2012年10月、オリンパスとの共同会見で、ソニーの社長兼最高経営責任者の平井一夫は力強く語った。「医療事業を柱にする」–医療を柱にするために、ソニーは粉飾決算の露呈で死に体のオリンパスに500億円を出資。合弁会社は20年に売上高700億円を目指し、ソニーグループ全体の医療事業の売上高は現在の数百億円から同時期に2000億円以上に引き上げる計画を打ち出した。
ソニーは、医療分野では数十年来、医療用モニターやプリンターなど周辺機器を手がけてきた。今回、医療機器分野に本格進出する背景には、主力事業の不振もあるが、医療機器に求められる技術の高度化がある。手術映像の3D表示や医療用モニター向けの有機EL技術、内視鏡に使うイメージセンサーなど、ソニーが持つ技術資産を生かせる可能性が広がってきたというわけだ。
厳しい法規制や天下り受け入れ、異質な商習慣
一方、ソニーの医療機器への本格進出を疑問視する声もある。「人体に直接触れる機器は法規制が厳しい。時間もかかるし、役所からの“天下り”をどれだけ受け入れるかがカギであるケースさえ多い。そこをソニーはどこまでわかっているのか。価格決定などの商習慣も非常に複雑だ」(業界関係者)というわけだ。
そもそもソニーがこれまで医療の世界に本腰を入れなかったのは、かつての社長である大賀典雄氏の強い意向があったとされる。大賀氏は自ら操縦するヘリコプターで重傷を負った経験があった。それ以降、身体に直接触れる医療分野に一定の距離を持つような姿勢を崩さなかったという。元ソニー社員は「大賀体制下、島津製作所など複数の企業といくつか医療機器プロジェクトが進んでいた。身体に直接触れる機器も開発しており、実用化寸前で上からの圧力で販売に至らなかった案件もあった」と語る。
外資系アナリストは「医療関連事業全体の時間軸が読みにくい。売り上げ目標2000億円ではソニーを支える『柱』としては物足りないが、利益面での貢献は大きいだろう」と語る。
「大賀の呪縛」を解き放った平井ソニー。本業のエレクトロニクス部門で復活の材料が少ないソニーにとっては、医療機器事業を思惑通りに育てられるかが、「SONY」の4文字に輝きが戻るか否かのカギを握っている。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)