トヨタ1強、スズキ2位躍進の衝撃…日産・ホンダ低迷が映す日本市場の“構造転換”

●この記事のポイント
・2025年、日本の新車販売でスズキが国内2位に浮上し、日産・ホンダが後退。軽自動車需要の拡大や供給網混乱が、従来の“ビッグ3”体制を崩した。
・スズキは軽自動車の強みとインド事業の高収益で安定成長。一方、日産は新車不足、ホンダは半導体供給停止が痛手となり販売機会を大きく失った。
・日本市場は「高性能より維持しやすさ」を重視する構造へ転換。スズキの躍進は“身の丈消費”の象徴で、メーカー各社は新たな戦略が求められている。
2025年、日本の自動車市場で「常識」が書き換わった。長年続いたトヨタ自動車・日産自動車・本田技研工業(ホンダ)の“ビッグ3”体制が崩れ、スズキが新車販売シェアで国内2位に浮上したのだ。背景には、軽自動車需要の拡大、インド事業の収益力、供給網混乱、ブランド力低下など複合要因がある。統計データや市場分析、専門家のコメントを交えつつ、日本の自動車産業が迎えた転換点を読み解く。
●目次
- 統計が示した「歴史的な序列変化」
- スズキ躍進の背景…“デフレ日本”が求めるクルマとは
- 日産の失速…“売る車が足りない”という致命傷
- ホンダの4位転落…サプライチェーンの脆弱性が露呈
- 中堅メーカーの堅守と「新・3強」の行方
- 日本市場の成熟と“身の丈消費”の時代へ
統計が示した「歴史的な序列変化」
2025年下半期(7〜12月)の国内新車販売(登録車+軽)速報値によれば、メーカー別販売台数は以下の順位となった(※日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会の公開データを基に再構成)。
1位:トヨタ(レクサス含む) … 約86万台
2位:スズキ … 約46万台
3位:日産 … 約44万台
4位:ホンダ … 約42万台
※数値は公表値から算出した概算。実際の速報数値に基づく。
かつて不動の2位・3位を占めた日産とホンダが揃って後退し、スズキが単独2位となるのは極めて珍しい。自動車アナリストの荻野博文氏は次のように指摘する。
「軽自動車市場の強さが構造的に続くなか、スズキはこの10年で堅実に国内シェアを伸ばしてきました。一方、日産・ホンダは新車投入遅れや供給網の混乱が重なり、販売機会を大きく失った。今回の順位変動は“偶然”ではなく、むしろ必然的な帰結だといえます」
スズキ躍進の背景…“デフレ日本”が求めるクルマとは
1. 軽自動車需要を取り込んだ戦略
2024年の軽自動車販売は約170万台(前年比+6.2%)と、登録車を大きく上回る成長を見せた(全国軽自動車協会連合会)。背景には、
・維持費の安さ
・物価高で進む「ダウンサイジング消費」
・地方の公共交通縮小による「生活の足」としての需要
がある。
スズキは『スペーシア』『ハスラー』などのヒットにより、この潮流を確実に取り込んだ。
「地方部では“1家に1台”から“1人に1台”へと需要の基準が変わっています。軽自動車は税制面の優遇もあり、社会インフラの役割を担い始めている。スズキはその中心に位置している」(荻野氏)
2. インド事業という強固な収益源
スズキのインド子会社 マルチ・スズキ(Maruti Suzuki)の販売台数は2024年度で約195万台と過去最高水準(同社開示資料)。営業利益率は10%台と高水準を維持している。
この“ドル箱市場”で稼ぎ出すキャッシュが、国内向けの商品開発や電動化投資を支えている。
「日産やホンダが北米中心の戦略で収益の波を受けやすい構造であるのに対し、スズキはインド市場の伸びをそのまま成長に反映できています。スズキが値引き競争に巻き込まれず、安定した国内販売を維持できた理由のひとつです」(同)
日産の失速…“売る車が足りない”という致命傷
1. 新車投入の遅れ
日産の主力『ノート』『セレナ』は依然人気だが、それ以外の量販車種でモデル末期が続き、展示車不足が深刻化した。日本自動車販売協会連合会のデータでも、日産の登録車販売は2024年比で減少傾向にある。
首都圏の日産ディーラー店長は次のように語る。
「お客様が来店されても、提案できる新型車が限られている状況です。EV偏重でリソースが割かれ、足元の販売車種が不足しているという現実があります」
2. 経営の混乱がブランドに影響
日産は2024年に業績見通しを下方修正し、株価も不安定に推移した。企業統治問題、経営陣の対立といった報道が続いたことで、消費者の間には「将来価値(リセールバリュー)への不安」が広がった。
「自動車は耐久消費財であり、ブランドへの信頼性は購入時の重要な判断要素です。その信頼が揺らぐと、販売に長期的な影響が出る。日産はここを立て直す必要があります」(同)
ホンダの4位転落…サプライチェーンの脆弱性が露呈
1. 半導体供給停止の影響
ホンダは2024〜2025年にかけて、一部の車載半導体を供給する オランダ企業Nexperia(ネクスペリア)の出荷制限の影響を受けた(報道発表ベース)。『ヴェゼル』『シビック』『N-BOX』など主力車種が納期遅延に直面し、販売機会を大きく損失した。
2. BCP(事業継続計画)の甘さ
半導体の調達リスクはコロナ禍以降、業界全体の構造的課題だ。それにもかかわらず、一部品目について調達先の分散が十分でなかった点が指摘されている。
「調達先の集中は『コスト削減の成果』に見える一方で、危機時には脆弱性として露呈します。今回のホンダの影響は、部品戦略の再構築が急務であることを示しました」(同)
3. 国内販売の“偏り”という構造課題
ホンダの国内販売の約4割が『N-BOX』に依存している(2024年販売データ)。同車は絶対的な人気車種だが、裏返せば「普通車ラインナップの弱さ」を示す。
「ホンダはN-BOXの成功で軽市場では存在感が大きい。しかし登録車が弱く、スズキやトヨタのように全方位で戦える体制ではありません」(同)
中堅メーカーの堅守と「新・3強」の行方
マツダはラージ商品群で高価格帯へ、三菱自動車はPHEV技術、SUBARUはAWDと安全性で差別化し、シェアを安定維持している。
今後の市場構造はどうなるのか。
●スズキの2位は当面揺るがない
軽自動車比率は2024年に過去最高の45.3%を記録しており(全国軽自動車協会)、この構造変化が続く限りスズキは有利だ。
●日産・ホンダの復権条件
日産:
・経営安定化
・2026年前後の新型車投入がヒットするか
・EV偏重からの“バランス型”商品戦略への転換
ホンダ:
・サプライチェーン正常化
・調達先多様化
・普通車ラインナップの強化
これらの実現が不可欠となる。
日本市場の成熟と“身の丈消費”の時代へ
2025年のランキング変動は、単なる企業の勝敗ではなく、日本市場の構造変化を象徴している。「高くて性能の良い車」から「維持できる、必要十分な車」へ――。日本の消費行動は確実に変化しつつある。
スズキの躍進はその変化の受け皿となった結果であり、日産・ホンダの失速は、供給網や商品企画の遅れが浮き彫りとなった形だ。
かつての“ブランド力”だけで車が売れる時代は、すでに終わりを迎えている。いま求められているのは、変化した市場構造を前提とした新たな経営戦略である。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











