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営業利益2700億円、2期連続最高益のイオン…3重苦でも収益を生む「裏の設計図」

2026.05.25 06:00 2026.05.25 00:03 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント
営業利益2700億円、2期連続最高益のイオン…3重苦でも収益を生む「裏の設計図」の画像1
イオンの店舗(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
イオンの2026年2月期決算は営業収益10.7兆円・営業利益2,704億円と過去最高を更新。その要因をPBトップバリュの垂直統合戦略、ディベロッパー(営業利益709億円・前期比+33.7%)とヘルス&ウエルネス(同523億円・+45.4%)による複合収益モデル、レジゴー導入による人材再配置の3軸から分析し、あらゆる企業が応用できる収益構造設計の本質を解剖する。

 人件費・原材料の高止まり、少子高齢化による市場縮小、ECと専門店の台頭——。流通・小売業にとってこれほど厳しい経営環境は近年まれだ。それにもかかわらず、イオングループが2026年2月期(2025年3月〜2026年2月)の決算で、営業収益10兆7,153億円(前期比5.7%増)、営業利益2,704億円(前期比13.8%増)と過去最高を更新した事実は、業界内外に強いインパクトを与えた。

 ただし、「物価上昇の追い風があった」「規模の経済が効いた」という表面的な説明だけでは、この業績を正確には理解できない。本稿では、セグメント別データと構造改革の実態に踏み込み、この最高益を生んだ「3つの設計思想」を解剖する。

●目次

「安売り」ではなく「調達の垂直統合」…プライベートブランドの本当の役割

 プライベートブランド「トップバリュ」は今期、グループ合計で前期比110%の売上高を記録し、PB構成比を大幅に拡大した。市場では「物価高で節約志向の消費者がPBに流れた」と説明されることが多いが、それだけでは利益構造の改善を説明できない。

 鍵となるのはサプライチェーンの垂直統合だ。イオンは「ベストプライス」ラインで価格を抑えながら、一方で品目数の絞り込みと製造ロットの拡大によってメーカー側の稼働効率を高め、仕入れ単価を圧縮している。少品種大量生産のモデルを意図的に設計することで、「安価でも粗利率は担保できる」という矛盾を解消している。

 さらに「グリーンアイ」(オーガニック・健康志向)や「セレクトプラス」(品質強化)といった付加価値型ラインを同じPBブランド群として展開する多層構造は、節約志向と品質志向という消費の二極化を1ブランド内で受け止める仕組みだ。

 流通業のコンサルタントとして小売企業の収益改善を長年支援してきた戦略コンサルタントの高野輝氏はこう指摘する。

「一般的にPBは『NBより安い』という価格訴求だけで語られがちですが、イオンのPB戦略の本質はコスト構造の設計にあります。調達段階から利益率をコントロールできるアセットを自社で握ること——これが、原材料高が続く中でも粗利を改善できた最大の理由です」

GMSは「集客インフラ」…真の稼ぎ頭はディベロッパーとヘルスケア

「イオンは総合スーパーの会社」というイメージは、実態と乖離しつつある。2026年2月期の決算を見ると、ディベロッパー事業(イオンモール)の営業利益は709億円(前期比33.7%増)で過去最高、ヘルス&ウエルネス事業(ウエルシア等)は営業利益523億円(同45.4%増)と突出した伸びを示した。対してGMS(総合スーパー)は二桁増益とはいえ、利益額や利益率の絶対水準は依然低い。

 このセグメント構造を俯瞰すると、イオンが構築しようとしているモデルが見えてくる。GMSは高い集客力を持つが利益率は低い「フロントエンド」であり、そこへ引き寄せた顧客からテナント賃料(不動産収入)、イオンカードの決済手数料・金融収益、調剤薬局を中心とする高粗利のヘルスケア消費という形で複合的に収益を回収する構造だ。

「GMSを集客装置として位置づけ、利益は周辺事業で刈り取るというモデルは、流通業では教科書的な考え方ですが、これを10兆円規模で実装できている企業は国内では事実上イオンだけです。特にヘルス&ウエルネスの利益成長は、高齢化という長期トレンドをそのままビジネスモデルに転写した結果ともいえます」(同)

 原材料高騰が直撃する食品小売単体では利益を出しにくい局面でも、サービス・金融・不動産がバッファとなる。この「リスク分散の設計」こそ、3重苦を乗り越えた構造的な理由だ。

省人化の目的は「人件費削減」ではなく「人材の再配置」

 2020年から展開を開始した顧客自身がスマートフォンでバーコードをスキャンして精算する「レジゴー」は、2024年6月に300店舗を突破した。注目すべきは単純な「レジ人員の削減」にとどまらない効果だ。イオンリテールが明らかにしているデータによれば、レジゴー利用者の客単価は通常レジ比で約1.3倍高く、買い上げ点数も有人レジ比で15%増加するという。

 この数字は、レジ待ちから解放された顧客が売り場での回遊時間を増やしていることを示唆している。一方で、レジ業務から解放された従業員は惣菜製造や売り場管理など、より高付加価値な業務に再配置される。つまりレジゴーは「コスト削減ツール」ではなく「人的資源の再配置インフラ」として機能しているのだ。

 加えて、発注・見切り値引きのAI化も進んでいる。長らくベテランの経験知に依存してきたこの領域をアルゴリズムに移行することで、食品廃棄ロスの削減と粗利率の改善を同時に狙う取り組みは、今期の「GMS二桁増益」の要因の一つと見られる。

光の裏側…最高益が覆い隠す構造的リスク

 公正を期すため、課題も直視しなければならない。

 まず、SM(スーパーマーケット)・DS(ディスカウントストア)・総合金融は増収ながら今期減益となっており、グループ内での稼ぐ力の格差は拡大している。ヘルス&ウエルネス分野ではウエルシアとツルハの統合推進が続いているが、統合コストや競合との消耗戦が今後の利益を圧迫するリスクもある。

 次に、地方インフラ化の進行という問題がある。地方でイオンモールが唯一の商業施設となったエリアは増えているが、その地域自体の人口減少・購買力の低下は長期的な収益のリスクだ。集客力を背景にした不動産モデルが持続するには、来店需要の維持が前提となる。

 そして、2027年2月期の業績見通しについて同社は「個人消費は緩やかな回復を見込む一方、物価上昇の影響の残存やエネルギーコストへの懸念が続く」と慎重な姿勢を示している。現在の収益改善は構造改革の蓄積が実を結んだものだが、次の成長ドライバーとして海外事業や新領域でのビジネスモデル構築が問われる局面が来る。

イオンから学ぶべき3つの問い

 最後に、イオンの経営設計から抽出できる普遍的な教訓を整理する。

「自社の『トップバリュ』は何か?」 単なる値下げではなく、調達・製造に深く関与してコストをコントロールできる自社ブランド資産を育てられているか。価格競争からの脱却は、販売側の努力よりも仕入れ構造の設計で決まる。

「集客とマネタイズを切り離しているか?」 コスト高の時代、すべての商品・サービスから均一に利益を取ろうとする発想は通用しない。集客のための「薄利・赤字部門」を、金融・情報・サービスなどストック型の高利益部門で回収する複層的な収益設計が求められる。

「デジタル投資の目的を問い直しているか?」 省人化で浮いたコストをそのまま利益に落とすのか、それとも解放された人材を自社の強みに再投資するのか。この問いへの答えが、DX投資の「効率化止まり」と「付加価値創出」を分ける分岐点となる。

 10兆円を超えるグループが成し遂げた最高益の裏には、規模の経済だけでは説明できない「収益構造の設計思想」があった。その本質は、大企業にも中堅・中小企業にも等しく問いかけるものだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

公開:2026.05.25 06:00