ビジネスジャーナル > 経済ニュース > 飲食店の人手不足倒産を止める切り札

飲食店の“人手不足倒産”を止める切り札…ロボットと冷凍テクノロジーで経営が激変

2025.12.04 2025.12.04 01:16 経済

飲食店の人手不足倒産を止める切り札…ロボットと冷凍テクノロジーで経営が激変の画像1

●この記事のポイント
・飲食業の人手不足が深刻化するなか、調理・盛り付け・保存を自動化する最新ロボットと急速冷凍技術が中小店の経営を根本から変え始めている。人材依存を減らし、利益構造を改善するDXの実力を検証する。
・採用難や教育負荷を抱える飲食店で、省人化ロボットと液体急速凍結が急速に普及。職人技の標準化、惣菜工場の自動化、食品ロス削減など、生産性向上と新たな収益源の創出につながる技術の最前線を追う。
・外食の「人がいない」問題に対し、モリロボ、Thinker、エムプラスの技術が現場を大きく変えている。中小店こそ効果が高いDXの導入ポイントと、業界専門家が指摘する経営インパクトをまとめた。

 飲食・食品業界における“構造的な人手不足”が、いよいよ限界点に達している。帝国データバンクの調査によれば、人手不足を要因とした倒産は過去最多ペースで推移しており、特に飲食・サービス業の増加が顕著だ。最低賃金の上昇、人口減少、採用の難化という複合要因が重なり、従来の「安価な労働力を大量投入する」モデルはもはや成立しない。

 こうした中、現場の疲弊を止め、企業の収益性を守る決定打として注目されているのが、現場オペレーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)である。かつては大企業の専売特許と思われていたDXだが、今その主役はむしろ「少人数で店舗を回す中小規模の飲食店・食品工場」に移っている。

 本稿では、飲食DXの最前線で起きている“静かな革命”を、専門家の見解とともに読み解いていく。

●目次

クレープ職人はもう不要?ロボット化が採用難を解決

 飲食店の人材難が深刻化するなかで、特に大きな課題として浮上しているのが「教育コストの重さ」である。新たに採用しても、調理技術の習得には時間がかかり、辞めてしまえばすべてが無駄になる。

 例えば、クレープやガレットのように熟練度が必要なメニューは、なおさら人材依存度が高くなる。この構造的な問題を技術で解決するものとして、モリロボ社のクレープ生地焼きロボット「Q」がある。レコードプレーヤーのような独特の形状をしたこの装置は、鉄板の温度調整から生地の展開、焼き上がりの均一化までを自動で実行する。店員が行う操作は、基本的に生地を投入し、ボタンを押すだけ。熟練者でなければ作れなかった薄いクレープ生地を、初日から均質な品質で量産できる。

「外食産業では“誰でもできる化”が最大のテーマです。特にスイーツ中心の店では、焼きムラや仕上がりの品質差が利益率を大きく左右します。調理そのものを標準化できれば、新人が即戦力となり、教育負荷が劇的に下がる。これは小規模店ほどインパクトが大きいでしょう」(外食オペレーション専門家・コンサルタントの安西裕司氏)

「Q」はクレープだけでなく、ガレットや春巻きの皮など、“皮もの食品”全般に応用可能で、業務用需要も高い。商品ラインアップが増えるほど、人手による技術依存のリスクは高まるが、ロボット化によって“技術を持つ人が辞めても困らない”体制を構築できる。

食品工場の“最後の壁”を突破したロボットハンド

 飲食・惣菜工場では長らく、ある工程だけが自動化できずに残されてきた。それが、不定形食品の盛り付け工程である。唐揚げ、天ぷら、煮物など、形がバラバラな食材は、従来の産業ロボットではうまく掴むことができなかった。結局は大量の人員が“最後の手作業”としてパック詰めを行う必要があり、これが生産性向上の最大のネックだった。

 この壁を破った技術として注目されているのが、Thinker社のロボットハンド「Think Hand F」である。

 最大の特徴は、「つかむ」という行為を人間に近い感覚で行える点だ。

・指に搭載された近接覚センサーが、食材に触れる前に形状を把握
・2次元カメラが位置と姿勢を認識
・ロボット自身が「どうつかめば最適か」を判断して動作を調整
・柔らかさ・形の違う食材でも、崩さずにピッキングが可能

 食品工学の研究分野では、「不定形物の取り扱い」は長年の難題とされてきた。それだけに、この技術がもたらすインパクトは小さくない。

「惣菜工場では、機械化が進んでいても“最後の盛り付け工程”だけは人の仕事になっていました。Think Hand Fの登場は、いわば食品工場における“ラストマイルの自動化”。これが実現すれば、ライン全体の自動化がほぼ完成形になります」(食品工学専門家・藤田直久氏)

 Think Hand F はすでに複数の食品メーカーが試験導入を進めている。公開情報の範囲では、大手スーパー向け惣菜工程などでの活用が進んでいるとされる。24時間稼働が可能になれば、人件費の大幅抑制だけでなく、深刻化する製造人材の不足を補う切り札にもなり得る。

液体急速冷凍が「在庫」「提供速度」「売上」を変革

 飲食DXの主役はロボットだけではない。実は、冷凍技術の進化が飲食店の経営構造を根本から変えつつある。

 エムプラス社が開発した液体急速凍結機「ストームフリーザー」は、マイナス50度のアルコール液を用い、空冷方式では到達できないスピードで食品を凍結させる。この“スピード”が、店舗経営に多様なメリットをもたらす。

● 食品ロスの大幅削減

 食材を凍結する際に問題となるのは、氷結晶が細胞を破壊する「ドリップ」だ。これが起きると、解凍後に味が落ち、食感も損なわれる。

 液体凍結は空冷よりも熱伝導率が圧倒的に高く、食品の中心部まで短時間で到達するため、細胞破壊を抑え、味を保持できる。

「冷凍は“劣化する保存”という常識を覆す技術です。液体急速凍結を使えば、旬の食材を最高の状態で閉じ込められるため、季節を問わず高品質なメニューを提供できます」(前出・藤田氏)

● 業務負荷の平準化と回転率アップ

 忙しい時間帯に手作業で提供していたメニューを、非ピーク時間に仕込み → 急速冷凍 → 注文後に解凍して提供する運用が可能となる。

 飲食店の“繁忙の波”をならし、機会損失の削減、在庫の最適化に繋がる。

● 新しい販路を作る“製造業化”の可能性

 液体凍結によって品質を保てるため、これまでテイクアウトできなかったメニューも、高品質な冷凍食品として販売できる。飲食店が“商品を作って売る”製造業的モデルを採用できるわけだ。

 ストームフリーザーは居酒屋・スイーツ店・精肉店など多業態で導入が進んでおり、公開情報上も多数の事例が確認できる。

データが示す「中小店こそDXが効く」理由

 飲食店は中小零細が9割以上を占め、人材不足の影響を最も受けやすい産業である。日本フードサービス協会の調査でも、飲食店の人材不足率は常に高止まりしており、特に調理スタッフの不足が深刻だ。

 こうしたなか、今回紹介した3つの技術に共通するのは、「人への依存を抜け出し、標準化された生産体制を築く」という視点である。

 モリロボ「Q」:教育負荷の軽減、属人的な技術の排除
 Think Hand F:不定形食品という自動化の“最後の壁”の突破
 ストームフリーザー:仕込みの平準化、食品ロス削減、販売機会の拡大

 これは単なる“便利な機械の導入”ではなく、企業の損益構造そのものを改善する投資である。

 前出の安西氏は、こう指摘する。

「飲食店の原価率や人件費はコントロールが非常に難しい。特に教育コストや離職リスクは“見えない固定費”として積み上がります。DXの価値は、これらの不安定要素を排除して、“計画可能な経営”を実現できる点にあります」

導入はコストではない──生き残る店が選ぶ“攻めの投資”

 もちろん、ロボットや急速冷凍機の導入には初期費用がかかる。しかし、人件費上昇、採用困難、繁忙の偏在、廃棄ロスといった構造的問題を踏まえると、その費用は“コスト”ではなく「生存のための投資」と位置づけるべきだ。

 人口減少が進む日本において、「人がいなくても売上と品質を保てる店」が勝ち残るのは自明である。

 すでに、従業員3〜5名で店舗を回す小規模飲食店ほど、DXの効果を強く実感しているという。人材依存のリスクを減らし、標準化と省力化を同時に達成する仕組みづくりは、中小企業にとって避けられない経営課題となっている。

 中小飲食店・食品工場向けのDXソリューションは、過去数年で驚くほど実用レベルに達し、いま確実に普及期に入っている。

 ・調理工程
 ・盛り付け工程
 ・保存・在庫管理
 ・テイクアウト展開
 ・売上増に直結する新規商品開発

 これらを同時に変革できる時代が来た。

「人がいないから仕方ない」ではなく、「人がいない時代だからこそできる経営戦略」へと発想を転換できる企業こそが、これからの市場で勝ち残るだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)