「Unsplash」より

●この記事のポイント
・カゴメとキユーピー、脱炭素の共同研究を推進
・食品工場などから排出される未利用の野菜資源をバイオ炭化し、農地に散布することで土壌改良や炭素貯留の効果を期待
・持続可能な地球環境の維持に向け、単独では解決が難しい課題に対して一緒に解決していく

 食品メーカーのカゴメとキユーピーが共同で脱炭素に取り組む。食品工場などから排出される未利用の野菜資源をバイオ炭化し、それを契約農家の農地に散布することで土壌の改良や炭素の貯留につなげる技術の実用化に向けて共同研究を行う。バイオ炭は、通常の堆肥と比べて分解されにくく、長期間土壌中に留まることができる。どのような技術・仕組みなのか。また、なぜ共同研究というかたちでタッグを組むのか。両社に取材した。

両社のリソースを活用して、野菜の栽培・加工に関するサステナビリティ課題解決を目指す


 今回の取り組みの目的について、カゴメはいう。

「未使用の野菜資源を燃やすと、有機物をCO2に変えて大気中に放出し、温室効果ガス(GHG)を排出することになります。また、発酵させて堆肥化させてもメタンガスなどのGHGが出ます。そこで、違う方法によってCO2を削減できないかということで、キユーピー様と一緒に本研究に取り組んでいます。従来の方法であればGHGとして放出されてしまう炭素をバイオ炭として地中に貯留し、さらに土壌改良の効果も期待できるというものです。
 2社共同で取り組む背景は、持続可能な地球環境に向けた取り組みは各社が進めていますが、一社単体ではなかなか解決が難しい課題に対して一緒に解決していくソリューションを開発することで、大きな課題の解決につなげていくことが可能なのではないかと考え、共同での研究に取り組んでいます。
 具体的には、両社の研究部門の交流のなかで2023年から新規事業を共創するワークショップを開催し、持続可能な農業の実現に向けて、互いのリソースを活用して解決につなげることができないかと考え、本研究の開始に至りました」

 キユーピーはいう。

「キユーピーグループは、2030年のサステナビリティ目標達成に向けた取り組みを推進しています。そして、2025年度に始まる第11次中期経営計画を機に、2050年を見据えた新たな環境ビジョン『キユーピーグループ 環境ビジョン2050』を策定しました。この新ビジョンでは、資源循環(サーキュラーエコノミーの実現)を主要な柱として掲げており、今回の取り組みもそのビジョンに繋がるものです」

 なぜ協力するに至ったのか。

「カゴメはケチャップ、キユーピー様はマヨネーズを扱っており、これまでケチャマヨ体操という両社コラボでのメニュー提案も行ってきました。農業の振興や持続可能な地球環境に関して同じ課題を持っておりますので、お互いのリソースを活用して一緒に取り組ませていただくことで解決に近づくと考えております。また、カゴメとキユーピー様を含む全6社で「未来型食品工場コンソーシアム」というものを結成し、食品工場の技術革新により、持続可能な食インフラの構築を目指す取り組みも行っています」(カゴメ)

「サステナビリティに関しては、競合であるかどうかという次元の話ではなく、同じ食品会社としてきちんと社会に還元できるのであれば、そういう技術を持った者同士が一緒にやっていくっていうのが当たり前の世界になってきています。カゴメ様とは親和性の高い部分がとても多いので、今回の協働が実現していると考えております」(キユーピー)

技術的なカギと課題

 炭素除去クレジットの創出という目的もあるのか。

「持続可能な農業の実現と環境負荷低減を目指し、将来的には本研究を事業モデルとして確立していきたいと考えています。そのためにクレジットの創出も目指しています」(カゴメ)

「最終的には新たな経済的価値を生み出せればよいと考えておりますが、優先順位としては炭素貯留ができる仕組みをつくるというほうが高いと考えております」(キユーピー)

 両社はマイルストーンとして、2027年以降の事業化を目指しており、まず2年ほどかけて研究や実際にバイオ炭を栽培農地にまいた場合の評価などを行っていく。技術的にカギや課題になる部分は何か。
「現在実装されているバイオ炭は、もみ殻や木材由来のものが多いのですが、水分が少ない原料から作るのは比較的効率は良いです。一方、植物や食品工場で生じる残渣は水分が多い資源なので、それを効率よく炭化する技術を2社で協力しながら進めています。特に脱水という部分に関しては、両社で検討しながら進めております」(カゴメ)

 社会的には意義のある取り組みだが、企業としてどのようなメリットやプラスの効果があるのか。
「私たちは『畑は第一の工場』と考えており、畑から出た未利用資源を、再び畑に活用することで、未利用野菜資源の有効活用だけでなく、CO2 削減につながることは大きな意義があると考えています。また、バイオ炭の活用により、土壌改良や作物の生育促進効の効果の検証も、今後行っていきますので、野菜由来のバイオ炭の農業利用における有効性にも期待しています」(カゴメ)

「私たちも、サーキュラーエコノミーの実現というビジョンを、達成していくということについては、経営的な意義があると考えております」(キユーピー)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)