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セールスフォース、AI導入の成功でエンジニア採用が不要…日本でも不可避?

2025.03.28 2025.04.10 14:49 企業
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「Unsplash」より

 米Salesforce(セールスフォース)のマーク・ベニオフCEOが先月(2月)、同社が開発した新しいAIエージェント「Agentforce」を導入したことによりエンジニアを採用する必要がなくなったため、2025年度はエンジニアの採用をしないと発表し、話題を呼んでいる。AIの普及でプログラミングの世界でもノーコード、ローコードが増えつつあるなか、日本企業の間でもプログラマーをはじめとするITエンジニアの採用数を減らす、もしくは行わないといった動きが広まる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 セールスフォースの「Agentforce」は、サービス、セールス、マーケティング、コマース領域のタスクを処理する自律型AIエージェントで、Salesforce Platform上に構築されている。データを検索・分析し、行動計画を作成し実行することで、従業員が行う具体的なタスクをサポートし、業務の効率を向上させることができるという。たとえば従来のチャットボットを「Agentforce Service Agent」に置き換えることによって、事前にプログラムされたシナリオがなくても幅広いサービスの問題に対応でき、カスタマーサービスの効率を向上できる。

 ベニオフCEOが先月の同社決算説明会で語ったところによれば、「フォーチュン100」にリストアップされた企業の約半数がすでにセールスフォース社の製品を導入し、同社で直近90日間で発生した38万件の顧客対応のうちの84%を「Agentforce」が解決。「Agentforce」について5000件の契約を獲得したという。

エンジニアの必要数が減る

 プログラミングの領域でも人間に代わってAIがコーディングを行うケースは増えている。たとえば米グーグルはAIがコードの25%以上をコーディングしていると明かしている。3月27日付「日経クロステック」記事によれば、富士通は三井住友銀行向けシステムのバージョンアップ作業において、互換性がなくなる部分を生成AIで抽出することで従来比で約65%の作業時間を削減したという。

 セールスフォースは「Agentforce」の販売拡大のため24年に営業担当職を約1000人雇用する一方、23年には約7000人、24年には約1000人の人員削減を行い、25年も1000人以上を削減する。今後、日本でもAI導入が進むことによって、ITエンジニアの採用を減らす、もしくは採用を行わない企業が増えてくる可能性はあるのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。

「今ではAIが実用的なプログラムを書けるようになっていますので、上流工程で設計したものを下流工程でプログラムを書くだけの仕事というのは、今後減ってくるかもしれません。これまでプログラマーが行っていたことをAIがやってくれるようになるので、エンジニアの必要数が減るということはあり得るでしょう。

 ノーコードやローコードといったことがいわれていますが、日本でも、これまでプログラマーが担ってきたコーディングをAIがやっているというケースは、会社によっては出てきています。上流工程を担う大手IT企業ほど、そういった生成AIの活用をしているかもしれません。海外ですとGAFAはプログラムの何割かをすでにAIが書いていると公表しており、『これまで人間がやっていた作業がこれだけ減ります』ということが見えるようになってくるかもしれません」

ITを専門とする仕事自体は相変わらず必要

 一方、AIにプログラミングを任せると、プログラムがうまく動作しない場合に『どこに間違いや原因があるのか』が分からなくなってしまったりと、手戻りが発生するため、人間がやっていたプログラミングをAIがやってくれるようになるという単純な話ではないという指摘も聞かれる。

「毎月のようにChatGPTの新しい機能がリリースされているように、AIの発展速度が非常に速いため、数カ月前まではAIではできなかったことが、今では問題なくできるようになっているということは珍しくありません。ですので現時点で『AIにはできない』といわれていることも、少ししたらAIに置き換えられている可能性はあります。

 ですが、企業においてはITを専門とする仕事自体は相変わらず必要だと思います。エンジニアが求められるスキルセットが、より上流に近くなり、企業が抱えている課題をITの言葉に置き換えてAIに指示するということになっていくでしょう。つまり企業の課題とAIの間をつなぐITの専門家というのが、相変わらず必要だと思います。AIの普及でプログラマーをはじめエンジニアの採用の数が減っていくかもしれませんが、顧客がやりたいことをきちんとITの言葉に置き換えて、案件として進められるコンサルティング能力みたいなものが、採用において求められてくるかもしれません」(田中氏)

 大きな問題もあるという。

「プログラマーにとっては、自分で考えて手を動かして何かを作るということがアイデンティティだったわけですが、AIに指示を出すだけの仕事で納得できるかという『エンジニアのアイデンティティ・クライシス』という問題がSNS上でも話題になり、議論を呼んでいました。『AIに指示を出す人になることが、我々がやりたかったことなんだろうか?』といったエンジニアの葛藤は、今後課題になってくるのかなとは思います」(田中氏)

(文=Business Journal編集部、協力=田中健太/データアナリスト、鶴見教育工学研究所)

田中健太/データアナリスト、鶴見教育工学研究所

田中健太/データアナリスト、鶴見教育工学研究所

東京工業大学大学院 博士課程単位取得退学。ITベンダー系人材育成サービス企業で、研修開発、実施に従事。クラウド、IoT、データサイエンスなどトレンド領域で多数の教材作成、登壇。リサーチ会社でデジタルマーケティング領域のデータ分析に従事。アンケート、アクセスログ、位置情報、SNS等を組み合わせた広告効果の分析を行った。現在は、フリーランスとして教育の領域で活動。
鶴見教育工学研究所