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純資産5千億円で無借金「イトーヨーカ堂」争奪戦は当然…リストラ完了も魅力

文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト
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イトーヨーカ堂の店舗(「Wikipedia」より/ITA-ATU)

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)が進めている、GMS(総合スーパー)・イトーヨーカ堂や食品スーパー・ヨークベニマルをはじめとする非中核事業の売却。イトーヨーカ堂といえば近年は収益力の低さから「セブン&アイグループのお荷物」といわれ、海外投資ファンドから同グループからの分離を要求されたこともあったが、11月に締め切られた売却の1次入札には住友商事、米投資ファンドのベインキャピタルやKKRなど7社以上が応札。利益率が低いとされるスーパーマーケット業態、さらには業績低迷が続くイトーヨーカ堂をめぐって、なぜ争奪戦の様相が濃くなりつつあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 イトーヨーカ堂の業績は苦しい。直近では2024年2月期まで4年連続で最終赤字が続いており、26年までに33店舗を閉鎖する方針を固め、北海道・東北・信越地方からの撤退を発表。今後はGMSは首都圏に集中させる方針を示している。その収益力の低さから、かねてからセブン&アイグループの企業価値を低下させていると指摘されており、セブン&アイHDは15年には米サードポイント、22年には米バリューアクトからイトーヨーカ堂の分離要求を受けていた。

 業績低迷を受けてイトーヨーカ堂はリストラ策に取り組んできた。前述の店舗閉鎖のほかに、自社開発のアパレル事業からの撤退、700人の人員削減を実施。今月には、26年2月までに現在約6000人いる正社員の17%にあたる1000人規模の人員削減を行うと発表。ネットスーパー事業からも撤退する。

 事態が大きく動く契機となったのが、カナダの大手コンビニエンスストア運営会社、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイHDへの買収提案だ。8月、北米をはじめ世界約30カ国に約1万7000店舗を展開するACTがセブン&アイHDへ買収提案を行っていることが表面化。1株あたり14.86ドル(買収総額は約5.5~6兆円)で買収を提案し、これを受けセブン&アイHDは社外取締役で構成する独立委員会を設置して検討し、「潜在的な株主価値の短中期的な実現について著しく過小評価している」との理由で拒否。ACTは9月、1株あたり18.19ドル(買収総額は約7兆円)に引き上げて再提案を行ったが、米国の独占禁止法(反トラスト法)や、外資による日本企業への出資を規制する外為法に抵触する可能性もあり、先行きは不透明だ。

 セブン&アイHDはACTによる提案に賛同の姿勢を示さない一方、対抗策を重ねてきた。10月、事実上の買収防衛策として、傘下のイトーヨーカ堂やヨークベニマルをはじめとする非中核事業を連結子会社から外す方針を固めた。中間持ち株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立し、傘下にイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、赤ちゃん本舗、ロフト、「デニーズ」などの外食事業のセブン&アイ・フードシステムズなど非コンビニ事業会社を入れる。さらに、株式の過半を26年2月までに売却すると発表し、前述のとおり11月に締め切られた1次入札には7社以上が応札したとみられる。

EBITDAは550億円の見込み

 業績が低迷するイトーヨーカ堂をはじめ、非中核事業としてセブン&アイHDから切り離された新・中間持ち株会社に、総合商社の住友商事や海外の有力ファンドが興味を示している理由は何なのか。流通アナリストの中井彰人氏はいう。

「店舗閉鎖や人員削減のニュースが相次いだこともあり、イトーヨーカ堂が経営危機に陥っているかのようなイメージを持たれがちですが、経営指標を細かく並べてみると、実態は大きく異なります。まずストックベースでは、純資産は5000億円以上あり、ほぼ無借金といえる状態で、自己資本比率は70%を超えています。フローベースでは赤字の年もあるものの、ものすごく大きな赤字を計上することはなく水面の上下を行ったり来たりしている状況です。よって、『最近は少し収益力が弱っている普通の老舗企業』という表現が実態に近いのではないでしょうか。

 ここ数年で一気に不採算店舗や残しておくとマイナスの効果のほうが大きい地方の店舗を整理し、人員も1700人規模で削減し、大幅なリストラが完了して経営効率が改善された状態で売却されます。閉鎖する店舗は、残しておくと物流効率上コストが高くついてしまう地方の店舗と、1970~80年代頃に開業した首都圏の駅近の老朽化店舗で、狭い立地に複数階建てとなっているためお客にしてみると使い勝手が悪い時代遅れの店舗が大半です。こうした店舗を一気に閉鎖させることは大きな経営改善につながります。

 一方で、店舗価値向上に向けた施策も着実に進めています。たとえば食品売り場以外のフロアから自前の売り場を撤去し、カインズやダイソーとその新業態であるスタンダードプロダクツ、スリーピーといった外部の人気ショップを積極的にテナントとして入れ、アダストリアがイトーヨーカ堂のアパレルブランドとして手掛けるFOUND GOOD(ファウンドグッド)も展開しています。

 赤字解消のためにやるべきことをすべて実行した結果として、イトーヨーカ堂を含む首都圏スーパーストア事業はEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)ベースで26年2月期に550億円を見込んでおり、イトーヨーカ堂単体だけで年間売上高は約8000億円もあります。加えて、セブン&アイグループのプライベートブランド(PB)『セブンプレミアム』の開発をリードした商品開発能力、そして店舗オペレーション能力の高さに定評があり、約2000億円の純資産を持つヨークベニマルもついてくるとなれば、『欲しい』と考える企業が多く現れて争奪戦となるのも不思議ではないでしょう」

住友商事は食品事業の川下として活用できる

 では、株の取得を狙う企業は、どのような成長戦略を描いているのか。

「たとえば住友商事であれば、自社で手掛ける食品事業をはじめとする各種事業の川下として活用することもできるでしょうし、引き続き一定の株式を保有するセブン-イレブンの新保有会社との関係を使ってセブン-イレブンの商材に食い込めるかもしれません。そうなれば、イトーヨーカ堂も含めてイオンをも上回る巨大な流通網を手に入れられる可能性も出てきます。住友商事が保有する食品スーパーのサミットとのシナジーも期待できます。

 一方、ファンドであれば、最終的には企業価値を向上させて他社に売却したり上場するというイグジット戦略を描くことになるでしょうし、西武・そごう売却で見せたファンドの動きのように、不動産として活用する手もありますし、エリアやさまざまなかたちで利益をあげることを考えているでしょう。事業ごとに細分化して、欲しがる企業へ売却するという手もあります」(中井氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、流通関連での執筆活動を本格化、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT等で執筆、連載中。
中井彰人

Twitter:@nakajalab

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