飲食未経験でも3カ月で店長に育成…「やきとり大吉」異質のチェーン運営、加盟店が辞めない理由

●この記事のポイント
・「やきとり大吉」、外食産業未経験者でも3カ月で店長に育成するシステムを導入
・チェーン店でありながら店主の属人性が強い店舗運営
・エリア指定リース方式には店舗数の拡大だけでなく、加盟者のライフスタイルをサポートする意図も
焼鳥店チェーン「やきとり大吉」が勢いづいている。一時は1000以上あった店舗は現在では500ほどとなっているが、2030年までに700店舗にまで増やす目標を掲げている。そんな大吉が飲食業界全体が深刻な人手不足のなかで注力しているのが、人材育成だ。同社は外食産業未経験者でも3カ月で店主に育成するシステムを導入。さらに、出店費用を本部が負担する制度も導入しているという。ユニークな人事育成・出店システム、そして再成長に向けた取り組みを同社に取材した。
●目次
どの来店客に何を勧めるかを判断できるのが大吉の強み
やきとり大吉が巻き返しに入った。事業承継が進まないと、やがて、どんな事態に直面するのか――大吉は、その厳しい現実にさらされてきたが、店舗デザインのリニューアルや新たな出店方式の提供、あるいは2023年1月に親会社になった焼鳥店チェーン「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループの経営資源も活用して、かつての勢いを復活させようと手を打っている。
大吉の店舗数は1990年代に拡大を続けた。バブル崩壊にともなう早期退職で得た割増退職金を原資に、40代後半から50代の独立志願者の加盟が爆発的に増え、02年には1100超店舗に達した。ひるがえって直近の店舗数は25年1月末に485店。およそ25年の間に5割以下に減少したのである。コロナ渦が要因の閉店は1店舗もなかったので、集客力が低下したわけではない。店舗数が半減した要因は大吉の店舗運営方式にあり、この方式が事業承継になじまなかったようだ。何がネックだったのだろうか。
大吉には直営店が1店もない。全店舗がフランチャイズ(FC)で、加盟対象を個人に限定し、FCオーナーが店主として毎日カウンター内に立ち、約10坪の店内で夫人などのサポートを得ながら調理から接客までを担う。店主が店長を雇用し、みずからは現場に出ない運営方式ではない。あくまでも店主が店に立つ。それは経営理念「生業(なりわい)商売に徹する」に由来する。
店舗運営は業務マニュアルに基づくが、接客マニュアルは導入されていないため、チェーン店でありながら店主の属人性が強い店舗運営が行われている。運営店舗数は「1店主=1店舗」が基本で、複数店舗を運営している店主は2店舗の8名にすぎない。2店舗までしか認められていないのだ。その意図について、運営会社ダイキチシステムの近藤隆社長は、次のように説明する。
「店主が焼き台に立って、来店客の飲み物や料理の進み具合を見ながら、どの来店客に何を勧めるかを判断できるのが大吉の強みで、全国で支持される要因である」
個人店の運営方式ゆえに、店主が高齢化して焼き台に立つことが難しくなれば、おのずと退店してゆく。店舗の一部に息子や親戚が承継している例もあるが、大半は高齢化にともない退店して、新規加盟を含めても純減傾向に抗えず、店舗数の半減に至ったのである。いわば店舗運営の強みが、事業承継の弱みに転じてしまったのだ。
リブランディングと新規出店
この現状に対して、エターナルホスピタリティグループは中期経営計画(25年7月期~27年7月期)に700店舗の回復を記載した。回復に向けた施策はおもに2つが挙げられる。第一にリブランディングである。大吉の看板が醸し出す強面感や厳つさを軽減し、入り口から店内が見えず入りにくいという造作を解消するために、内外装に白木を使用してソフトに演出したうえに、窓のサイズを拡大して路上から店内を見やすく変えた。この施策を経て、ダイキチシステムは従来の店舗を「赤大吉」、リブランディングした店舗を「白大吉」と区分けしているが、その差異として表れたのは女性客比率で、「赤大吉」の20%に対して「白大吉」は50%に増加した。
施策の第二は、「エリア指定リース方式」と呼ぶ新たな出店形式の採用が挙げられる。従来の出店方式は、本部所有の店舗を借り受けるリース方式、希望エリアで物件を取得する開業するオーナー方式の2つだったが、新たに「エリア指定リース方式」を加えている。この方式は、まずリース方式で2年間店舗営業経験を積んだ後、希望するエリアで本部が用意した店舗をリース方式で運営する。
エリア指定リース方式には店舗数の拡大だけでなく、加盟者のライフスタイルをサポートする意図もある。宇野毅取締役は語る。
「例えば親の介護で実家に戻らなければならなくなった場合、地方で就職先が見つかっても月給20万円では生活ができないという例もある。しかし大吉を運営すれば、もっと多い収入を得られる可能性がある」
リース方式の収益モデルは、店主夫婦とアルバイト1人で運営する場合、月商180万円で店主の収入は67万円、月商230万円で86万円と開示されている。ロイヤリティは毎月定額の3万円である。一般にFCの場合、収益モデルと実績値に一定のかい離がある例が少なくないが、大吉は「実績値は収益モデルとほぼ同じで、月商160~180万円が多い」(近藤氏)という。店主の収入はおよそ月47~67万円という水準だ。
大吉店主の8割は10年以上にわたって加盟しているが、近藤氏は「本部は店主の収入に関与しないが、辞めないで継続しているのは、しっかりと実入りがあるからだろう」と推察している。
栃木県宇都宮市や群馬県高崎市周辺への出店では、この地域独自の出店形式を取り入れた。過去に大吉が運営されていた栃木県と群馬県を潜在的な認知やニーズが見込める市場と位置づける。2つの地域限定で本部が店舗を貸し出し、店主はほかの地域で営業経験がなくても開業できるプランを設けた。潜在ニーズの大きな市場であり、未出店になっているエリアで店舗展開を進めていく方針だ。
大吉の研修は全てのカリキュラムを実店舗で実施
その店主たちは、半数以上が飲食業を未経験で加盟している。3カ月の研修を経て開業するのだが、未経験者を3カ月の研修だけで店主に据えることに、拙速のきらいはないのか。近藤氏は「3カ月という研修期間は長いほうだと思う。飲食店FCには研修期間が2週間という本部もある」と否定する。改めて調べたところ、確かに3カ月は長いほうである。
大吉の研修は全てのカリキュラムを実店舗で、1カ月ごとに違う店舗で店主の指導のもとに進める。1カ月目は、仕込み、衛生管理、マナー、心得。2カ月目は、焼きと仕込みの技術、ホスピタリティー。3カ月目は、店舗オペレーション全体、営業許可申請・備品発注、スタッフ募集。そのうえで開業する店舗でテストランを経てオープンする。
現下のテーマは加盟者の獲得だ。その予備軍として有力な母体がエターナルホスピタリティグループのグループ企業・鳥貴族で、24年から、鳥貴族の社員を対象に独立制度として大吉加盟の説明会を開いている。この取り組みと同時に地方自治体との連携も検討中だ。地域活性化の手段に大吉を開業するプランを自治体と協議している最中だが、「人口の少ない鳥取県で大吉が10店舗盛業しているので、地方でも成り立つ店として自治体関係者も関心を示している」(近藤氏)という。
飲食店はコミュニティの拠点としても機能するが、懸念されるのは持続性だろう。例えばブームの火が付くような業態では持続性に欠けやすい。その点、焼鳥店は流行り廃りの少ない業態というのがダイキチシステムの見解である。
「ダイキチシステムの創業者は、お好み焼き、寿司、スナックなどいろいろな業態を運営したが、流行り廃りがなく、鶏肉と玉子は物価の優等生で原価が安く、素人でも一人前に育成できるという理由で、焼鳥一本に絞った。今でも市場の上下がそれほどないので、焼鳥以外を手がける考えはない」(近藤氏)
大吉が地方に開店すれば住民の楽しみがひとつ増えて、高齢化と人口減少で陰りが広がる街に、温もりをもたらす契機になるかもしれない。地方創生の一端を担う道筋も見えてこよう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)