
石油・ナフサは4カ月分を確保。だが「流通の目詰まり」は現在進行形。トランプ関税と半導体競争が重なり、経済安保の試練が続く
経済産業省は2026年4月2日、「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」の第1回会合を開催した。翌3日の記者会見で赤澤経済産業大臣が明らかにした内容は、ある意味で衝撃的だった。対象となった品目が、製油所や半導体といったマクロな資源だけでなく、小児用カテーテルの滅菌用A重油、九州地方の路線バス用軽油、医療用器具の滅菌に必要な酸化エチレンガスにまで及んでいたからだ。
現代のサプライチェーンがいかに精緻で、同時にいかに脆いかを物語る事例が次々と浮かび上がった。塗料用シンナーについては川上の石油化学企業では国内供給が継続しているものの、川中のどこかで目詰まりが発生しているとみられ、政府が事実関係を確認している。魚のカンパチに至っては、海上輸送用の特殊燃料が不足し、稚魚の輸入が遅延することで30センチ以内の無税枠を超えてしまうリスクが生じているという。政府は4月中旬をめどに関税の特例措置を講じる方向で検討している。
石油・ナフサの全体需給については、現時点では一定の手当てが済んでいる。石油化学各社が米国をはじめとする代替調達に取り組んでおり、川下在庫の活用と国内精製を合わせ、化学品全体の国内需要4カ月分を確保しているという。備蓄の放出や中央アジア・中南米など代替ルートの開拓も進む。ただし大臣が繰り返し強調したのは「全体として必要な量を確保している」という表現であり、地域・分野ごとの偏りは解消されていない。節約の呼びかけについては、国際的な需給・価格動向を踏まえながら、国民経済に大きな影響がない形で需要サイドでの対策を含めあらゆる政策オプションを検討するにとどめた。
同日の会見では、もう一つの重要テーマも浮上した。トランプ大統領が署名した医薬品への関税措置だ。日本への適用税率は15%で、EUと並んで世界の中でも特殊な条件の国を除けば最も有利な水準とされる。他の主要国が100%の関税を課される中では一定の「外交成果」とも読めるが、赤澤大臣自身が「追加関税はそもそもやめてほしいというのがベースの要望」と正直に語ったように、あくまで「傷を浅くした」にすぎない。
経済安保の文脈では、半導体に関する明るいニュースもあった。TSMCが熊本第2工場の投資計画を3ナノの先端半導体製造へ変更することについて、台湾当局が許可した。量産開始は2028年を見込む。大臣は「経済安全保障の観点から大変重要」と評価したが、最大7,320億円とされる政府補助金の増額を含む追加支援については、詳細を現在協議中として具体的な言及を避けた。熊本への投資が世界の半導体地図を塗り替える可能性を秘めていることは間違いないが、費用負担の在り方は今後の政治的論点になるだろう。
今回の会見が示したのは、日本経済が同時並行で複数の「地政学リスク」にさらされているという構造的な現実だ。中東情勢は石油・化学品のサプライチェーンを揺さぶり、米国の関税政策は医薬品・製造業のコスト構造を変え、台湾海峡の緊張は半導体の自給体制強化を急がせる。政府のタスクフォースが「カンパチの稚魚」を議題にしなければならなかった事実は、サプライチェーンの複雑性を象徴すると同時に、有事対応の初動が広範なモニタリングから始まることの重要性を改めて示している。