価格が割高で量が少ないというイメージが広がっていたコンビニエンスストアチェーン「セブン-イレブン」の食品類で、価格が割安で『具がぎっしり』の量が多い商品が増えていると話題を呼んでいる。先月には従来4個入りだった「つぶあんパン」を5個に増量して値下げした「セブンプレミアム つぶあんパン 5個入」(170円)を発売し、ネットニュースなどでも大きく取り上げられた。高クオリティという定評があるセブンだけに、コンビニ業界関係者からは「リーズナブルな価格で品質が高く、かつ量が多いとなれば、最強ではないか」という声も聞かれる。なぜセブンは“変心”したのかを追ってみたい。
全国に2万1615店舗(2024年9月末現在)を展開し国内コンビニ業界1位のセブン-イレブンは、競合するファミリーマートやローソンなどと比べて、価格がやや割高で量が少ないというイメージが消費者の間で抱かれている。実際に「おにぎり」は100円台後半~200円台のものが主流となり、弁当類も600円台のものも珍しくなくなっていた。また、セブンは2020年頃からたびたび「容器の底上げ」が話題となってきた。お弁当やパスタ、麺類などで底の一部が大きく盛り上がっている容器が使われていることに批判が続出。このほか、「sonnaバナナミルク」(20年発売)に透明の容器の一部にバナナのピューレを視認させるかのようなプリントが施されたり、「練乳いちごミルク」(21年発売)の透明なプラスチック製のカップに帯状に「いちご」の果肉ピューレを表現する赤色の塗装が施され、さらにカップ底部にも果肉が沈殿しているかのような塗装がなされ、「カップ詐欺」「優良誤認」だとの声が多数寄せられたことも記憶に新しい。
そんな「内容量をできるだけ少なくしようとしている」という印象を持たれていたセブンだが、少し前から徐々に割安な商品のラインナップを拡充させてきた。たとえば7月には、従来からある「味付海苔 炭火焼熟成紅しゃけ」(税込189円)の販売を継続する一方、「手巻おにぎり しゃけ」(138.24円)を発売。税抜価格は128円で120円台に抑えた。このほか、「手巻おにぎり ツナマヨネーズ」を138.24円で発売したが、従来151.20円で販売していた同名商品からの切り替えとなるため、事実上の値下げとなっていた。
9月には、手頃な価格の「うれしい値!」商品を拡充して9月末までに270アイテムを展開すると発表。「うれしい値!」商品として、従来の「五目炒飯」「麻婆丼」「バターチキンカレー」をリニューアルするかたちで348.84円で発売。また、牛乳やポテトサラダなどPB「セブンプレミアム」の一部商品も「うれしい値!」商品として扱う。
セブンの価格についていけなくなった消費者
こうしたセブンの変化の背景について、コンビニ業界関係者はいう。
「今年に入り、小幅ながら既存店売上高や利益が前年実績を下回る月が出始めるなど、業績低迷の兆候が見られるようになり、このまま客離れが加速してしまうことを懸念して価格戦略を転換させたのだと考えられます。セブンはこれまでじわりじわりと価格を上げてきましたが、ここ数年、消費者の実質賃金がずっと低下して家計が苦しくなるなか、ついに消費者もセブンの価格についていけなくなって離脱し始めたのでしょう」
持ち株会社セブン&アイ・ホールディングス(HD)の2024年3~5月期の連結決算は、国内コンビニ事業の営業利益が前年同期比4%減となり、既存店売上高が前年を下回る月も出ていた。また、24年6~8月度の既存店売上高はファミマとローソンはすべての月で前年同月比増となった一方、セブンは以下のとおりすべての月で前年同月を下回った。
・6月度:前年同月比99.5%
・7月度:同99.4%
・8月度:同99.8%
消費者からみたコスパ感を重視
セブンは割安な「うれしい値!」商品を拡充させるのに加え、従来の価格水準を据え置いたまま量が多い商品を相次いで投入している。今月29日、通常の「おむすび」より重量が約2倍、ご飯量が約1.5倍の「どーんとおむすび」シリーズを発売。直火で焼き上げたソーセージとオムレツに照焼タレとガーリックマヨネーズを添えた「どーんとおむすびポークたまご」(321円)、海苔弁当をイメージして白身フライ、ちくわ磯部揚げ、タルタルソースを入れた「どーんとおむすび のり弁」(270円)など、ボリューム満点の商品となっている。
このほか、今月22日には熱量が1000kcal超となる1116kcalの「ぎっしりおかずの和風弁当」(626.40円)を発売。ご飯に白身魚フライ、ちくわ磯辺天、唐揚げ、スパゲティが文字通り「ぎっしり」入った弁当で、一部SNS上では好評の声が続出している。
「セブンは同業のファミマとローソンに加え、コンビニより割安な価格の商品群を揃え、かつ総菜類のクオリティを近年上昇させているスーパーマーケットとも競合しており、そのなかで客に『セブンの商品は付加価値が高い』と認識してもらい足を自店舗に向けてもらう必要があります。そのための施策として力を入れている取り組みの一つが店内調理の食品で、昨年には『お店で揚げたカレーパン』、今年にはピザ、『お店で揚げたドーナツ』を相次いで投入し、9月には現在一部店舗で販売中の店内焼きたてパン『セブンカフェ ベーカリー』の取り扱いを全国3000店舗に拡大すると発表しました。
そしてもう一つの施策が、内容量が大きくお得感のある総菜類ということだと考えられます。
また、大きな背景としては、セブン&アイHDは現在、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受けており、事実上の買収防衛策としてGMS(総合スーパー)のイトーヨーカ堂や食品スーパー・ヨークベニマルなどを連結子会社から外す方針を示しており、これまで以上にコンビニ事業依存が高まります。そのため、コンビニ事業を絶対的な利益の源泉としていく必要に迫られており、業界王者のセブンも消費者からみたコスパ感、お得感を重視した商品に注力せざるを得なくなっています。そしてセブンが今の高いクオリティを維持したまま量も多めの商品を多数投入していけば、ある意味ではコンビニ業界では最強といえるかもしれません」(コンビニ業界関係者)
(文=Business Journal編集部)