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航空×スタートアップで地方は再生できるか…トキエアが示す“ポストLCC”の航空モデルとは

2025.12.01 2025.11.30 23:01 ユニコーンアイ

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●この記事のポイント
・新潟発の地域航空会社トキエアが、地方同士を直接結ぶ新しい航空ネットワークで「空の民主化」に挑む。低コスト構造とデータ活用で、地方航空を持続可能な産業へ転換しようとしている。
・スタートアップLANDの和田直希氏は、航空事業を“地域DXの入口”と位置づけ、チャーターアプリや観光連携など空を起点にしたプラットフォーム構想を推進。航空を体験経済の基盤に変革する。
・異業種人材の融合や安全第一の文化など、スタートアップ的思考と航空業界の価値観を掛け合わせた組織づくりも進行中。トキエアは“地域航空の第三極”として地方創生に挑むモデルケースとなりつつある。

 地方から日本の空を変えようとしているスタートアップがある。新潟を拠点とする地域航空会社「トキエア」、そしてその経営に深く関わるスタートアップ「LAND」だ。両社を率いるのは、家具メーカーの経営からエンタメ、テックまで多彩な分野を渡り歩いてきた起業家・和田直希氏。

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「航空をもっと身近に、誰もが空を自由に移動できる社会にしたい」と語るそのビジョンには、スタートアップ経営者にも共通する“市場の読み方”と“構想力”がある。

●目次

地域と地域をつなぐ、「都市を介さない」航空ネットワーク

 トキエアが運航するのは、東京を起点としない地方路線だ。新潟を中心に、名古屋(中部国際空港)、神戸、札幌(丘珠)を結び、「地域と地域を直接つなぐ」ことを主眼に置く。

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「丘珠空港は札幌市内から30分。アクセスの良さが圧倒的な強みです」と和田氏は語る。

 これまで地方空港は“補助線”としての位置づけにとどまりがちだった。だがトキエアは、「地方同士をダイレクトに結ぶ」という発想で需要を掘り起こしている。

「首都圏を外す戦略は大胆に見えますが、既存路線のデータを見れば合理的です。例えばセントレアと熊本を結ぶ便では、ピーク時に年間10万人超が利用していたが今年撤退しています。そこに72人乗りのターボプロップ機を1往復飛ばすのは、十分に成立する規模なんです」

 この「地域間直行便」という発想は、航空ネットワークの再構築を意味する。10月度は前線搭乗率7割を超え、黒字化への道筋が見えているという。

プロペラ機で挑む「小さな市場の最適化」

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 和田氏がトキエアに出資を決めた理由のひとつが、ビジネスモデルの合理性だ。「航空業界は赤字のイメージが強いですが、トキエアは利益が出る構造を持っている。プロペラ機は燃料コストがジェット機の半分以下。人口減少下でも採算が取れるスケールなんです」と説明する。

 黒字化の鍵は「稼働率」と「搭乗率」。1機あたりのフライト回数を1日4回から6回、最終的には8回へ増やし、搭乗率70%を目標とする。

「最大のボトルネックは人材。パイロットをはじめ運航管理、整備士など、地道に育てていく必要があります」

 スタートアップ的な発想で見れば、トキエアは“ユニットエコノミクス”の設計から始まった事業だ。高コストな大規模輸送ではなく、最小限のコストで最大の接続性を生むモデルを追求している。

「空のUber」を目指す、“空の民主化”構想

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 和田氏が繰り返し口にするキーワードが「空の民主化」だ。「空をもっと近いものにする。誰もが気軽に利用できる空を作りたい」と語る。

 トキエアでは、法人向けチャーターアプリ「SORA PASS(仮)」や「離島ホッピングツアー」、地域連携型アプリ「TOKILAND」などを展開予定だ。格安で46人(or72人)がチャーターできる「空のシェア便」も構想の一つであり、かつて一部の富裕層の特権だったチャーター体験を、誰もが手の届くものにする。

「チャーターやビジネスジェットは“富裕層専用”という前提を崩したい。スタートアップらしいディスラプションを、空の領域で実現したいんです」

 この発想は単なる交通の話ではない。「フェスのチケット付き航空券」「地域体験と連動した観光パッケージ」など、航空を“体験経済”の起点にする構想もある。まさに「空のUber」と呼ぶにふさわしいサービスエコシステムを目指している。

スーパーアプリ構想とデータ戦略:地域DXの中核へ

 和田氏は、航空事業を「移動プラットフォーム」ではなく、「地域DXの入口」と位置づける。「交通・宿泊・観光を統合し、誰もがスマホから旅の全体設計を完結できるようにしたい。AIや時系列データの活用で、需要予測やダイナミックプライシングも導入していく予定です」と語る。

 和田氏はもともとIoT・エンタメ事業を手がけており、データ制御技術に強みを持つ。そのノウハウを航空に転用し、運航効率を上げるだけでなく、地域の観光・交通データを可視化し、自治体や地元企業への還元を目指すという。「移動データを地域経済の活性化に使うことができる」と和田氏は言う。

 地方創生を“空からのDX”で進めるという発想は、全国の中小空港に新しい経済循環をもたらす可能性を秘めている。

異業種人材の融合がもたらす、組織変革の実験

 トキエアの運営体制には、LANDの人材が深く関わっている。財務や管理部門のメンバーが航空事業に入り込み、オペレーション改善を進めているという。「エンタメやテック業界出身者が、航空の現場で数字を見ながら改善していく。最初は文化の違いもありましたが、良い化学反応が起きています」と和田氏。

 スタートアップ出身者が持つ“数値感覚”と、航空業界が培ってきた“安全第一”の姿勢。この二つが融合することで、「スピードとリスク管理を両立する組織」への進化が始まっている。「航空業界の経営会議は、リスクに対して徹底的に議論する。スタートアップに足りない“安全に対する哲学”を学ばせてもらっている」とも語る。

 異業種人材の融合は、航空に限らず多くの産業で求められるテーマだ。「規制産業にスタートアップ思考を持ち込む」その実践例としても、トキエアの挑戦は注目に値する。

「東京の二番手ではなく、自らの強みで勝つ街に」

 和田氏の地方創生観は、一般的な「地域支援」とは異なる。

「“東京の便利さを享受する地方”ではなく、“東京より便利な地方”を作ることが重要。それが本当の意味での地方創生だと思います」

 和田氏はインドネシアでの経営経験を持ち、現地でIT産業が急成長する様を体感してきた。「当初は不便だったけれど、ITによって“日本より便利”になった瞬間に都市が一気に伸びた。新潟でも同じことが起こせるはず」と語る。

 その視線の先にあるのは、単なる航空事業の成功ではない。「空港を中心に、街のサービスを再設計する。まちづくりそのものに関わっていきたい」と意欲を見せる。すでに地元企業との共同イベント「燕三条ジャパンフェス」では50社以上が協賛。教育機関との連携も進み、地域全体を巻き込む動きが広がっている。

堀江貴文氏との連携、そして「空の次のステージ」へ

 トキエアには実業家の堀江貴文氏も取締役として参画している。

「堀江さんとは毎日やり取りしています。パイロット訓練中でして、技術的な知見が非常に深い。“飛行機をどう作るか”という領域で、最前線のアドバイスをいただいています」

 長期的には、個人でも操縦できる小型機(LSA)の普及を視野に入れている。「誰もが車のように飛行機を操縦できる未来を。アメリカではすでに法律が整いつつあります。「まずはアメリカでLSAを飛ばしたい」と和田氏は語る。

“空の民主化”の最終形とは、移動そのものが社会インフラになること。航空が「地域をつなぐ手段」から「新しい暮らし方の基盤」へと変わる時代を、彼は見据えている。

「地域航空の第三極」を目指して

「この10年で、地域航空=トキエア、というポジションを確立したい」

 和田氏は明確に語る。既存の大手(JAL・ANA・スカイマーク)やLCC(Peach・ジェットスター)とは異なる、“第三の選択肢”を地方から生み出す挑戦だ。

 それは単に航空業界の話にとどまらない。大都市への依存を断ち切り、地方から産業を再設計する動きの象徴でもある。「空の移動をもっと自由に、地方をもっと主役に」──その構想は、地方発スタートアップが国家規模の課題に挑む、新しいモデルケースになりつつある。

 和田氏の言葉の根底には、「制約を前提に再設計する」という起業家の本質がある。補助金や制度に頼らず、現場の需給とデータから新しい事業構造を描く。それは、どの業界のスタートアップにも通じる発想だ。

「航空」という巨大産業に、民間発の構想力とスピードで挑むトキエアとLAND。その実験は、地方創生とスタートアップ経営の交点にある。彼らが見ているのは、“空の上”ではなく、“日本の未来”そのものだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)