いまや飲食店などでお馴染みの存在となった猫型配膳ロボット。この分野で日本で高いシェアを持つ中国Pudu Roboticsが先月、二足歩行型ヒューマノイドロボット「PUDU D9」を発表。一部SNS上では「ついにヒト型配膳ロボットが登場か」と話題を呼んでいる。どのような特徴・先進性のあるロボットなのか。また、ヒト型配膳ロボットとして活用される可能性はあると考えられるか。専門家に見解を聞いた。
完全なヒト型に設計され「人間として生まれる」をコアデザイン理念とする「PUDU D9」の主な特徴は以下のとおり。
・身長170cm、体重65kg、全身の関節は42自由度。20kg以上の荷重に対応する7自由度のロボットアームを2本、11自由度の5本指を保持。
・二足歩行が可能で速度は人間の大人と同等の2m/秒。階段、坂道、足元の悪い道などにも対応。
・高精度センサーを通じて周囲の地形や知覚情報を包括的に取得し、リアルタイムで3Dマップを構築。環境を包括的かつ詳細に理解し正確に位置を特定しながら、自身の体勢を把握し、タスクに基づいてルートを計画することで柔軟な移動とリアルタイムでの障害物回避を実現。
・高精度の視覚、触覚、力覚、聴覚センサーを搭載し、周辺環境のマルチモーダル情報を包括的に取得し、大規模言語モデルに接続。「脳+小脳」で処理した後にフィードバック。人間と同等のマルチモーダルで自然なインタラクションを実現。
2025年はヒューマノイドロボット元年になるか
同社の公式サイトによれは、倉庫内でのピッキング・持ち運び、小売店での品出し、イベントでのゲスト対応、清掃といった業務への利用が想定されているようだ。ITライターの神崎洋治氏はいう。
「ヒューマノイドロボットは数年前に多くの企業が展示会などでデモ機をPRするなどして話題が先行しましたが、現在も工場内で実証実験などが行われているくらいの段階であり、広く活用が進んでいるという状況ではありません。Pudu社の『PUDU D9』も販売の開始はこれからなので、急にいろいろなところで活用されるというわけではありません。
ですが期待を込めていえば、今年2025年はヒューマノイドロボット元年になる可能性があるとみています。その理由は米エヌビディアの動向です。同社はロボティクスに力を入れている代表的企業の1社で、以前よりロボティクスの開発とトレーニングを支援する仮想環境『Isaac Sim』等を提供していて、昨年7月には、ヒューマノイドロボットの開発ツール『NVIDIA OSMO』も発表するなど積極的で、2025年には更に最新の開発プラットフォームのリリースを次々と行う予定です。同社はGPU向けの開発プラットフォームを提供し、これがAI普及の重要な契機の一つになりましたが、このようなプラットフォームの存在は多くのディベロッパーの参入と開発競争の活性化を生み、技術発展と市場拡大につながります」
カギは店舗側のコストメリット
Pudu社といえば飲食店で配膳ロボットとして利用されている「BellaBot(ベラボット)」が有名だ。大手飲食チェーン、すかいらーくグループがいち早く全社的に導入を推進し、2022年12月時点で「ガスト」「しゃぶ葉」「バーミヤン」「ジョナサン」などグループ店舗のうち約2100店舗に約3000台を導入。店員がロボットに料理を置いてテーブル番号を入力すると、ロボットが自動でテーブルまで運んで行き、客が料理を取ると自動で厨房に戻って来る。事前にロボットに各店舗のレイアウトを学習・記憶させることで、店舗側は従業員負荷を低減でき、配膳以外の業務に人的リソースを割くことでオペレーションやサービス品質の向上を実現できるのに加え、ロボットは愛嬌のある猫型で一部を触ると声を出すなどの機能もあるため集客効果も見込める。すかいらーくホールディングスの発表によれば、ロボットの導入により、ガストではランチピーク回転率の7.5%上昇、片付け完了時間の35%削減、店員の歩行数42%削減などの効果が出たという。
一台の価格は約330万円で、約10万円のサブスクリプションプランも提供されている。
気になるのが、今回発表されたヒューマノイドロボット「PUDU D9」が飲食業界においてヒト型配膳ロボットとして使用されるのかという点だ。
「二足歩行のヒューマノイドロボットでいえば中国Unitree(ユニツリー)、 『ソフィア』の開発元である香港ハンソン・ロボティクス、米テスラなどのほうがPudu社より先行していますが、性能の高さよりもベラボットのように大規模なチェーンなどに大量に導入されるのかという点が重要になってくるかもしれません。また、配膳のみなら猫型ロボットだけで事足りるので、それよりも高価なヒューマノイドロボットが広く導入されるためには、配膳だけではなく下膳、顧客から質問を受けて回答するといった顧客対応までできないと、店舗側にとっては大幅に人件費を削減できるといったコストメリットが出ません。そうした機能を備えつつコストをかなり抑えないと、店舗側は『猫型ロボットで間に合うよね』となってしまいます」(神崎氏)
2016年に設立され中国・深センに本社を置くPudu社は、商用サービスロボットの設計、研究開発、生産、販売を手掛けており、60カ国以上に8万台以上のロボットを出荷している。レストラン、小売、接客業、ヘルスケア、エンターテインメント、製造など幅広い業界で使用されている。幅広いコア技術や約1000件の認定特許を保有している。
(文=Business Journal編集部、協力=神崎洋治/ITライター)