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ヨーカ堂=経営危機の嘘…セブンイレブンとセブン&アイに必要不可欠な存在

文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト
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イトーヨーカ堂の店舗(「Wikipedia」より/ITA-ATU)

 24年2月期まで4期連続で最終赤字となり、26年2月期までに全国の店舗を約2割減らすなど苦戦が続く総合スーパー(GMS)・イトーヨーカ堂。同社と同じくセブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下のコンビニエンスストアチェーン・セブン‐イレブン・ジャパンはコンビニ業界で揺るがないトップの座を確立させているが、なぜセブン&アイHDはセブン‐イレブンの経営には成功している一方、それより前に始めた祖業のイトーヨーカ堂の経営は苦戦しているのか。専門家は「セブンが成功、イトーヨーカ堂は失敗」という単純な図式ではないと指摘する。ヨーカ堂の再建のカギを探ってみたい。

 1920年(大正9年)に東京・浅草で開業した洋品店「羊華堂」を発祥とするイトーヨーカ堂は1958年(昭和33年)に株式会社ヨーカ堂として設立。創業家のセブン&アイHD元名誉会長の故・伊藤雅俊氏は66年頃から本格的にスーパーのチェーン展開を進め、68年には現在のイトーヨーカドーにつらなる大型店舗を開業。その後、急速に店舗網を拡大させ、海外出店やショッピングモール出店なども進めてきた。

 一時は182店舗(2016年2月末時点)を展開し、国内GMS市場ではイオングループ(イオン、イオンモール、イオンタウン、イオンスタイルなど)に次ぐ存在だったが、業績悪化に伴い店舗数も縮小。23年3月には、26年2月期までに全国の店舗を2割以上減らす方針を発表し、今年2月には北海道・東北・信越地方の全17店舗を閉鎖して各地方から撤退することを表明。先月には関東・中部の5店の閉鎖も発表し、25年2月までには100店舗を割り93店舗体制となる予定。

 昨年3月には自社アパレル事業からの撤退を発表し、今年1月には45歳以上の正社員を対象とする早期退職の募集を開始。構造改革を進めているが、店舗数の削減とあわせて規模縮小の方向に向かっているようにみえる。

 24年2月期決算は、売上高にあたる営業収益が8149億6400万円(前期比11.7%増)、営業利益は12億500万円の赤字、当期純利益は259億6300万円の赤字となっており、純利益は4年連続の赤字。

セブン‐イレブンは業績好調

 一方、業績的にはセブン&アイ・グループを支える存在なのがセブン‐イレブンだ。1974年に国内1号店をオープンして順調に店舗数を増やし、2001年にはチェーン全店売上が国内小売業としては1位となった。今年8月末現在、全国に2万1628店を展開し、国内コンビニ業界では2位のファミリーマートを大きく引き離す。業績は好調で、24年2月期決算は営業総収入が8946億5900万円(前期比2.5%増)、営業利益は2510億2900万円(同7.8%増)、当期純利益は2111億200万円(同4.0%)。チェーン全店の売上(国内)は5兆3452億300万円に上る。

“何もしなくても客が来る”が仇に

 15年には株主の米投資ファンド・サードポイントから、23年にはバリューアクト・キャピタルからセブン&アイHDはヨーカ堂の分離を要求されるという事態も起きたが、同じセブン&アイ・グループながらセブンとヨーカ堂の明暗が生まれた要因は何なのか。流通アナリストの中井彰人氏は、そもそもヨーカ堂は赤字ではあるものの経営が揺らいでいるわけではないと指摘する。

「まず前提として、ヨーカ堂は赤字ではあるものの、今年2月末現在の自己資本比率は70%を超えており、これはGMS業界ではトップクラスの数字であり、現時点では経営が破綻する懸念はありません。今年2月には首都圏の店舗に向けて商品を供給する巨大なセントラルキッチンを千葉県に稼働させるなど、多額の投資を行う余裕もあります。現在は黒字化のために不採算店舗や将来的に収益が見込めない店舗を整理している状況であり、北海道や東北の店舗を閉鎖するのも、今後は首都圏に注力していくという戦略に則ったものです。チェーンストア業態は物流拠点から各店舗に商品を搬送する必要があるため、経営効率向上の一環として商圏を絞る戦略に転換したのだと考えられます。

 すでに国内ではGMSという業態はすでに限界を迎えており、20年ほど前には西友やマイカル、長崎屋など多くのGMSが破綻し、最後まで生き残ったのがイオングループとヨーカ堂だといえます。イオングループは、食品以外の売り場には積極的に他社の専門店をテナントとして入れてモールを形成するという戦略で生き残りに成功しました。これはテナントから賃料を得ることで収益の安定化につながり、自社で在庫を抱えるリスクも低減できます。現在では全国にイオンモールをはじめとするGMSを展開しています。

 一方、ヨーカ堂は首都圏の駅前をはじめとする非常に良い立地に店舗を構えていたため、“何もしなくても客が来る”という状態が続きました。それが災いとなり店舗が老朽化し、加えてオーケーやライフといったライバルが力をつけて駅近にも出店するようになり、ついにヨーカ堂も追い込まれて大量の店舗閉鎖をはじめとするリストラに着手せざるを得なくなりました」

SIPストアに活路

 では、ヨーカ堂の今後、どのように生き残っていくのか。

「不採算店舗などを一気に閉鎖するため、収益が改善して黒字に転換するのは確実でしょう。その上で、スーパーとコンビニの中間的な店舗、ミニスーパー的なSIPストアに注力していくと考えられます。SIPストアの代表格であり成功例といえるのがイオングループの『まいばすけっと』ですが、ヨーカ堂は『まいばすけっと』より大きめの店舗で品揃えをより充実させた店舗を構想しているようです。『まいばすけっと』の成功により、徒歩で手軽に行けるミニスーパー型店舗のニーズが高いことはすでに実証されていますが、ヨーカ堂のSIPストアの成否のカギを握るのが、セブン&アイ・グループとしてヨーカ堂の持つ生鮮食品のノウハウとセブン-イレブンが持つコンビニ経営のノウハウをどこまで掛け合わせて相乗効果を生めるかという点でしょう。

 人件費の高騰や人手不足が今後ますます深刻化し、バックヤードの調理場をはじめ大勢の従業員を必要とする従来型のスーパーマーケットの経営は非常に苦しくなると予想されます。一方、セブン&アイ・グループはすでに食品製造・加工拠点やセントラルキッチンを持ち、豊富な資金力を背景にそうしたインフラを新設し、さらにはバックヤードを持たないSIPストアを大量に出店できる余裕があるという点も強みになってきます。

 スーパー事業の存在がセブン&アイ・グループの重荷になっているという指摘がなされることもありますが、たとえばセブン‐イレブンで展開されている『セブンプレミアム』などのプライベートブランド(PB)の食品には、グループ企業ヨークベニマルのノウハウが投入されており、スーパー事業はグループにとってなくてはならない存在です。また、グループ各社の店舗・事業オペレーションにはグループ会社のヨークベニマルのノウハウが活用されており、同社はヨーカ堂の再建にも深く関与するなど、グループ一体経営がセブン&アイの強みでもあります。SIPストア事業というスーパーとコンビニの機能を融合した業態の実現が、セブン&アイ国内事業を再び成長させる起死回生の一策となりえます。今後数年間でグループとしてどのような取り組みをしていくのかが注目されます」(中井氏)

(文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

中井彰人/流通アナリスト:取材協力

みずほ銀行産業調査部で小売・流通アナリストに12年間従事。2016年退職後、中小企業診断士として独立、開業。同時に、流通関連での執筆活動を本格化、TV出演、新聞、雑誌などへの寄稿、講演活動などを実施中。2020年よりYahoo!ニュース公式コメンテーター、2022年Yahoo!ニュースオーサーを兼務。主な著書「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、東洋経済オンライン、ダイヤモンドDCSオンライン、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT等で執筆、連載中。
中井彰人

Twitter:@nakajalab

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