ファミリーレストラン「ガスト」など多くの飲食店で見かけるようになった猫型配膳ロボット。ガストのものは中国ロボットメーカー・Pudu Roboticsが開発した「BellaBot(ベラボット)」というサービスロボットだが、ECで330万円で販売されており、その価格が高いのか安いのかという点が話題を呼んでいる。そのコスパをどう評価するのか、また店舗側にとって導入するメリットとデメリットは何か、専門家の見解を交えて追ってみたい。
あらゆる業界で人手不足が叫ばれるなか、人件費は高騰。飲食業界でもアルバイト時給が上昇している。求人情報サイト「Indeed」によれば、東京都の飲食店の平均給与は1381円(4月16日時点)となっており、都内のホテルのレストランや居酒屋チェーンではアルバイト・パートの時給が1500円を超える例もみられる。少し前には牛丼チェーン「すき家」の一部店舗で時給が2000円を超えるケースも出て話題を呼んでいた。
ファミレスチェーン各社の時給(東京23区)をみてみると、以下のようになっており、概ね1200~1500円といったところ。18時以降や土日、閉店までの勤務になると加算されるケースもあり、深刻な人手不足のためか履歴書の提出が不要という店舗もみられる。
・ガスト:1200~1500円
・デニーズ:1300~1400円
・サイゼリヤ:1300~1550円
・バーミヤン:1250~1563円
・ロイヤルホスト:1300~1690円
人材確保難と時給高騰に悩む飲食店にとって救世主になると期待されているのが、配膳ロボットだ。大手飲食チェーンでは、すかいらーくグループが全社的に導入を推進。2022年12月時点で「ガスト」「しゃぶ葉」「バーミヤン」「ジョナサン」などグループ店舗のうち、約2100店舗にPudu Robotics製ベラボットを約3000台導入。店員がロボットに料理を置いてテーブル番号を入力すると、ロボットが自動でテーブルまで運んで行き、客が料理を取ると自動で厨房に戻って来る。事前にロボットに各店舗のレイアウトを学習・記憶させる。店舗側は従業員負荷を低減でき、配膳以外の業務に人的リソースを割くことでオペレーションやサービス品質の向上を実現できるのに加え、ロボットは愛嬌のある猫型で一部を触ると声を出すなどの機能もあるため集客効果も見込める。
すかいらーくホールディングスの発表によれば、ロボットの導入により、ランチピーク回転率の2%上昇、片付け完了時間の35%削減、店員の歩行数42%削減などの効果が出たという。
トータルでみると安い?
そんなベラボットがECで約330万円で販売されていることが話題を呼んでいる。オフィス用品通販サイト「ASKUL」では5日時点、335万4982円(税込)で販売されており、10万3400円のサブスクリプションプランも提供されている。これをめぐりSNS上では以下のようにさまざまな声があがっている。
<300万もすんのか>
<新車の車買えるくらいの値段>
<死ぬほど安い、飲食業界の救世主>
<人件費比で安い>
<バイトより安い>
<人間みたいに文句言わない、交通費かからない、メンテナンスしていれば急な休みも言ってこない、いきなり辞めることもない>
自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「配膳ロボットが300万円というのは、飲食店にとって絶対値としては高いかもしれませんが、人件費や求人コストと比較してみると安いといえます。耐用年数によりますが、交通費もかからず、不平不満も言わず、バックレもなく毎日フルで働いてくれますので、コストとしても計算しやすい存在です。機械設備として仮に償却5年くらいで考えると年間60万円、月間5万円で、いつでも働いてくれる。飲食店で50万円ほどの食器洗浄機を導入するのと同じくらいメリットが見込めます」
外食チェーン関係者はいう。
「アルバイトに時給1200円で朝7時から23時まで16時間働いてもらうとして、一日1万9200円、1カ月で57万6000円になると仮定すると、330万円ということは6カ月で元が取れてしまう。導入時に必要となるロボットの設定作業や従業員へのトレーニングなどはそれなりに手間がかかるとはいえ、アルバイトの採用にも費用と手間がかかるため、トータルでみると驚くほど安いといっていい。飲食店には忙しい時間帯とそうではない時間帯があり、その濃淡に合わせてシフトを組むのは結構難しいものだが、ロボットだとボタン一つで稼働させられるのもありがたい。ただ、機械には故障が思わぬトラブルがつきものなので、頼り過ぎにはリスクがある」
大型店にとってはメリット大
飲食店にとって、配膳ロボットを導入するメリットは何か。逆にデメリットはあるのか。
「どこの飲食店でも配膳ロボットを導入したほうがいいのかといえば、店舗によります。広さやコスト感覚、接客に対する考え方などは、お店によって違うからです。配膳ロボットを導入するには、ある程度の広さや通路の確保が必要です。導線がしっかり確保されていないと導入後に邪魔になってしまいます。大型店にとっては、長期的な視点でのコスト面で導入はメリットがあると思います。話題性による集客力もメリットといえ、特に子どもも来店するファミレスとの相性はいいでしょう。
デメリットとしては初期投資の負担や配膳という単調な作業しかできないこと、お客から飽きられて無機質な存在になってしまうリスクもあります。いっときに比べれば集客力は薄れているでしょう。そのため、ロボットのコミュニケーション能力向上や対応パターンの進化も必要となってきます。
人手不足と人件費上昇のなかで多くのスタッフを必要とし、業務分担ができる大箱のお店ほど、ロボットの導入にメリットを感じて導入が進んでいくと考えられます。入店時に自動発券機でテーブルを指定され、席に座れば卓上に設置されたQRコードや端末を利用して注文し、料理は配膳ロボットで運ばれてきて、自動会計機で清算して退店するという大型店は今後、増えていくでしょう。一方、中小規模のお店やお客とのコミュニケーションを重視するお店、1人のスタッフが何役もこなさなくては回らないお店では普及は限定的になるでしょう」(江間氏)
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)