「牛が地球を温めている」──そんな話を聞いたら、驚く方も多いかもしれません。

畜産や酪農は、自然と共にある産業というイメージとは裏腹に、実は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約14.5%を占めています。主要因は、牛のげっぷやふん尿に含まれるメタンや亜酸化窒素です。
 本連載【一次産業×脱炭素で地球を救う】では、これまで環境配慮とは縁遠いとされてきた一次産業の現場が、脱炭素とどう向き合っているのかを追っていきます。第2回は、畜産・酪農業界で始まった“クレジット創出”という変革を紹介します。

なぜ畜産・酪農が温暖化の元凶と言われるのか

 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス(GHG)の総排出量の約14.5%は畜産由来。とりわけ牛は大量の水や餌が必要なほか、ゲップやおならにメタンが多く含まれ、家畜別のメタン排出割合の7割超を占めています。畜産分野の中でも、特に牛から出る排出量は年間約47億トン(CO₂換算)に上ります。これは中国に次ぐ、国レベルの排出量となっています。さらに日本国内では、約1500万トン(CO₂換算)が排出されており、そのうちの8割を乳用牛と肉用牛が占めています。

 しかし、一般には温暖化は製造業などの第2次産業が主因との印象が強く、畜産・酪農分野が温暖化の一因であるという認識は広まっていません。一時的に牛のげっぷによるメタン排出が注目されたものの、家畜のふん尿によるメタンガスの排出については、畜産・酪農従事者の間でも十分に認識されていないのが実情です。

 GreenCarbon株式会社の事業企画本部 国内企画部 事業部長 土居海斗さんは「第1次産業も温暖化の一因であり、改善の余地があることを畜産酪農の分野での共通認識としなければいけない」と話します。また、対応策が不足しているため、改善に向けた取り組みが進みにくいことも大きな課題だといいます。

ふん尿が「価値」に変わるメカニズムとは

 こうした課題に対し、GreenCarbonが挑むのが「家畜のふん尿の強制発酵によるJ-クレジット創出」です。ふん尿から発生するメタンガスや一酸化二窒素を削減し、その削減分をクレジットとして活用しています。
 従来は、ふん尿を集積し、半年程度かけて発酵する「堆積発酵」が主流で、この間、温室効果ガスが継続的に発生します。一方、強制発酵では専用の発酵設備を導入し、数日で発酵を完了させることで、温室効果ガスの発生を抑制できるのです。さらに、「バイオガス発電」や「放牧」など、発酵手法の工夫による温室効果ガス削減も進められています。

 この手法は、温室効果ガスの削減に止まらず、従来の畜産・酪農業界の課題解決にも貢献します。
 たとえば、以下のような課題に対応できます。

  • ふん尿から発生する悪臭
  • 飼料コストの高騰
  • 人手不足による作業負荷の増大

などの課題に対して強制発酵の導入により屋外でのふん尿集積が不要となり、発酵期間の短縮によって臭気も軽減されます。また、発酵管理作業の工数削減により、労働負担の軽減にもつながります。

 さらに、近年高騰が続く飼料コストへの対策にもなります。酪農家にとって、飼料コストは約半分を占めており、その飼料コストは16年間で2倍以上に高騰しています。この対策としても、副収入となるクレジット収益の確保や、強制発酵の副産物としての敷料(牛の寝床となるもの)が自家生産できる利点があります。

ほぼ初期費用なし導入可能、Green Carbonの農家支援モデル

 導入効果が高い一方で、設備導入にかかる初期コストの大きさや、強制発酵によるクレジット創出の仕組みが広く知られていない点が普及の障壁となっています。

 こうした状況を踏まえ、GreenCarbonでは次のようなアプローチを進めています。
「強制発酵設備を導入して2年以内の農家さんには、我々の家畜のふん尿由来J-クレジットの創出プログラムへの参加をお声がけしています。これは、クレジット登録が設備導入から2年以内でなければならないためです」と土居さんは説明します。
設備を導入したもののクレジットの申請のやり方が分からない方、クレジットのことを知らず設備を導入していた方など、登録が可能な方はGreen Carbonが申請をサポートしているとのこと。

さらに導入検討中の農家の方々に対しては、初期費用を抑えた導入スキームと、クレジット創出支援をセットで提供しています。
「ほぼ初期費用なしで設備導入ができる仕組みを整えており、経済的支援とクレジット収益の両面からサポートしています。さまざまなスキームを作っていますが、現在は特に多くの乳牛を飼育している農家での展開をスタートしていますので、ぜひ一緒にクレジット創出を進めたい」と土居さんは語ります。

雪印メグミルク・北海道銀行との連携で挑む、クレジット創出プロジェクト 

 こうした取り組みに加え、GreenCarbonは雪印メグミルク、北海道銀行と連携し、酪農家への支援プロジェクトを開始しました。これにより、設備導入・申請手続きから、クレジットの創出・販売まで一貫して支援しています。雪印メグミルクは8年間にわたりクレジットを継続購入することを決定しており北海道銀行を通じて農家や販売先の拡充も見込まれています。
 「農家さんが懸念する申請の煩雑さや販路の確保といった点を、我々が担うことで解消したい」と土居さんは話します。企業にとっても、安定したクレジット供給源となり得ます。

 これまで、酪農由来のJ-クレジットは過去10年間で約149トンの発行に留まっていましたが、本プロジェクトでは北海道だけで8年間に約1万1500トンの創出を見込んでいます。背景には、酪農由来のクレジット需要の高まりと、GreenCarbon申請・販売を一括で行うことで、創出の大規模化が可能になったことがあります。
 土居さんは「今回のプロジェクトは、全国展開の足掛かりになると考えています。今後は各地域の農家や金融機関、設備事業者と連携し、取り組みを広げていきたい」と意気込みを話します。

クレジットがつなぐ、一次産業とサプライチェーンの脱炭素連携

 脱炭素の取り組みが広がるなか、土居さんは「温室効果ガス削減元の可視化とカーボンインセット」が鍵だと語ります。

 カーボンインセットとは、企業が自社のサプライチェーン上の温室効果ガス削減を排出量に反映したり、削減支援を行ったりする仕組みのこと。たとえば、乳業メーカーが自社のサプライチェーン上にある酪農家が創出したクレジットを購入したり、設備投資を支援したりするケースがあります。そのためには、企業や農家がどれだけ排出を削減しているかを「見える化」する仕組みが必要です。
 現在、多くの業界がこの可視化に課題を抱えており、GreenCarbonでは今後、可視化を支える枠組みづくりをすすめていく考えです。
 「GreenCarbon単独では限界があります。だからこそ、関係企業との連携や、これまで培ってきたクレジット創出のノウハウ、農家との信頼関係を生かし、脱炭素社会の実現に貢献したい」と土居さんは話します。

 今回の家畜のふん尿由来J-クレジット創出プロジェクトや、雪印メグミルク・北海道銀行との連携は、第一次産業の脱炭素化において、GreenCarbonがリードカンパニーとなる第一歩になるのではないでしょうか。

 畜産や酪農は、地球温暖化の「原因」から「解決の担い手」へと歩みを進めています。その背後には、現場に根差し、課題と向き合いながら新たな仕組みを築こうとする人々の努力があります。

 環境課題の解決と業界の持続可能性の両立──その両輪をまわすことこそが、今、一次産業に求められています。

※本稿はPR記事です。