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JR九州、なぜ赤字必至の「ななつ星」導入?不祥事、苦しい経営続くJR北と分かれた明暗

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ななつ星in九州の車両(「Wikipedia」より/Rsa)
 日本初の豪華観光寝台列車、JR九州の「ななつ星in九州」の第1便が10月15日、博多駅(福岡市)から九州一周の旅に出発した。乗客は抽選倍率13倍で当選した28人。3泊4日で料金は2人1室76万~110万円であり、乗客の多くが首都圏に住む50~60代の富裕層の夫婦だ。

「車両はオリエントエクスプレスを超えたと思う」。JR九州の唐池恒二社長が自信を見せる「ななつ星」は、欧州のオリエント急行を参考に新造された客室7両と機関車からなる豪華列車。1編成に新幹線並みの30億円をかけた。JR九州のデザイン顧問である工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が構想を練り、古代漆をイメージしたワインレッドの車両は木材をふんだんに使って温かみと重量感を出した。シャワー室にはヒノキが張られ、客室の洗面鉢には佐賀・有田焼の人間国宝、14代酒井田柿右衛門の遺作が用いられている。ダイニングカーではバイオリンやピアノの生演奏もあり、すし職人が目の前で腕を振るう。

 JR九州は「ななつ星」を「大人の空間」と位置付けているため、小学生以下の乗車は不可で、ジーンズ、サンダルも禁止。個室にテレビは設置されていない。来年6月まですでに予約で埋まり、倍率は毎回10倍に近い。予想以上に販売が好調なため、最も高価な「デラックススイートA」の3泊4日コースの料金を、一人あたり56万6000円から70万円に引き上げる予定だ。この部屋は8両編成の最後尾にあり、巨大な展望窓が最大の売りで、最も高額だが人気が集中している。大幅に値上げしても人気は持続すると判断し、年明けに販売を始める来年7~9月分から新料金を適用する。

 JR九州の鉄道事業は赤字である。2013年3月期の連結決算によると、売上高は前年同期比3%増の3428億円、当期利益は9%減の60億円。このうち運輸サービス(鉄道事業が主)は売上高1688億円で110億円の営業赤字だ。駅ビルの不動産や外食の儲けで鉄道の赤字を補填して利益を出している。

「ななつ星」は14しか客室がなく、定員はわずか30人。1年間満室で運行しても売り上げは5億円程度のため、人件費も出ない。

●「ななつ星」導入の狙い

 ではJR九州は、なぜ赤字必至の「ななつ星」を導入したのか?

 狙いは海外からの観光客の誘致だ。鉄道事業は、少子高齢化が進む国内だけでは早晩行き詰まる。その一方、海外旅行者向けの乗り放題切符の販売は激増している。「ななつ星」を軸にして観光列車を拡充し、JR九州は海外の観光客を受け入れる考えだ。海外の観光客を呼び込む目玉が「ななつ星」というわけだ。

 現在「ななつ星」の乗客は日本人が中心だが、2~3年後には海外からの客を半分にするという目標を掲げている。外国人スタッフを採用して、アジアのほか鉄道の発祥地、欧州にも売り込みをかける。JR九州の狙いは、九州を「鉄道旅行のメッカ」にすることだ。

 運行開始に先立つ9月29日、英国、フランス、ドイツ、オランダから新聞・雑誌など13社14人を招待。記者たちは「ななつ星」の1泊2日のコースを体験した。欧州メディアに日本のオリエントエクスプレスと取り上げてもらい、欧州に多い鉄道旅行マニアの富裕層を取り込むのが狙いだ。

 豪華列車が新たな観光資源となり、訪日観光客数の増加や観光地の活性化につなげる。その切り札が「ななつ星」ブランドというわけだ。2~3年後に、海外からの客を半分にすることができるか? これが「ななつ星」の成否を占うカギとなる。

●苦境続くJR北海道

 元気なJR九州と対照的なのがJR北海道だ。列車火災に脱線事故、レールの異常の放置と不祥事の連鎖が止まらず、経営は厳しい。

 JR北海道の13年3月期連結決算の売上高は前年同期比9%増の1796億円、当期利益は40億円の黒字となり、3年ぶりに黒字転換した。うち鉄道事業の売り上げは776億円で335億円の営業赤字。駅ビルの商業施設は好調だが、この収益では赤字を埋めることができず、土地売却による特別利益で損失をカバーして黒字転換を果たすという決算だった。

 JR北海道の不祥事の元凶として、構造的な赤字という財務問題が指摘されている。これに並行して労組問題がある。JR各社の中でJR北海道は唯一、「旧国鉄の労働組合の悪しき“遺産”の処理に失敗した」というのが大方の見方だ。同社はJR東日本と同じくJR総連傘下の組合が強く、JR東海以西はJR連合傘下の組合が主導権を握る。

 JR総連は旧国鉄時代に機関士らで組織された動労(国鉄動力車労働組合)の流れをくむ。一方のJR連合は職員で組織された国労(国鉄労働組合)から脱退した鉄産労連(日本鉄道産業労働組合総連合)が母体。両者は激しく対立した。

 JR北海道には4つの労組がある。組合員の8割強が入る最大労組がJR総連系のJR北海道労組。それに次ぐのがJR連合系のJR北鉄労。ほかに国労系の国労道本と動労から分かれた全動労系の建交労道本部がある。安全確保のために4労組が共同歩調をとることはない。1987年の国鉄分割・民営化の際、民営化に反対した国労や動労から脱退した全動労(全国鉄動力車労働組合/現・建交労)の組合員はJRへの採用で差別された。

 この不採用問題が影を落としている。2年前に自殺した中島尚俊・元JR北海道社長の遺書には「お客さまの安全を最優先にすることを常に考える社員になっていただきたい」と書かれていた。労使交渉に疲れたのが自殺の原因とみられており、中島氏の自殺は今日の混乱を予見していたものともいわれている。

 国鉄民営化の際に、鉄道事業で黒字化が難しいといわれたJR北海道、JR四国、JR九州は「3島会社」をつくったが、この民営化のスキームの歪みが現れた。JR北海道はJR東日本が救済合併するしか解決策は残されていない、と指摘する声も多い。しかし、株式を公開しているJR東日本にとってJR北海道の救済は難問中の難問である。JR西日本がJR四国を合併する、あるいはJR九州と四国を一体化するといったパッケージをつくらないと、JR東日本は単独では動けない。

 国鉄民営化から約四半世紀たった今、JR九州とJR北海道の明暗は大きく分かれることとなった。
(文=編集部)