●突きつけられたエンタメ部門の分離、上場
「取締役会で十分に議論して回答したい」–5月22日、経営方針説明会で平井一夫社長はサード社のソニーへの提案についてこう述べた。ソニーを取り巻く環境が騒がしくなったのは、説明会の約1週間前の14日。サード社の最高経営責任者(CEO)のダニエル・ローブ氏がソニー本社を訪問。ローブ氏は「エレクトロニクス部門にエンタメ事業が隠れてしまっている」と指摘。映画や音楽などエンターテインメント部門の分離、上場を経営陣に提案した。
ソニーの映画や音楽部門の営業利益は計1000億円規模。主力のテレビなどのエレクトロニクス部門が赤字を垂れ流す中、金融部門と並び気を吐く。電機担当の証券アナリストは「エンタメ部門はソニー単体では利益部門だが、同業他社と比べると利益率が高いわけではない。サード社にとっては、それがもどかしい。『ソニーは、エンタメとエレクトロニクス事業が相乗効果を生んでいない』との指摘に、大半の市場関係者は納得する」と語る。
●外堀を埋められるソニー
サード社は日本でこそ知名度は高くないが、米国では実力行使型のファンドとして知られる。12年には米ヤフーの経営陣と株主の対立に参戦。当時のCEOの学歴詐称を暴き、社外取締役を送り込み、米グーグルから剛腕で知られる女性を新CEOとして招聘した。国内の証券関係者は「ソニーの反応を様子見している状態だ。ただ、情報戦に長けたサード社だけに、これで終わりではない。焦る必要もないし、ソニーの動きを見て、二の矢、三の矢を放ってくるだろう」と語る。実際、一部報道によれば、ローブ氏はソニー幹部との面談の前後に、経産省やソニー社外取締役など複数の関係者に接触済みという。ソニー関係者はこうした動きを当初は把握しておらず、外堀を着実に埋められている状態だ。
●成長戦略が不透明との声も
ソニーは過去最大の赤字を計上した12年3月期から1年で、円安の追い風もあり、業績は回復を遂げつつある。最大の懸念であったエレキ事業の再建にも道筋をつけた。その一方、成長戦略に不透明感は残る。「ビル売却や人員削減などリストラ策で浮上しただけであり、『再建後』がまったく見えない」(ソニー社員)との声は内外から多い。こうした現状を踏まえれば、大株主のサード社の提案を無視はできないであろう。
サード社からの提案は、業績回復を急ぐ経営陣に、早くも「再建後」の青写真をどう描くかを突きつけた格好となった。米国育ちの平井氏は米国流の「もの言う株主」にどう対応するのか。「ソニー解体論」が株主の声によって、かつてないほど現実味を増す中、平井氏にとってもソニーにとっても正念場を迎える1年となりそうだ。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)