業績不振が続くイトーヨーカ堂のアパレル売り場が息を吹き返していると話題を呼んでいる。同社のアパレルブランド「FOUND GOOD(ファウンドグッド)」を手掛けるのは、実はアパレル企業であるアダストリア。自社ブランドの店舗も数多く展開するアダストリアは、なぜヨーカ堂のアパレル部門を担っているのか。そして、果たしてヨーカ堂のアパレル売り場は復活できるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
ヨーカ堂が運営する「イトーヨーカドー」は全国に126店舗を展開(2022年度)。昨年9月にセブン&アイHD傘下のヨークを吸収合併し、現在の従業員数は3万を超える。1920年(大正9年)に東京・浅草で開業した洋品店「羊華堂」を発祥とするヨーカ堂は1958年(昭和33年)に株式会社として設立。創業者でセブン&アイ・ホールディングス(HD)元名誉会長の伊藤雅俊氏は66年頃から本格的にスーパーのチェーン展開を進め、68年には現在のイトーヨーカドーにつらなる大型店舗を開業。その後、急速に店舗網を拡大させ、海外出店やショッピングモール出店なども進めてきた。
だが2000年代に入ると業績が低迷し不採算店舗の閉店などに着手。15年にはセブン&アイHDが株主の米ファンド、サード・ポイントからヨーカ堂の分離独立させるべきだと要求される事態に。その後も業績は上向かず、昨年3月には26年2月末までに全体の4分の1にあたる33店舗を削減する計画を発表。すでに北海道と東北からの撤退を発表しており、23年2月期まで3期連続で最終赤字。今年1月からは事実上の人員削減策である転職支援制度を始めるなどリストラに着手し、全正社員の約1割にあたる700人が退職する。
今月には、セブン&アイHDがヨーカ堂などのスーパー事業の株式を26年以降に一部売却する方針であることが明るみに。スーパー事業を新規上場させることも検討している。
「セブン&アイHDは昨年に百貨店の『そごう・西武』の売却を完了させ、全額出資子会社のバーニーズジャパンもラオックスホールディングスに売却し、不採算事業の縮小・切り離しを進めており、残るヨーカ堂をどうするのかが経営課題となっていた。ヨーカ堂は業績不振とはいえ売上高は1兆円以上あり、3万人にも上る従業員の雇用の問題もあり、すんなり撤退するわけにもいかない。スーパーは都道府県ごとに強い地場のスーパーがあり地域特性が強いこともあり、全国に店舗が散らばっていると一括で引き取ってくれる企業は出にくい。そこで北海道と東北からの撤退や人員削減などのスリム化を進めて、外部資本受け入れに向けた布石を打ってきた」(小売業界関係者)
ファウンドグッドはヨーカ堂復活の起爆剤になるのか
過渡期を迎えたヨーカ堂の動きとして注目されているのが、新たにファッション売り場として立ち上げたファウンドグッドだ。ヨーカ堂は昨年に自社アパレル事業から撤退しており、その代わりにアダストリアと協業するかたちでファウンドグッドを展開。商品の企画・製造、売り場づくりをアダストリアに委託。「ヨーカ堂のアパレル売り場が変わった」「復活しつつある」と業界内でも話題となっているのだ。
アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏はいう。
「アダストリアは2022年に広島を主戦場とするGMS(総合スーパー)のイズミと協業し、イズミ店内でアパレルブランド『SHUCA(シュカ)』を展開するなど、他業態のアパレル事業のプロデュースを請け負うビジネスに力を入れています。一方のヨーカ堂は不採算店舗の一部を大手不動産ヒューリックとの協業で『LICOPA(リコパ)鶴見』にリニューアルして複数の専門店を並べるという取り組みをしています。今回のファウンドグッドは、こうした両者の取り組みの延長線上にあるといっていいでしょう。
アパレルのコングロマリット企業であるアダストリアは売上高2756億円(2024年2月期)で、ファーストリテイリング、『しまむら』に次ぐ業界3位。全国に214店舗を展開する『グローバルワーク』(売上高516億円)、141店舗の『ニコアンド』(335億円)、78店舗の『ラコレ』(108億円)などが主力ブランドで、昨年春にはグローバルワークの派生ブランドとして価格帯も店内の雰囲気も量販店に近い『グローバルワークスマイルシードストア』を立ち上げています。ヨーカ堂のファウンドグッドの品揃えはラコレに似ているという印象です。ファストリのユニクロ、GUや『しまむら』の強みは衣類はもちろんのこと靴下や肌着などを含む日用品が充実している点ですが、この部分はアダストリアのブランドはやや弱い。ヨーカ堂はアパレル事業からは撤退したものの肌着などの日用品は引き続き自社で手がけており、アダストリアには日用品以外のアパレルをお願いしているかたちです。こうなると、アパレルから肌着、雑貨まで一つの店舗で買えて、かつ信頼度の高いユニクロなどのほうが消費者から選ばれやすくなってしまいます。
実際にイトーヨーカドーの木場店と松戸店のファウンドグッドを観察してみましたが、たくさんお客が集まって活況を呈しているという状況ではありませんでした。木場店はエスカレーターを降りてファウンドグッドの奥のほうにユニクロがあるのですが、人の流れとしてはファウンドグッドの前を素通りしてユニクロに吸い込まれていくという状況でした。まだ立ち上がったばかりでブランドの認知度が低いということもありますが、ファウンドグッドによってヨーカ堂のアパレル売り場が復活に至るには、これからかなり頑張らなければ厳しいというのが正直な感想です」
ファウンドグッドの認知度アップに向けた課題について磯部氏はいう。
「アダストリアのブランドの世間的な認知度は、あまり高いとはいえないのではないでしょうか。同社のEC販売は689億円で、全体の売上を考えるとEC比率はそこそこあるものの、他社EC経由での販売が全売上の28%なのに対し、自社EC『.st(ドットエスティ)』経由は15%ほど。テレビCMを打ったりOMO型リアル店舗『ドットエスティストア』を出店するなど力を入れているものの伸び悩んでいます。なのでマス向けに強い訴求力を発揮して高い認知度を獲得することに長けているという印象は薄いです」(磯部氏)
ではファウンドグッドがヨーカ堂復活の起爆剤になる可能性はあるのか。
「業態的に厳しいといわれるGMSのイオンにしてもヨーカ堂にしても、食品売り場の競争力が集客の要になっていると思いますが、低価格を武器とする食品スーパーのオーケーやベルク、ライフ、ヤオコーなどが存在感を増しており、こうしたスーパーと同じ建物にパシオスや『しまむら』など人気アパレルチェーンが軒を並べるというケースも出てきています。こうした形態に対し、ヨーカ堂が店内にファウンドグッドを持ったとしても優位性を保つためには、アダストリアの持っているブランドプロデュース力を存分に発揮させ、競合施設とは違った魅力を創り出して戦っていかなけばならないと思います」(磯部氏)
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)