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ヨーカ堂が進出し周辺の店がなくなる→収益悪化で撤退…「無責任すぎる」批判

文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト
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イトーヨーカ堂の店舗(「Wikipedia」より/ITA-ATU

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下のイトーヨーカ堂は9日、北海道・東北・信越地方の17店を閉店すると発表。同エリアから撤退する。一部店舗はOIC(オイシー)グループやセブン&アイグループのヨークベニマルに譲渡されるが、閉店後について未定の店舗もある。そのため、かつて大規模店舗であるヨーカ堂の出店に伴い周辺の小規模店が減ったエリアでは買い物難民が発生する懸念もあり、ヨーカ堂に対し「無責任」「許されるのか」といった声もあがっている。なぜヨーカ堂は一斉閉店に至ったのか。業界関係者の見解を交え追ってみたい。

 ヨーカ堂が運営する「イトーヨーカドー」は全国に126店舗を展開(2022年度)。昨年9月にセブン&アイHD傘下のヨークを吸収合併し、現在の従業員数は約3万を超える。1920年(大正9年)に東京・浅草で開業した洋品店「羊華堂」を発祥とするヨーカ堂は1958年(昭和33年)に株式会社として設立。創業者でセブン&アイHD元名誉会長の伊藤雅俊氏は66年頃から本格的にスーパーのチェーン展開を進め、68年には現在のイトーヨーカドーにつらなる大型店舗を開業。その後、急速に店舗網を拡大させ、海外出店やショッピングモール出店なども進めてきた。

 だが2000年代に入ると業績が低迷し不採算店舗の閉店などに着手。15年にはセブン&アイHDが株主の米ファンド、サード・ポイントからヨーカ堂の分離独立を要求させるべきだと要求される事態に。その後も業績は上向かず、昨年3月には26年2月末までに全体の4分の1にあたる33店舗を削減する計画を発表。23年2月期まで3期連続で最終赤字に陥っており、今年1月からは事実上の人員削減策である転職支援制度を始めるなどリストラに着手している。流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。

「ヨーカ堂は主に駅前や中心市街地に箱型のGMSを展開してきたこともあり、郊外の大規模なショッピングモールなどの展開で出遅れた。かつてヨーカ堂の食品スーパー部門は強く、他のスーパーからお手本にされたが、徐々に弱体化した。ユニクロやニトリといった低価格の専門店チェーンの台頭を受けてGMSという業態全体が苦しくなるなか、セブン&アイHDは16年にヨーカ堂の事業構造改革計画を含む『100日プラン』を発表し、店舗閉店・改装や衣料品・住居関連商品の売り場削減、直営からテナントへの切り替えなどを進めると掲げたが、スピードが遅く十分な投資もできなかった。思い切った改革をできなかった背景には、ヨーカ堂がセブン&アイグループの祖業であり、井阪隆一社長がコンビニ事業出身のためヨーカ堂事業の状況を詳しく把握できていなかったという面も影響したのかもしれない。

 セブン&アイHDはヨーカ堂の再上場を目指すとしているが、現状を見る限り再建はかなり難しいと感じる。首都圏の食品スーパーに特化して、地方の店舗は他社への譲渡などを通じて徐々に縮小させていくものと思われる」

ヨーカ堂事業からの撤退は簡単ではない

 もっとも、セブン&アイHDの業績は悪くない。24年2月期第2四半期(23年3〜8月)決算は、売上高にあたる営業収益が5兆5470億円(前年同期比1.8%減)、営業利益は2411億円(同2.7%増)で同四半期の営業利益としては過去最高を記録。それを支えるのは北米のコンビニ事業「7ーEleven、Inc.」と国内コンビニ事業「セブン-イレブン」だ。

「セブン&アイグループの足を引っ張っていたのが、百貨店の『そごう・西武』とヨーカ堂。そごう・西武は紆余曲折の末に昨年に売却を完了させ、残るはヨーカ堂となった。26年2月末までに黒字転換するとの構造改革計画を発表しているが、これを信じる向きは少ない。

 ヨーカ堂に限らず、食品から衣料品、日用品までを幅広く扱うGMS(総合スーパー)はどこも苦戦中だ。イオンですら低い利益率を脱出できず、単体では営業損益ベースでは赤字と黒字をいったり来たりしている状態。スーパー事業とコンビニ事業は一見似ているが、実態としては違い大きく、相乗効果を生むのは難しい。イオンもコンビニの『ミニストップ』を展開しているが、店舗数は伸びずコンビニ市場で存在感は薄い」(流通業界関係者)

 セブン&アイHDは昨年、全額出資子会社のバーニーズジャパンをラオックスホールディングスに売却するなど、矢継ぎ早に不採算事業の縮小・切り離しを進めてる。

「北米コンビニ事業も減速の兆候があり、国内コンビニ事業も業界全体で店舗数が飽和し過当競争に突入しており、強い危機感を持っている。また、グループの総帥だった鈴木敏文元会長兼CEOが退任して時間がたち、創業者である伊藤雅俊氏が昨年亡くなったという要素も大きい。そごう・西武とバーニーズの取得を決断したのは鈴木氏であり、またヨーカ堂はセブン&アイHDの祖業。2人の存在感が大きければ、いくら不採算事業といえども大ナタを振るうことは難しい。足かせがなくなった今、セブン&アイHDがヨーカ堂事業から撤退するのは時間の問題だという見方もある。

 だが、ヨーカ堂事業からの撤退は簡単ではない。まず3万人にも上る雇用をどうするのかという問題。そして全国に散らばる店舗数の多さだ。スーパーは都道府県ごとに強い地場のスーパーがあったりして、地域特性が強い。全国の店舗を一括で引き取ってくれる企業が現れるとは考えにくく、地域ごとに譲渡・売却先を見つけなければならない。今回の北海道・東北・信越の撤退は、その序章といえる」(流通業界関係者)

ヨーカ堂の相対的な魅力が低下

 ヨーカ堂は今回閉店する店舗について、一部を格安スーパーとして知られる「ロピア」の運営会社OICやセブン&アイグループで東北地方を地盤とするヨークベニマルに譲渡するが、譲渡先が未定の店舗もある。店舗自体がなくなったり別の用途の施設になる可能性もあるが、過去に大型店であるヨーカ堂が出店した影響で周辺の小規模店舗がなくなり、買い物が困難になる人が生まれるとの指摘も出ている。SNS上ではヨーカ堂に対し次のような批判的な声も続出している。

<責任を取らず収益悪化だけで「撤退しま~す」って許される?>

<地域の小売り業を軒並みブチ壊してからの撤退…>

<残された住民はどうなる?>

 こうした声について前出・西川氏はいう。

「今回閉店を発表した店舗も大半は他社に譲渡することでスーパーという業態の店舗を存続させようと努力はしている。お年寄りなどの周辺住民が買い物をできる場所が減ってしまうという批判はもっともだが、企業である以上は利益を出さなければならず、撤退する自由があるのも事実。撤退することで他の店舗に小売りという機能を託すというのも現実的な選択肢の一つだ」

 流通業界関係者はいう。

「ヨーカ堂が出店した当時、一カ所でさまざまものが比較的安く買えるということで周辺住民から支持され高い集客力を誇っていたかもしれないが、近年では地方にショッピングモールをはじめとする大規模な商業施設や、ファストファッションチェーンをはじめとする安価で商品力の強い専門店が数多く進出し、また地域に密着するスーパーも増え、ヨーカ堂からそうした店舗に客が流れているという面も強い。ようは、各地域でヨーカ堂の相対的な魅力が低下し、競争力が低下したということ。今では一定の規模の地方都市であれば、人々が車で行ける範囲にイオンモールやユニクロ、家電量販店、ニトリなどの家具量販店、ホームセンター、そして品揃え豊富な食品スーパーなどがいくらでも揃っている。

 今回閉店が発表された店舗も半数以上は譲渡先が決まっていることから、立地が悪いというよりは、単純にヨーカ堂の実力がどうしようもないくらいに落ちてしまったということだろう。すでにセブン&アイHDとしてはヨーカ堂の再建というフェーズを通り過ぎ、どうクローズしていくのかという局面に入っているという印象を受ける」

(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

流通ジャーナリスト。マーケティングプランナー。慶応義塾大学卒業。大手スーパー西友に勤務後、独立し、販促、広報、マーケティング業務を手掛ける。流通専門紙誌やビジネス誌に執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。

Twitter:@nishikawaryu

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