太郎)


