ファミレスチェーン店の2大トップといえば、「ガスト」と「サイゼリヤ」を思い浮かべる人が多いだろう。国内店舗数をみると、ガストが1281店(2023年9月末時点)、サイゼリヤが1069店(22年8月期時点)とファミレスで1000店舗を突破しているのはこの2チェーンのみであり、全国的にも圧倒的な知名度とシェアを誇っている。ではこの2チェーンに続く第3位はというと、「ジョイフル」がランクインしてくる。店舗数611店(23年10月末時点、FC、国外店舗、新業態含む)を構えるジョイフルは、全国的には馴染みがないエリアが多いかもしれないが、それもそのはず、九州で抜群のシェアを獲得しているチェーンなのだ。1979年に大分県で1号店を開店以来、九州を地盤に事業展開を続けており、現在の九州・沖縄エリアの店舗数は329店と総店舗数の半分ほどを占めている。
同エリアでガストが約90店、サイゼリヤが約30店であることを踏まえると、ジョイフルが九州でどれだけの強力な牙城を築いているかがわかる。実際に九州出身者に「ファミレスといえば?」と聞けば、多くの人々が「ジョイフル」と即答するほど地元住民の認知度は高いのだという。
ジョイフルは九州で競合チェーン進出の前に、ローカルチェーンとしての立場を確立したことが大きい。たとえばサイゼリヤは1973年に千葉県で1号店を開店した老舗チェーンだが、九州に進出したのは2010年のことで、ジョイフル開店から30年近く後となっている。そんなジョイフルの強み、そして弱みとは何か。フードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらう。
九州でのファミレス先発組、ファミリー層をメインに拡大
ジョイフルのメニューラインナップは、古きよきファミレスといった様相を呈している。ハンバーグ、ステーキ、パスタ、グラタン、定食、丼もの、餃子、ラーメンなど和洋中はもちろん、ライトミールからデザートまで典型的な「ファミレスらしい」メニューを提供しているのだが、これが強みなのだろうか。
「ジョイフルは、万人の好みに合わせたフラットなメニューラインナップが特徴的でして、価格もリーズナブルなことから日常的に通いやすいチェーンになっています。お昼時や休日にふらっと訪れやすく、大衆食堂的な雰囲気に近い。地域に密着する経営スタイルを貫いており、近隣住民が訪れやすい立地に出店しているのも来店動機の要因のひとつです。ファミリー層や高齢の夫婦、若者など複数人で訪れている割合が高く、幅広い客層から支持を得ています」(重盛氏)
ジョイフルは「日替りランチ」がリーズナブルなことでも有名。曜日ごとにハンバーグやチキンステーキ、しょうが焼きなどのメニューを味わえ、全品にライスかパンがセットで付いてくる。これで価格が500円(税込)。コストパフォーマンスに優れたメニューがある一方で、ジャンルも豊富なことから気軽に来店しやすい場所として好まれているのだろう。
そういったジョイフルのスタンスは、ガストが唐揚げブランド「から好し」とのコラボメニューを出したり、ミシュラン掲載店シェフとのコラボメニューを出したりして「ファミレスらしさ」から脱却しようとしているのとは対照的だ。
「ジョイフルの幅広い客層を取り込む戦略として、注目すべきは店内のテーブルです。近年のファミレス業界では、とにかく回転率を上げるために多人数席を廃止し、代わりに少人数席を増やして1~2人客などをターゲットに営業していこうとする傾向にあります。ガストが特に顕著で、コンセントの設置やWi-Fiの導入を進めており『カフェ化』してリモートワーク目的の客をつかもうとしています。
ですがジョイフルの店内は6人掛けのテーブル席がほとんど。コンセントの設置も少なく、机上にあるのはメニュー表ぐらいで純粋に料理を囲みながら食事を楽しんでほしいというコンセプトを感じます。そうしたコンセプトがファミリー層などの心をつかみ、客数を確保できているのでしょう」(同)
都市部には弱い…コロナ禍で打撃を受け200店閉店の衝撃
九州で地盤を固めた後、全国展開を続けたジョイフル。だが、西日本を中心に店舗展開できているものの、東北地方や北海道では未出店のエリアは多く、もしくは一度出店しても撤退してしまったというエリアもある。
「ジョイフルと同じ九州発のファミレスチェーン『ロイヤルホスト』は、高級感のあるメニューが特徴で、ハレの日に食べるにふさわしい店舗に仕上がっており、競合と差別化できています。しかしジョイフルのような日常的に利用してもらうというコンセプトの店は、ロイヤルホストのようにわかりやすい強みを打ち出すことができず、ニーズを獲得できないのかもしれません。その出店地域にもともと地元のニーズを獲得しているローカルチェーンがあって、ジョイフルがアンマッチしてしまっているケースも考えられます。
またジョイフルは東京、大阪、愛知などに進出できているものの、自動車で来店しやすいロードサイドでの出店がメインとなっており、都市部にはまだイマイチ進出できていないのです。やはり都市部では競合のガストやサイゼリヤが強く、切り込めていないという印象があります。現在のジョイフルのコンセプトやメニュー構成ですと、地元のローカルチェーンや都市部のガストやサイゼリヤと真っ向勝負するのは難しいでしょう」(同)
そしてジョイフルは、コロナ禍の外出規制や営業自粛により、大きな打撃を受けた企業のひとつでもあるという。
「ファミレス業界では、コロナ禍のテイクアウト時流に乗ることができないチェーンが多く、赤字が続きました。しかもジョイフルは、店舗に来てもらうことをコンセプトに据えた企業でしたので損害は大きく、約200店舗を閉店させる事態にまで追い込まれてしまっています。ジョイフルは商品力や価格競争で勝負しているチェーンではないので、すぐに売上が回復できる見込みは薄く、今後は収益体質を見直していく期間に入ると予想されます。
加えて、ジョイフルがこのままのコンセプトで営業するのであれば、ターゲット層を変更しなければなりません。未婚化、晩婚化が進むにつれて従来想定していたファミリー層の母数がどんどん減っていくことが予想されています。ですので改めて高齢者、若者など新しい客層を開拓していくことも視野に入れて、1人客や2人客にも選択肢のひとつとして認識してもらう戦略を取ることが必要かと思われます」(同)
九州随一のファミレスの雄は選択を迫られている。
(取材・文=文月/A4studio、協力=重盛高雄/フードアナリスト)
※本文中、特に表記がない情報はすべて10月30日現在のもの